範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
ガラス製の引き戸へと、体当たり同然に全身から突っ込み、ガラスを割り、金属製の縁さえも破壊し、店内に突入した陵伽の行動、そしてその後の啖呵を切った事で、店内及び焼き肉屋周辺は、騒然としたものとなっていた。
亜細亜街に訪れていた者が、野次馬然と、割れたガラスの音やリョウガの声を聞き付け、集まって来た。
店内を覗き込む者がいる。
焼き肉屋に突入したリョウガの背中を、野次馬達も見てとる事が出来る。
そもそも、亜細亜街を疾走し、その末にこの焼き肉屋へと突っ込むリョウガの姿を眺めていた者もいる。
最初に野次馬として、覗き混んだものがそうした、リョウガの姿に注目していた人物達であった。
その野次馬の中に、一際、見目麗しい男がいた。
顔立ちは良いが、何処と無くだらしない印象を見る者に与える男だった。
ほぼ巻いているだけな程に緩められたネクタイに、洗い晒しのシャツとズボン、そして、青いジャンパーを羽織っている。
背丈は172cm、しなやかな、鍛えられた肉体の持ち主だ。
だらしなさを感じさせる一方、ちゃんと身嗜みを整えると、一流の俳優にさえ匹敵するであろう、そんな眉目秀麗を地で行く──歳は二十三か二十四、二十代半ばの若い男だった。
彼は、尋常ならざる速度で、深夜の亜細亜街を
神室署生活安全課の警官だ。
ただの警官ではない──
この亜細亜街を根城に違法賭博や賄賂に手を染め、同僚や外国人などからも『神室町のダニ』と呼ばれ、蔑みの目を向けられている、悪徳警官であった。
リョウガが叫んだ啖呵であったが、谷村はそれを聞き、一層、リョウガへの興味が湧いたのだ。
興味深い単語が、そのリョウガの啖呵から飛び出した。
人間を『解体』している『倉庫』と言うものである。
それは、恐らく、単なる倉庫では無い。
若い、或いは幼い女性の失踪事件に、関与しているであろう源王会周辺で度々聞こえる“倉庫”の事だろう。
自身には捜査権限は無く、そして、たまに失踪事件にて、と或タイミングでピタリと捜査が止まってしまう事例が、稀にあった。
その際に良く耳にしたのが、件の“倉庫”なのだ。
更に『當之真冬』その名前だ。
ネット上で騒がれている『真冬のパンパン祭』なる児童ポルノ映像及び画像。
正義は、この異様なネット上での騒動に警視庁が全く関わろうとしない事、明らかに幼女が囚われ凌辱されている前代未聞の事件にも拘わらず、静観を決め込んでいる警視庁に不信感を持っていたのだ。
そこで、このリョウガの存在だ。
谷村正義は、恐ろしい事件に繋がるであろう存在の臭いを嗅ぎ付けたのだ。
そして、自身は言うに及ばず、警視庁の誰にも、この事件を捜査することは出来ないだろう事にも気付いていた。
この
実の所、臭いと感じている埠頭の貸し倉庫の場所、それが谷村正義の頭の中にある。
このリョウガの登場は、解決は出来なくとも、それに迫る良い機会であり、取り掛かりになりそうだと、谷村は感じていた。
幼女である。
十二歳程度の、小柄な少女なのだ。
そんな、少女を見て、“倉庫”関連の事件に迫れるなど、普通なら考えが及ぶわけが無いだろう。
しかし、このリョウガが走る速度を見ていた。
それは、人ならざる者の脚力であった。
何故なら、明らかに神室町の公道を進む車両の法定速度を、明らかに凌駕した物だったのだ。
そして、全身から、ガラスの引き戸を突き破る異常な行動である。
世の中には、裏社会の更に奥、裏の人間に取ってさえも深淵の奥の様な場所に潜むとされる存在がいる。
この幼子は、そんな世界の住人なのだ。
谷村は、そう感じ取っていたからこそ、明らかに普通では考えられない、ある種の血と死を纏った事件の臭いを、嗅ぎ付けることが出来たのだ。
そんな予感が正しかった事を示す様に、店内に異常が起こり始めていた。
