範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
殺風景な一室だ。
デスクの上のモニター、パイプ椅子が三脚、ファイルが詰まった本棚が二つと、列なった鍵付きのスチールロッカーが六つ。
天井に蛍光灯の照明。
小さな窓に、安物の白いカーテンが掛かっている。
電話とデスクトップのパソコンが乗った棚が窓の下に、窓と天井の間に空調があるだけの簡素なオフィスだった。
そのモニターには、ある場所の監視カメラがリアルタイムで送ってくる映像を流していた。
竹内政信の“倉庫”の映像だ。
それを見詰める三人の男。
それぞれ、パイプ椅子に腰を下ろしている。
モニターの真正面には、口髭を蓄えた男。
彼の右隣に疵面の男、左隣に中国服を着ている男が座している。
倉庫の映像を観ていた理由としては、邪淫勁・悪樓が新たな性欲処理人形を調教していたからだ。
政信がそれに飽きた後に、買い取る事になる。
その品定めの意味合いがあった。
解体するか、或いは中国の山村に売るか、別の性奴隷として海外に売るか、今後の商品展開を考える上で、少女の容姿や出来映えを確認していたのだ。
疵面の男は源王会の人間だ。
襟に飾られた代紋からも分かる。
口髭の男は、道着を身に付けている。
道着の左胸辺りに神心会と黒字で刺繍されていた。
黒帯だ。
全国凡そ100万人の門下生を擁する空手道、神心会。
そこの門下生だろうか。
その見た目からは、極道かどうかは判断出来ない。
しかし、只ならぬ気配があった。
肉体の熱量がそこに居ると言うだけで、伝わって来る。身長196cm体重103kgとかなりの体躯の持ち主だ。
首が太い。
顎へと、如何なる痛烈な打撃を打ち込まれても、揺るぎ無さを誇るだろう事は、想像に難くない。
だが、無骨さも然ることながら、不思議な気品もあった。
確かな貴い血と遺伝子が男に流れ、刻まれている。
名は、
彼は、監視カメラの映像を観て、小さく呻く様に声を挙げ、驚愕していた。そして、ある流派と技の名称を口にした。
──
監視カメラに映る幼女が使った技術と、その流派の技が酷似していたからだ。
「あの
自らも思案するかの様に顎に手を添えつつ、中国服の男が、重蔵に尋ねた。
この三人の中で、最も小柄な男だった。
疵面の男は、重蔵を下回る物の183cm95kgと、日本人としては、大柄な部類だろう。
中国服を着た男は、166cm88kgと体重はかなりの物だが身長は現代人として見たら低い。
だが、中国服の上からも、搭載された筋肉量が相当なものだと見受けられた。
引き締まったその筋肉は、闘争に特化した物として、恐らく疵面の男より太く見えるだろう。
明らかに、何らかの武術を嗜んでいると想像できる姿だった。
「いや、本家分家共に知らん顔だ。この異様な白い肌と髪、一度見たら忘れ様が無いだろう」
重蔵の家系に連なる人間の事だ。
當麻と言うが、彼の苗字は
家系と言うよりも、當麻塵滅流の流派に連なる血筋と言った方が適切であろう。
この流派の血脈を継ぐ當之家の人間は、日本全国で、現在凡そ五十人存在している。
何人かは中国やアメリカ、ブラジル、タイ、インド等にも散らばっているが、その十数人を含めて五十人である。
重蔵は、當麻の人間にどんな人物がいるか、概ね記憶している。それは、老若男女問わずに、である。
「だが、今の技は、祓雛に似すぎている」
投擲した物体が、顔面にある内に、打撃を打ち込む必要がある技術なのだ。
これは、凄まじい正確さと速度で打ち込まなくては成功しない技術である。
少なくとも、九歳程度の幼女が行える技ではない。
塵滅流で、この祓雛と言う技は、暗殺術である。
必ずしも、投擲しなければいけない訳ではない。
座したままに行う技法もあった。
