※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

109 / 139
殺人術

 

 階下の騒ぎを聞き付けたのか、ナイフを持った男が窓側へと走った。

 少し遅れて、凡そ現代日本で聞こえる筈がない、凄まじい爆発音が、夜の埠頭に轟いた。

 伊集院が放ったM1携帯式対戦車ロケット弾が炸裂したのだ。戦闘車両の装甲を撃ち抜くロケット弾である。

 その凄まじさは、想像に難くない。

 鼓膜に、暫く、震動する様な音が残された。

 

 窓から、顔を出した──その時だ。

 男の顎が突然上に跳ね上がる。

 古牧が掌で、顎下から、かち上げたのだ。

 衝撃で、男の上下顎骨がぶつかり合い、上下の歯が互いに押し潰し合うかの様に、粉砕されていた。

 掌底とほぼ同時に、古牧の左手は、男がナイフを持つ右手の手首を掴んでいた。

 極道の太い手首である。

 それを、老人の枯れた様な指が完全に捕えていた。

 そして、古牧は窓から飛び込む様に突入し、片手で男の手首を捻り、折った。

 そして、仰向けに倒れる男の胸に膝を乗せ、そのまま倒し、潰す。

 古牧の膝は、男の肋骨を砕いた。

 そして、男の肺までが膝に刺し貫かれる様に押し潰され、不気味な呼吸音が漏れる。

 

 更にそこから、床に叩き付けられる寸前で掴んでいた手首を離し、まだナイフの柄が握られたままの手を覆うように掴むと、刃を押しやった。

 女性の乳房を切り刻んでいた凶刃は、男の頸へと、先端から潜り込んだのだ。それは、丁度、頸動脈の位置であった。

 絶命は免れ無いだろう。

 ナイフを引き抜くと、凄まじい血飛沫が、噎せる様な血臭と共に迸った。

 女性達の肉片と血溜まりに続き、事務所内に、新たな血の池が出来上がったのだ。

 

「弟子達には見せられん、古牧流よな……。特に桐生(あやつ)には」

 室内を睨む様に見据える古牧に、最早、好好爺の姿は無かった。凄まじい相貌であり、恐ろしく研ぎ澄まされた双眸だった。

 

 真冬の救出──

 この闘争は、それだけでは済ませられないだろう。

 眼前で行われていた惨状は、赦せる物では無い。

 無論、この様な凶行も、極道のシノギの内なのである。

 それに対して、とやかく言う権利は、当然古牧は持っていない。言って良い物でもない。

 だが、この惨状への怒りを抑える事は出来ないのだ。

 階下で吼えたゲイリーもまた、そうだったのだろう。

 

 古牧は疾(はし)った。

 一瞬で、間合いを詰めた。

 仙術の縮地法もかくやと言えるスピードである。

 かの空手道の世界を二分する、神心会総帥『愚地独歩』と北辰会館館長『松尾象山』が競い合うように行った『縮地術』と言う修練がある。

 

 彼らは、3mから始まり、最終的には8mもの大きさの布を嚙み、それを地面に着けることなく、走り出す事が可能であった。

 恐ろしいのは、走り出したその瞬間で、既に布は地面に無いのである。

 初速自体が、最早、人外の領域となる速度なのだ。

 そして、古牧のこの速度も又、そうした両雄に劣らぬ物であった。

 

 パイプ椅子に座る男は、状況が呑み込めていなかった。

 椅子から、腰を上げる事さえ出来ていない。

 反応が大幅に遅れていたのは、ある行為の真っ最中だったからだ。

 切断面の骨を砕き、肉をくり貫いた女の腕を、オナホールにして、自慰行為に耽っていたのだ。

 この男は、悲鳴を聴きながら行う、直ぐに腐り使えなくなる高級オナホールでの自慰行為が堪らなく好きだった。

 つまり、犠牲者はこれまでに何人も居ると言う事だ。

 

 古牧は、背後からそのオナホール男の髪を掴み、しゃがみ込む様に、一気に腰を降ろす。

 オナホール男の頸骨がその動作だけで折れていた。

 異様な角度で頭部が胴体から垂れ下がっている。

 そして、陰茎からズルズルと肉のオナホールが滑り落ちていくのだった。

 

 完全に滑り落ちるよりも速く、古牧は小太刀を抜き放ち、パイプ椅子に座るもう一人に仕掛けていた。

 白刃は、座板の下方から振り上げられ、それごと男を切り裂いていた。

 そうして、この場にいた男達は、現状を漸く呑み込めて来たのである。

 