厨房や、レジ辺りの店員は一般人だ。
バイトか何かだろう。
国籍は分からないが、日本人か亜細亜街に住む外国人の筈だ。
それでも、裏社会の人間ではない。
客同様に、リョウガの行動に茫然となったものばかりである。
だが、厨房の奥から、闇から滲み出てきた様な異質な気配に満ちた異様な男達が姿を現したのだ。
汚いシャツや、作業着、作務衣等を身に付けた男達だった。
異質な、そして、明らかに一般人では無いと誰の目にもあきらかにする、その手に持たれた物──男達はそれぞれサブマシンガンで武装していた。
着ているものは様々なのだが、腰にはなんと、全員、中華包丁を携持している。
こうした中華包丁は、まるで小型の斧を用いる様にして、黒社会の人間に、武器として振るわれる事がある。
直ぐに用意でき、食堂など店舗に擬装されたアジトに置かれていても不自然では無いと思われる物だからだ。
恐ろしい事に、こうした中華料理屋に擬装されたアジトに潜む用心棒は、調理器具なども武器にする。
炒め鍋や鉄杓子などもだ。
鉄杓子などは、普通の物より硬く重い、とても調理に使えない、鈍器に改良された物さえあるのだ。
達人ならば、炒め鍋や中華鍋は盾とも武器ともなり、盾として扱えば、弾丸さえも弾いてしまう程であった。
これらは全て──宛ら、現代の暗器と言えるだろう。
そうした暗器と共に、彼等が武装しているこのサブマシンガンだが、谷村は、それを見て、驚愕していた。
余りに最新鋭のサブマシンガンだったからだ。
この事件の裏にいる者達の強大さは、一体どれくらいなのだろうか。
銃身長250mm、毎秒15発の弾丸を発射する、中国製の、最新鋭消音短機関銃である。
こんなものを人目のある場所に持ち出しても、捜査の手が及ばないと、そんな絶対的な力と自負を持つ組織。
その力は権力、武力であり、そうした物も合わさり、それすらも超越した力を有している組織なのだろう。
谷村はそう確信した。
ならば、警視庁が『真冬のパンパン祭』に介入しない、或いは出来ない事も頷ける。
そんな組織が、その件に関与しているのだ。
強大な組織が絡むには余りにも下らない事件だ。
しかし、それは、かなりの利権に繋がるのだろうとも考えられる。
真冬のパンパン祭は、あくまで、そうした利権の、副産物から発生したほんの一端でしか無いのだろう。
だが、そんな一端をつつけば、身を滅ぼす『力』へと繋がってしまうのだ。
「逃げるんや!」
リョウガが叫んだ。
そして、前方に、素早い動作で進んだ。
誰に言ったのか、それは、誰にでも無い。
個人に言ったわけではなかった、この場所にいる一般人達──店員、客、野次馬全員に言ったのである。
それを一瞬で、正しく理解できたのは、この場で恐らくただ一人、谷村だけであった。
他の一般人は、短機関銃の存在に、ただ恐怖する思考と感情に支配されていたからだ。
現れた八人は、消音短機関銃の斉射を始めた。
「何!?」
さしもの谷村も驚愕の声を上げた。
消音されたとは言え、幽かな銃声は聞こえる。
そして、銃声がどうとか、そう言う問題ではない。
余りにも躊躇いなく、大勢の人目があるなか、発砲したのだ。
幼女に向けてだ。
しかもそれは、他の一般人を凶行に巻き込むことに対して、何ら罪の意識を持たぬ行動だった。
単なるチンピラ等が行える物ではない。
恐ろしい程に覚悟が出来上がっているのか、箍が外れた真っ当な人格や思考能力を持たない者なのか。
快楽殺人鬼でも無い、あらゆる常識的なものから遠い所にいる男達なのだ。
だが、そんな男達の凶行など、次に、谷村の眼前で繰り広げられる事に比べたなら、些細な異常であった。
八人から放たれた凶弾──それは、フルオート射撃で
彼等が、現状どれだけのマガジンを携行しているか、それは彼らにしか分からないが、短機関銃に装填されているマガジン内の弾丸は、それぞれ50発、計400発である。