その場合、例えば箸などを用いる事もある。
対面、或いは隣合う箸を持つ相手の手を取り、それを突き刺す。不意打ちだ。
突き刺す場所は眼球でも、人中でも、箸を口に入れた際に行い口内に対してでも構わない。
その後、間髪置かずに、箸を叩き、より深く突き刺すのだ。
だが、基本は投擲した物体ごと相手の顔面を打つ技なのだ。
やはり、どちらにせよ、速度が重要になる。
そして、恐るべきは、この男達だ。
真冬がこの技を行った速度は音の三倍だ。
それを、はっきりと視認しているのである。
「更に、今の技──」
悪樓の鉄槌打ちを迎え討った一撃の事だ。
「あれは、塵滅流『
撃ち込んで来た打撃を狙う打撃。
防御と攻撃を兼ねた一撃である。
しかも、その一撃は振動を伴う。
振動はあたかも漣となり、相手の骨に広がり、波打ち伝わってゆく。
そして、今回なら小指を破壊し、更に振動が伝わり、骨や靭帯が破壊される。
真冬は、凄まじい衝撃と振動を与え、悪樓の肘の靭帯を破壊し、関節部を突き出させたのだ。
振動の回数は、恐らく1ミリ秒の間に五千回を上回る。
目には見えていないが、腕の内部、筋組織もズタズタの筈だ。
「何故、あんな幼子が塵滅流の技術を使える……」
「似ているだけ──ではないのか?」
「似ているだけ、にしても、だ。恐るべき技術である事に変わりはない」
祓雛なら兎も角、漣は似ているだけでは済まされない技術なのである。
──振動を伝える拳。
これは、そうそう模倣出来る技ではないからだ。
「考えられるとしたら……あの幼子には、當之の血が流れている。私の知らぬところで、當麻塵滅流宗家の遺伝子を何処かで受け継いでいるのだ」
思い当たる人物が居た。
當之家を出た女がいる。
妹の顔を重蔵は思い出していた。
當之
ならば、この幼女は、姪なのかと重蔵の考えは至った。
「殺す必要があるな」
「何!?」
「この幼子が、私の知らぬ當麻の遺伝子を継ぐ者なら命を奪わなくてはならない。當麻塵滅流の術理を扱うのならば、生きていてはいけない娘だ」
蓮美が當之家を出てから、どこで何をしていたか──重蔵は知っている。
地上最強の生物──オーガ、範馬勇次郎の元へ向かったのである。
愛人か何かに納まったのだろう。
そこで、仮に子を成そうが、當麻の技術を子に学ばせる事は無いだろうと考えていた。
子を産んでも、その子は範馬勇次郎の子供だ。
塵滅流とは無関係であろう。
そう考えていた故に、放って置いたのだ。
だが、外に出た女が産んだ子供が、當麻の技術を扱うことなど、許す訳にはいかなかった。
塵滅流の術理を扱うのは、當麻の宗家に連なる者だけに許されている事だからだ。
この白い娘が、蓮美の子供かは分からない。
しかし、『漣』を扱った以上、殺した方が良いだろう。
何処かで、塵滅流が外部に漏れ、その技術を学んだ、或いは盗んだのだろう。
どちらにしても、そうした存在は抹殺対象なのだ。
更に、態度も良くない。
邪淫勁・悪樓は、源王会の善き隣人なのだ。
しかも、源王会の客人である竹内政信の息子、竹内嘉信を、この白い娘は殺害したのだ。
それで充分に万死に値するでは無いか。
そんなおり、突然、けたたましく電話が鳴り響いた。
ナンバーディスプレイの番号を見ると、関東からの物だった。奇しくも、“倉庫”からの電話であった。
──緊急事態だ。
関東エリアでは、豪雨と共に、雷鳴が轟いている。
その雷鳴とは別の、雷鳴と似た轟音が電話の向こうから聞こえた。凄まじい、爆発音だ。
倉庫に常駐している者からの連絡であった。
何者かの襲撃を受けている。
轟音は、対戦車ロケット砲の弾薬が炸裂する、爆発音であった。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
-
そのままで良い
-
残骸置場行きが良い