「な、何や、ワレぇ!?」

 撮影していた男の一人は、驚愕の余り、つい器材を落としてしまい、高い声で叫んだ。

 関西弁だ。

 源王会は、関東の組織であるが、近江連合と太いパイプで繋がっている。

 この男も、近江連合に縁のあるチンピラなのだろう。

 かつて真冬が交戦した『四十八手章治郎』も近江連合と繋がりがあった。

 神室町で女性が失踪する等の事件があったなら、その裏に源王会の影が潜んでいるのかも知れない。

 

 その関西弁の男の絶叫に併せる形で動いた男が居た。 

 喧嘩慣れ、いや、実戦慣れしているのだろう。

 他のメンバーが茫然自失となっている中、ただ一人、咄嗟の判断で攻撃に転じる事が出来たのだから。

 古牧の姿を見て取るや、ペンチを握り締め、振りかぶり、突っ掛けた。

 ──実戦慣れ……この男は概ね武闘派の極道なのだ。

 そんな男が、このペンチで、なんら罪の無い女の乳房を抉り、乳首や陰芽を捻り潰していた。

 常軌を逸したその行為は、元々は同じ極道や、彼らのメンツを潰した者への見せしめや報復の手段を、アダルトビデオ撮影に転用したものなのだろう。

 そして、そんな非道を収めたスナッフ・フィルムを喜ぶ者がいる。

 真冬を捕えた竹内政信や、嘉信もその中に含まれている──いや、彼等こそ、その代表格なのである。

 

 関西弁の男の高い声と、ペンチ男の気合いの声が混ざり、古牧の耳に届いた。

 古牧の鋭い、手にしている小太刀よりも切れ味がある澄みきった双眸は、既に、迫って来るペンチ男へと向けられていた。

 叫んだ関西弁に集中せず、ペンチ男の殺気を瞬時に捉えたのだ。

 普通なら、叫んだ相手へ集中してしまうだろう。

 ペンチ男が実戦慣れしていると言うなら、古牧もそうである──そして、古牧の実戦とは、戦場(いくさば)に於いての『実戦』である。

 

 古牧は、正しく恐ろしい存在であった。

 

 視線を向けた相手はこのペンチ男に対してであった。

 だが、古牧の『氣』は、もう一人のペンチ男に発せられ、そして、彼の気を捉えていたのだ。

 

 ペンチ男がペンチを振り下ろす。

 それと、一瞬遅れて、もう一人のペンチ男が懐から拳銃を抜き放ち、発砲していた。

 弾丸は三発速射された。

 この拳銃は、そこらのチンピラが持つ粗悪な模造品ではない。

 高い値段で取り引きされた、正式なロシア製マカロフ拳銃であった。

 

 マカロフ男は、ペンチ男の動きを読み、その動作の先に古牧がどう動くか考えていた。

 そして、瞬時に判断し、発砲したのだ。

 普通なら、弾丸は古牧に命中する、そんな角度と弾道であった。

 もしかしたら、ペンチ男がバカなら彼にも命中するが、マカロフ男は、彼を信頼してるからこその発砲である。

 

 初速320m/sで打ち出された上質なマカロフ拳銃の弾丸──連射された一発目、それは、小太刀に両断された。

 それを目視できる人間が居たとしても、両断ではなく、弾いた様に見えただろう。

 

 だが、両断された弾丸の破片は何と、ペンチ男のペンチを持つ手に当たった。

 そして、もう一つの破片は関西弁男に向かい、眉間に突き刺さるのだ。

 

 偶然──

 まさか──

 

 この光景は未だ、0.25秒の出来事だ。

 1秒すらも経っていない。

 凡そ1秒間の話をするなら──残りの二発の弾丸がペンチ男を掻い潜る様に、非常に巧く放たれた弾道が古牧に迫る。

 しかし、弾丸の破片が手に当たり、一瞬、擦過音の様な呼気を洩らしたペンチ男が怯む。

 だが、勢いのついた身体はつんのめる様に古牧へと向かう。

 その勢いに併せ古牧は、両脚を大地に根を張り巡らしているかのように立ち、ペンチ男を迎えた。

 

 そして、弾丸を両断したばかりの小太刀を、カウンター気味にペンチ男の喉を突き刺し、横に引いた。

 

 更にその胴体を盾に、残り二発を凌いだのである。

 

 ──古武術とは暗殺術と似て非なるものと嘯いたが、煎じつめれば古武術とて殺人術、のう真島、今宵は儂もお主の如く、鬼となろうて……と声を出さず、脳裏の更に奥で古牧は呟いた。

 

 古牧流・虎落とし・骸(がい)

 古牧流・火縄封じ・人躯(ひとむくろ)

 

 戦場(いくさば)に於ける、殺人術としての古牧流が、現代に蘇った瞬間であった。

 

『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?

  • そのままで良い
  • 残骸置場行きが良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。