※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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迦陵頻伽の人肉嗜食

 廃ラブホテルの一室が、幽冥(くら)く、死と血で満たされていた。

 

 壁や床に無数の血の跡が走っている。

 血飛沫の跡である。

 暗い部屋に鮮やかな紅い色彩で描かれた、死のアートだった。

 

 悍ましい姿と化した男が二人、転がっている。

 誰がどう見ても、それは死骸であった。

 しかも他殺体──犯罪死体だ。

 明確に、殺意を持った者に命を奪われているのだと、一目で理解出来る屍体である。

 

 一体は、横腹から腸が引摺り出されていた。

 膝が折られ、異様な刺し傷も見受けられる。

 

 もう一つは、胸が抉られ、へし折れた肋骨が剥き出しとなり、ポッカリと穿たれた穴が空いている屍体である。

 抉られている──とは言うが、心臓の上に当たる部分の肉が爆ぜているようにも見えるのだ。

 だが、解剖すれば、火薬などで、肉を破裂させた訳では無いと明白になるであろう。

 そして、何より悍ましく恐ろしい事が発見されるだろう。

 心臓が潰され、既にそこから失われているのだ、と。

 

 周囲には銃弾も散乱している。

 腸が引摺り出されている男が持つ9mm パラベラムから発射された物だと、日本の鑑識技術なら直ぐに導き出してしまうだろう。

 

 無論──この現場に、警察が立ち入る事など決して無いのだが。

 

 死が充満する中、生者が一人いた。

 この場に余りにも不釣り合いな幼子だ。

 年の頃は、若冠十二の幼女である。

 だが、千切れた腸、そして握り潰された赤黒い肉塊が両手それぞれの内にあった。

 異常な、猟奇的な光景だった。

 少女もまた、負傷しているのか、腹部辺りの衣服の布地が紅く染まっている。

 靴を履いておらず、タイツが裂かれていた。

 しかも、その白いタイツの陰部辺りが、紅く滲んでいるのだ。それは、望まぬ破瓜の証である。

 少女の姿は打ち棄てられた、汚れ壊れたビスクドールを思わせる物だった。

 

 とは言え──その手に有る物から、今しがた、この幼子が、二体の死骸の内、一人の腸を引摺り出し、もう一人の心臓を潰し抜き取ったのだと理解出来るだろう。

 

 ギョンド──

 チーヨーさん──

 

 口には出さず、喉の奥でその名を呟いた。

 幼子が殺した、この二つの遺骸の名前である。

 嗤っていた。

 凄まじい、狂喜と狂気が合わさった、狂人的な殺人鬼の笑みであった。

 ──勝った。

 勝てた事が、そして、殺せた事が嬉しかった。

 勝てる相手だと思っていたが、意外にも手間取った。

 故に、殺せた事が嬉しかったのだ。

 

 父から受け継いだ殺傷本能が満たされ、脳と細胞も充足感で溢れかえっていた。

 殺人衝動が満たされ、呉の血に多幸感を巡らせていた。

 異常な脳内麻薬が大量に分泌されているようだった。

 

 闘争には勝った、殺した──しかし、本当に勝利なのか。

 望まぬ形で、望まぬ相手から処女を奪われたのだ。

 愛する者に犯された訳では無い。

 しかも、ペニスを挿入される様な自然なレイプですらなく、一本拳を膣口内へと打ち込まれ、更に寸勁による勁の衝撃波が処女膜を突き刺し、破ったのだ。

 闘争には勝ったが、雌としては完全な敗北である。

 だからこそ、殺せた事が嬉しかった。

 

 ──でもなぁ、二人の事、戦友言(ちゅ)う意味では、嫌いや無かったで。

 あんたらとの死闘、あんたらからもぎ取った勝利、あんたらから奪った命は──私の糧になるんや。

 私はもっと、強(つよ)なったるで。

 私ん中で、生き続けろや、私が朽ち果てるまでな。

 

 嗤っていた。

 犬歯を剥き出しで唸り吼える狼の様に、嗤っていた。

 嗤いながら、腸に嚙み付いた。

 歯を突き刺し、嚙み千切る。

 何度も噛む、咀嚼し嚥下する。

 それを繰り返し、いつしか、彼女の手から、腸は無くなっていた。

 

