※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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悪意

 夜空と地上に光芒が疾っている。

 

 暗い雲間から煌々とした龍の姿が現れ、重い咆哮が轟いた。

 夜空を稲光が引き裂いた。

 雷鳴を伴い、凄まじい豪雨が地上を叩き続けているのだ。

 

 そして、その地上では、闇を撫で、闇を割く様に動いている光芒があった。埠頭に並ぶ倉庫群の闇を、光条が照らしている。

 三台のジープと、一台の赤いミニクーパーの、ヘッドライトである。

 それらの光りは、埠頭へと集束してゆき、それぞれ停車した。ジープのエンジンは掛けられたままだった。

 彼らがここでの目的を達成した際に、直ぐ様、発車する必要がある為だ。

 目的──

 それは、この“倉庫”に囚われている少女、當之真冬の救出であった。

 

 ミニクーパーは、三台のジープと離れた所に停車している。ジープ側からも、見えない。

 ミニクーパーの主は、別行動を取る様であった。

 デボラのマスターである伊集院から信頼されている人物らしいので、戦闘力の面に於いても、特に問題は無いだろう。

 

 集束した光り──

 その男達は、停車したジープから降り立った。

 潮の強い匂いが彼らの鼻腔を通り抜ける。

 雨の匂いと潮の匂いが混ざっていた。

 黒い海の畝りが見える。

 波の音も聞こえた。

 暗い海には、船舶の灯りが幾つも浮かんでいる。

 恐らく、日本の船に擬装された台湾黒社会に関係する船の灯りも有るだろう。

 

 埠頭には無数の貸倉庫が建ち並んでおり、その何処かに真冬は囚われているのだ。

 

 貸倉庫の他に二階建てのコンテナハウスも三棟あった。

 外階段で二階に上がる、例えば何らかの建設現場の仮設事務所の様な建物である。

 そこに、常駐している者が、源王会の人間なのだ。

 

 三棟の内一棟は、三連結となっており、一階二階共に三部屋ずつとなっている。階段は一つで、足場が連結しそれぞれの部屋に繋がっていた。

 

 鎬は、予め、サイの花屋からこのコンテナハウスの情報も得ていたので、源王会の人間がここに居ることを知っている。

 

「さて、やるか」

 首を鳴らし、口角を上げる江頭剛志。

 彼は豊富に準備されている銃火器を手にしなかった。

 だが、日本刀とハンティングナイフを帯びていた。

 井森洸一に渡されたのだ。

 

 今回のそれは、単なる喧嘩では無い。

 抗争、或いは戦争とまで言っても良いだろうレベルの物だ。

 そして、真冬の命が掛かっているのである。

 出来る限りの備えは行うべきだ。

 

 それに、剛志が使わずとも、真冬に刀やハンティングナイフを渡せば、彼女も戦える筈だと井森は考えていた。

 確かに、真冬を救出に来ている。

 だが、武器さえあれば、真冬は、再び立ち上がり戦える、そんな奇妙な信頼が、井森にも剛志にもあった。

 その為、剛志も武器を帯びる事に納得したのである。

 

 ユウヤは、ショルダーホルスターとヒップホルスターを着け、それぞれ、そこに9mm パラベラムの拳銃を吊るした。

 そして、両手でM870散弾銃を持った。

 簡単なレクチャーは、既に伊集院から受けている。

 後は、それを人間に向けて発砲すると言う覚悟を決めるだけだ。

 ホストクラブを守るためにヤクザと殴り合うことも辞さない彼だが、当然人間を撃ったことなどない。

 しかし、真冬を救出したい。

 ここで動かなかったらきっと後悔するだろう。

「突入部隊のメンバーは、ゲイリー、古牧さん、江頭くん、そして、私で良いですね?」

 と、鎬が言った。

 ユウヤと井森は残り、脱出時に、発砲し牽制する役目だ。

 特に井森は、ブローニングM2重機関銃が撃ちたいから、その役目を申し出ていた。

 