それらを踏まえると、大体、三秒から四秒間、短機関銃からフルオート射撃にて弾丸が、リョウガに降り注ぐ事となる。
最初の130発も、当然だが、その全てがリョウガに疾った訳では無い。
常軌を逸した、この男達とて、銃器の腕はまちまちであった。
僅かに銃身がぶれた際には、流れ弾として、客や野次馬に向けて逸れた弾丸も少なからず存在している。
それらの状況。
一瞬、谷村の理解が追い付かない事態が、眼前で展開されたのだ。
まず、何が起きたかについての、理由が分からない。
突如、八人の男達が倒れたのだ。
フルオート射撃故に、引き金に指が置かれたまま倒れかけた為、銃身が大きく傾き、マガジンから弾丸が尽きるまで壁や天井を撃ち抜く者もいる。
その弾丸の犠牲になる一般人もいた。
そして、マガジン内の弾丸が空になる前に、短機関銃が斉射を止めた物もあった。
つまり、四秒経たずに、突然男達は倒れたのである。
何があったのか。
リョウガが前に進みつつ、空掌にて弾丸を掴んだ。
間合いを詰めながら、一般人にはなるべく、銃身が向かない様考え、自身に向けられる様に誘導していた。
それでも、流れ弾が近くの者に向かう場合もあった。
何人か、庇えそうな範囲なら、両手の空掌を駆使し、守る。
一般人は老若男女様々だ。
リョウガは正義の味方では無い。
守るのは効果範囲の者だけである。
女子供老人、それは守る理由にはならない。
撃ち抜かれた者に子供もいた。
だが、走り、間合いを詰め、そして、空掌の範囲にいて、自身に向かう弾丸のタイミングから逸れた場合、そこにいる者は空掌で守るのだ。
一秒にも満たぬ、0.3秒程度で、弾丸を空掌にて、それは掌握されていた。
男達が倒れたのは、投げ返したからだ。
例えば、拳銃から弾丸を一発のみ発射された程度なら兎も角、流石に、これ程の速射に対して、空指による陵伽空指真空掌と言った、戯れめいた秘技は行えない。
あくまで、投げ返しただけだ。
それでも、凄まじい速度で掌握し投げ返している。
53%の解放率の外しを使ったからこそ、可能だったのだ。
手の内に、弾丸がある間に投げ返し、更に空掌にて掴む──それを0.8秒に満たぬ時間の中で繰り返した。
果たして、それぞれの動作に費やした速度は、いかほどの時間なのか。
それ故に、谷村が目で追える状況を、逸脱した物だったのだ。
しかも、男達はその間で、それぞれコンマ何秒のズレはあれど、投げ返された弾丸で、攻撃を受けていたのだ。
指や両目、喉、胸や腹、膝──
共通して、みな、それらを弾丸が貫いていた。
──この幼女、人間なのか、そんな疑問すら誰も抱けなかった。
一瞬では、この状況を引き起こした者がリョウガだとは理解出来なかったからだ。
だが、逃げるんやと叫んだあと、負傷したものも居るとはいえ大多数は無傷、男達は倒れている。
ならば、この状況の中心にいるのは、この
「素晴らしいな、その空掌。貴様、呉一族の迦陵頻伽と称される娘だったな?中国山東省にて、旧式カノン砲の砲弾すら掌握したと言う
ゆっくり、歩み、厨房奥から男が現れた。
その男の台詞、当然だが谷村には何一つ、聞いた事の無いものばかりだった。
「何やねん、おっさん『
リョウガは、笑いながらそんな意味の分からぬ事を言っていた。
現れた男は、辮髪の、いかにもな、拳法の達人然とした人物だったからだ。
流星拳砲岩とは、かつてフレッシュジャンプで連載されていた超名作漫画、
同じく辮髪に結っている主人公の拉麺男と言わなかったのは、現れた男が、愛嬌の一つも見られない、そんな冷たく堅い濡れた白刃の様な相貌の持ち主であったからだ。
立ち上る気配もどこか禍々しい。
衣服はどちらかと言えば、拉麺男に近い中国拳法の武術装めいたものだった。
谷村は、息を飲みながら、冷や汗を拭い、自分がどうするべきか考えていた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い