 そして、心臓は、一気に口内へと押し込んだ。

 一息に喰らう。

 躊躇いなく──いや、躊躇いを押し殺す様にだ。

 血を呑み、肉を喰らう。

 毒掌に舌を這わせ、附着した血まで絡めとり舐める。

 ──酒を嗜む蟒蛇(うわばみ)のように血を舐め呑み込む。

 

 ──強うなったる。

 範馬勇次郎、呉雷庵、黒木玄斎、本部以蔵、柳龍光、松山象山、磯村露風、久我重明、羽柴彦六、松本太山、林弘、郷田龍司、古牧宗太郎……。

 ──他にも強いやつ、挙げ出したらキリ無いくらいに、いっぱい、おんねん、外人にもおるやろな、でもな、どんだけおっても、知るか、そんなもん。

 

 ──そんでな、どんだけやろうが足掻こうが、本当(ほんま)に強い男を敵に回したら、女に産まれてもうた私はそいつらに、絶対勝てへん事くらい、わかっとるで、真冬のあんなん、見てもうたから、女の戦闘能力の限界を、嫌になるくらいにわかってもうたんや。

 ──お父(とん)かて私が女やから、見限ったんやもんな。

 

 ──でもなぁ。

 

 ──それでも強うなったるわ。一分前の私より今の私の方が強いからな。

 少なくとも、今すぐでも手ぇ届く奴挙げるんやったら、真冬には絶対負けへんくらい、強なったるから、私の中言(ゆ)う特等席で見といてや、あんたら。

 

 ──ああ……そうや、チーヨーさん、それにな、憶えといたる。

 蚩尤やない、あんたの本当(ほんま)の名前や。

 あんたは、ある意味で私の『初めての男(・・・・・)』やからな。

 特別サービスや、感謝しいや。

 劉星龍(ラウシンロン)、憶えたったからな──

 

 迦陵頻伽は、絶叫していた。

 それは、慟哭の様でも、淫靡な囀りのようでもある、そんな悲しくも不気味な、幼い迦陵頻伽が奏でる恐ろしく美しい唄声だった。

 

 

1.

 そう、真冬だ。

 現在の目的は、真冬の救出なのだ。

 今更、間に合うだろうか。

 懸念材料は無数にある。

 劉星龍を殺害した為に、結局“倉庫”の場所は不明のままだった。

 殺害しなくとも、あの男は絶対に教えないだろう。

 拷問による尋問で、いつかは吐くかも知れないが、それが出来たとしても無駄に時間がかかったろう。

 時間をかけた末に途中で死なれたら、半端に時間をかけた分余計に無駄になる。

 だから、さっさと殺したのだ。

 外しの二段階目、範馬の血──リョウガは、その状態を『鬼哭勁脈(きこくけいみゃく)外し』と呼んでいる──を顕現すれば、ギョンドや劉星龍程度なら敵ではないと、判断したからである。

 倉庫の場所を知っている可能性がある者。

 ここの廃ラブホテルは心霊スポットだ。

 源王会が行っている『心霊スポット産業』のシノギで、最終的な『処理』を手掛ける亜細亜街の肉屋や、中華料理店の人間が知っているかも知れない。

 

 リョウガは、死骸はそのまま捨て置き、疾り、飛び出したのだった。

 宿泊室から廊下へ、そして、廊下の壁を空掌で粉砕し、外へと飛び降り、凡そ40m先のアスファルトへと着地したのである。

 

 外は、凄まじい豪雨であった。

 高所から飛び降りても、雨で濡れた道路で滑る事も無い、恐ろしい身体バランスだった。

 