 伊集院は、外で陽動の為に立ち回り、引き付ける役だった。

 その為のロケット砲や機関銃である。

 突入部隊が相対する事になる敵を減らす事が、大きな目的である。 

 特に銃火器に長けている彼に相応しい役どころと言えるだろう。

 真冬救出後に、彼女を乗せるジープの運転席にはリチャードが残っていた。

 最終的な脱出後の真冬護衛に当たる者として、銃火器も扱え、肉弾戦もこなせる彼がジープに残る事が、最適な配置であると考えられたのだ。

 

 ユウヤと井森が待機しているジープとは別のジープである。

 此方に真冬を乗せる事態になった場合は、ゲイリーか古牧が運転する事になっていた。

 そうした理由も有るからか、ゲイリーが無数のスパイク付きの鉄球型のグローブをはめようとした所、鎬が止めた。

 賽の河原地下闘技場等のリングなら良いが、今回の抗争でその武器は適さない。

 直ぐに取り外しする事が困難であるからだ。

 運転手の役目が回ってくるかも知れないのに、それは余りにも不味い。

「Oh、確かにソウデスネ!普通にメリケンサックにしておきマショウ」

 片言のような日本語で応じ、鋼鉄製のメリケンサックを右手に着けた。

 

 古牧も剛志と同じく日本刀を受け取り、腰に帯びた。

 良く見れば分かるが、剛志の物よりも短い。

 が、脇差ではない。

 太刀より短く、脇差より長い──小太刀である。

 室内戦を想定しての選択だ。

 片手で振れるのも、拳法の達人である古牧には好ましかった。小太刀を持たぬもう片方の腕は素手で戦えるからだ。

 彼の流派である『古牧流古武術』は元々、江戸時代から伝わる物である。

 当然、武器も、扱えるのだ。

 剣術が、基礎にあると言っても間違いではない。

 本来は、素手で武器に対抗することを念頭に置いている武術なのだが、この先に待つ者は台湾黒社会、或いは中国系のマフィアだ。

 こうした黒社会の連中は銃火器の他に、柳葉刀やハチェットの様な小型の斧を好んで扱う者が多い。

 それ故に、古牧も武器を帯びる事を躊躇わないのである。

 また、匕首も懐に忍ばせている。

 自分で扱うかも知れないし、真冬に渡せば、彼女も戦力になり得るからだ。

 

 鎬はジョンソンM1941小銃と軽機関銃を肩に携持し、ヒップホルスターにM1911拳銃を吊るしていた。

 尤も、彼にしてみれば、それらの銃火器よりも自身の肉体こそが、最良の武器になると自負している。

 剛志さえも惚れ惚れする肉体美がそこにあった。

 

 そして、伊集院は、突入部隊と後方部隊全員に、通信手段として、小型のトランシーバーとインカムを手渡した。

 

 最初に、三連結しているコンテナハウスへと歩を進めた。

 一階二階の三部屋全てに灯りが点いているからだ。

 他は一階のみ灯りが点いていた。

 人数が集まっているなら、此処だろう。

 他の二棟も、源王会と無関係では無いだろうが、先ずは人数が多いであろう場所を確認して置こうと考えたのである。

 

 雷雨が、味方している。

 常駐者達も、この豪雨を嫌い、下手に外出することなく閉じ籠っているからだ。

 此処は、表向きは通常の貸倉庫群であり、警察の手も入らない。

 他の裏の人間との抗争の場にもならない。

 故に見張りなども無い。

 有るとすれば、暇なものがふらりと外で煙草をふかすくらいだろう。

 勿論、大きな取り引きや搬入が行われる際はその限りでは無いが。

 

 問題無く、三連結の現場事務所まで到達した。

 階段はスチール製であった。

 スチール製の階段を音を立てずに上がるのは、非常に困難だ。だが、これも雷雨が、音を掻き消す事で味方したのだ。

 

 剛志は特に忍びの体捌き等は心得ていない。

 古牧などは、体捌きにより、スチール製の階段などを昇る際に音を立てずに昇る事が可能であった。

 このメンバーは、武術や技術、異なる術理を扱う者達の寄せ集めである。

 ゲイリーは軍隊仕込みのスニーキング技術にも長けている。

 