 豪雨の深夜でも、神室町は賑わっている。

 人混みが鬱陶しい。

 殆んどは、今夜の豪雨を予め知っていただろうから、傘を差している。

 傘を持たぬものもいる。

 リョウガは、傘など持たず、走った。

 水溜まりを踏みつける。

 雨水が跳ねた。

 靴を履いていないから、濡れたアスファルトが冷たく気持ち悪い。

 だが、気になどしてはいられない。

 髪が、雨に打たれ、乱れる。

 額や頬に髪が引っ付き、それも気持ち悪い。

 髪型をいつもなら、気に掛ける。

 身嗜みを気に掛けるなど、闘士としては三流だが、自分が美少女だと知っているリョウガは、その自身の愛らしさも大事にしたかった。

 リョウガもまた、見た目に拘ると言う点においた場合、ジャック・範馬に言わせたら『ええかっこしい』の部類に入るだろう。

 そんなリョウガが何故、ここまでやれるのか。

 リョウガは、気付いていないが、つい最近まで存在さえ知らなかった妹へ、姉としての愛情が生まれてしまったからなのだ。

 そして、気付いていることがあった。

 倉庫の場所を訊ねる為に、源王会のフロント企業である肉屋や中華料理店に突入すれば、自分は、源王会の敵になる。

 リョウガが属している呉一族は、源王会と協力体制にあった。

 マスター国松の大日本空道も敵になるだろう。

 最悪、自分は、呉一族を勘当、絶縁されるであろう。

 抹殺対象にさえも、なり得るのだ。

 しかも、真冬暗殺の依頼を受けていながら、一旦保留し、あまつさえ、真冬を救おうとしている自分を、祖父は許さないだろう。

 

 アホやな、私──とも思うが、もはや動き出した意思と肉体は止められなかった。

 

 豪雨にも拘わらず傘を差す事もなく、夜の神室町を駆ける。

 裂けたタイツに血塗れの衣服を身に纏い、裸足、髪は乱れ、顔も血に染まっている、そんな余りに異様な幼女である。

 ふと、視線を向けて、その幼女がとても美少女なのだと気付く者もいる。

 そして、そんな人物は、少女の背後関係を想像し震えあがったりもするのだ。

 神室町の児童売春が、脳裏に過るのだ。

 そうした背後組織から逃げている被害者か?

 そんな考えに至るなら、誰もがリョウガに声をかけないのである。

 リョウガから逃げるように、人波は二つに分かれる時もあった。

 急ぐリョウガにとって、皆が無視を決め込んでいることがありがたかった。

 声をかけられると煩わしい、それに無駄に時間が過ぎてしまう場合だって考えられるからだ。

 ホテル街から亜細亜街までの道のりを走り切ると、先ず、目当ての肉屋へと、勢いを殺さず、閉まっているガラスの扉へ突っ込み侵入した。

 肉屋は、焼肉屋であり食事を提供する店舗と、その奥に調理場、更にその奥の通路先に長い階段がある。

 そこは、人間の屠殺場も兼ねた、畜産の解体、そして保管場所でもあった。

 その廊下には、源王会の周辺者となる中国人労働者や台湾黒社会の人間なども待機しているのだ。

 そこにいる人物に、リョウガは用があった。

 そいつらならば“倉庫”の場所を知っているかも知れないのである。

 そして、実際の場所を知らない故に、そこが、倉庫ではないかと言う期待を、僅かながらも、リョウガは、持っていたのだ。

 

 客やバイトなどの一般店員から悲鳴があがった。

 もう、引き返せない領域に、リョウガは立ち入ったのだ。

「源王会周辺者の糞支那人共ッ!日本人でもええ!どこやあ!人間解体しとる、倉庫の場所を!このッ!呉陵伽にィ、教えんかい!當之真冬の居場所や!ボケナスどもぉッ!」

 

 もはや、破れかぶれとも受け取れる、恐ろしい啖呵を、リョウガは、切った。

 引き返す気など毛頭無いからだ。

 やれるとこまで、とことんやったるわと、力強く誓っているのだ。

 

 一般客やバイトなどは、茫然自失となっている。

 悲鳴をあげ、思わず立ち上がるや、バランスを失うやら躓くやらで転倒している者もいた。

 

 逃げ出そうとするも、扉の近くに、侵入者がいるため、躊躇する者も多かった。

 しかし、その侵入者の幼さに、多くが目を丸くしていた。

 

 この啖呵は、一般人にも聞こえる様に言っているのだ。

 源王会は、何処かで人間を解体してる、そんな話を流布させる事が目的でもあった。

 だから、真冬の名前も出したのだ。

 あれだけ、拡散された真冬の名前なのである。

 様々な事を結び付ける人間がいる筈だ。

 そうした事が公けになり、拡散されることさえ、リョウガは、狙い念頭に置いているのだ。

 しかも、自分の名前も名乗ったのだ。

 それは、覚悟とケジメを表しているのである。

 

 これより、リョウガの前には暗澹たる死に満ち満ちた、闘争の荒野が延々と広がり続ける事になる。

 だが、荒野を一人、孤独に進む訳では無い。

 その隣に立つ者、ともに歩みを進める者も当然いるのだ。

 陵伽の人生が、陵伽と言う女の有り様が、陵伽とその人物達との絆が、今、この時、確かに始まったのだ。

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