 古牧のみ階段を上がっていく。

 凄まじい体捌きであった。

 かなりの速度で駆け上がっているにも拘わらず、スチール製の階段が全く音を立てないのだ。

 雷雨を伴っていなくとも問題ない程だ。

 雨が、その脚で跳ねることさえ無かった。

 

 一階の様子は、ゲイリーが確かめた。

 中から、人の気配が確かにあった。

 

 窓はガラス製である。

 階段を上がり、足場となる廊下側に面して、大きな窓が備え付けられていた。

 

 内部を確認するため、窓へと視線を向けた古牧は、息を呑む様に絶句した。

 此処に来るまでに、この“倉庫”とやらの恐ろしい悪行を聞いていた。

 だが、倉庫では無い、事務所の一室でさえも此程までに悍ましい事が行われているとは、流石に想像してはいなかった。

 

 確かに、真冬を早く救出しなければならない。

 だが、最早手遅れではないか……とも思ってしまう、そんな光景が、ここには、あったのだ。

 

 階段を上がり、一番近い部屋を覗いた。

 内部には、作業着姿の男が八人いた。

 男達は、一見すれば、この倉庫で働く作業員だ。

 昼間に埠頭に訪れて、倉庫を廻り彼等とすれ違ったとしても、誰もが不自然さを覚える事は無いだろう。

 だが、現時点において、彼らの異常性は明らかであった。

 

 パイプ椅子に座る、裸体となった二人の女性を囲む様に立つ男が四人。

 少し離れ、撮影している男が二人。

 彼女らが座るパイプ椅子と似たようなパイプ椅子に座している男が二人いた。

 

 二人の女性は、隣合う様にパイプ椅子に腰を下ろしている。

 古牧が、息を呑んだ理由は、女性達の姿形にあった。

 彼女らが座るパイプ椅子の足元は血溜まりが出来ており、赤黒い肉片が散らばっている。

 

「屍」

 声には出さなかった。

 しかし、古牧は咄嗟にそう考えたのだ。

 女性は、二人とも肘から先の腕と、膝下が切断されているのである。

 しかも、古牧から見て左側の女性は右の乳房、右側の女性は左の乳房を潰されているのだ。

 赤黒い肉片は、その潰された乳房であろう。

 四人はナイフや、ペンチを手にしている。

 それで、削ぎ、引き千切ったのだ。

 残された乳房の方も、乳首が切られ、切断面に釘が打ち込まれている。

 陰部からは、夥しく流血している。

 古牧からははっきりとは視認出来ないが、今は彼女等が履いていたそれぞれの靴の爪先が捩じ込まれていた。

 

 彼女等は、真冬とは別口の“倉庫”の商品である。

 七代目源王会が『四十八手(しじゅうはって)章治郎(しょうじろう)』にやらせていた、特殊なアダルトビデオの製作と同じく、これも、権力者や裏社会の者に流通する特殊なアダルトビデオの撮影なのだ。

 

 この撮影は、更に特殊な物で、簡単に言えばレズビデオだ。

 しかし、単なるレズ物では無い。

 神室町のホテル街に存在するラブホテル赤煉瓦などから拉致した同性愛者の女性で撮影される。

 序盤は彼女らの性行為を隠し撮りした物が利用される。

 そして、行為の後は、源王会の人間が乱入するのだ。

 しかも、その後は、こうした残忍なスナッフ・フィルム染みた物が撮影されるのである。

 

 どう見ても、助かるまい──と、古牧は心中で呟く。

 だが、その時だ。

 一階でも同じ様な光景が有ったのか、ゲイリーの怒声が、雷鳴よりも巨大に轟いたのだ。

 

 ゲイリーは、一階の事務所の窓を粉砕し、内部へと突入していた。

 それに気付いた鎬は、伊集院へと報告。

 伊集院は、己の役目を果たすべく、先ずは、手近な貸倉庫へとM1携帯式対戦車ロケット弾発射機から、ロケット弾を飛ばした。

 ゲイリーの怒声がある種の鬨の声となり、ロケット弾の爆発が決戦の狼煙となったのだ。

 

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