※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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ゴスロリ暗器

 

 両手を口許にあて、一息吐く──

 肌寒さの強い夜、さして暖かくなる訳ではないが、少なくとも掌は僅かに暖かい。

 白い少女の白い吐息。

 端の目から見れば雪女の冷気の様に映るかも知れない。

 

 雪女の様な白い和服は着ていない。

 賽の川原に辿り着くまでに着ていた衣服は、そこで暮らしているホームレスの老婆──本名は不明だがモグサからは“おミチさん”と紹介された──が洗濯してくれ、現在は昨晩真冬がおミチさんと寝泊まりしていたブルーシートのテント付近に干されている。

 

 この寒い季節に着るような服ではなく、下着も履いていなかった事にミチは驚き、洗濯の前に新しい服と下着を買いに行った。

 ミチは口にこそ出さなかったが、驚きと共に、真冬の母に対して憤慨していた。

 九つの幼い少女へ親子の愛情が全く向けられていない事が理解出来たからだ。

 何の肉かは秘密にしたまま振る舞った犬肉スープと、具は菜っ葉が入っている程度の、湯で嵩(かさ)増しされただけのまさに昔ながらの増水と書いた方が適切な雑炊。

 そんなものを美味しいと言い、涙すら流していた真冬の姿を見たミチの胸は、激しく痛んだものだ。

 

 その夜の内に、ミチは真冬を連れて子供服を探しに向かった。

 流石に賽の川原に子供服を持っているものはいない。

 そして、神室町は歓楽街だ。

 子供用の衣服を探すのは骨が折れる。

 そう思ったが、案外簡単に見付かった。

 

 中道通りを真っ直ぐ南へ、昭和通りに向かう角に大型の総合ディスカウントショップがある。 

 食料品や酒は言うに及ばず、アダルトグッズや電化製品、衣料品なども安く手に入るのだ。

 

 現在、真冬はそのディスカウントショップでミチに買って貰った衣服を着ている。

 気に入った服があれば、どれでも良いよとミチは言ってくれた。

 その言葉に甘えるのもどうかと真冬は思ったが、ミチに押しきられた。

 

 案外、服を探し回るのは楽しかった。

 こんな楽しさを覚えたのは初めてである。

 虚ろな紅い瞳に、年相応の無邪気な光が宿っていた。

 

 真冬が選んだのは、パーティグッズかアダルトグッズか、ミチから見てコスプレ服としか思えない代物だった。

 それはどうかと思うものの、どれでも良いと言った手前、反対はしなかったが。

 真冬自身はその衣服に一目惚れだった。

 至極普通に、自然な感想でただただ可愛い、真冬はそれを見てそう感じたから選んだのだ。

 

 ゴスロリ服を──

 

 コスプレ衣装なのだろうが、安っぽさは特に無い。

 生地も裁縫の仕立ても悪くは無いだろう。

 だが、全体的なデザインは、メイド喫茶などのメイドが着るようなコスプレ感の溢れるものだった。

 

 メイド服とゴスロリ服とは別物だと言う。

 しかし、こうした商品は似たり寄ったりな所があるものだ。

 

 白いフリルにレース、主だった布は黒。

 黒いヘッドドレスなども付属している。

 

 防寒具としては、ゴスロリ風のケープなども購入した。

 スカートは短めになるが、今まで履いていた丈の合ってないものと比べれば、幾分もましである。

 

 ゴスロリ服なら下着はドロワーズにしたい所だが、ミチも真冬もその辺にこだわりは無く、ごく普通の白い女子用のショーツと黒いタイツを買い、今はそれを履いている。

 足元は黒いリボンシューズ。

 肩にはショルダーストラップが鎖製である小さな黒いポシェットを掛けていた。

 

 黒と白のコントラストが奏でられたゴスロリ衣装を身に纏う、白い少女。

 驚く程の美少女がそこにいた。

 蛆虫など、もういない。

 いや、元から、そんな者はいないのだ──

 

 

2.

 神室町劇場前広場

 

 ゲームセンターやクラブハウス、巨大な劇場、幾つかの店舗が目に入る。

 少し離れた所にはボーリング場もある。

 特別、真冬に用は無い場所が殆どだが、仔犬の目撃者が居ないか、ゲームセンターなどで聞いてみるのも良いかも知れない。 

 クラブハウスのデボラには入店は出来ないだろう。

 

 劇場前広場は老若男女、大勢の人でごった返し、年末故か人混みはかなりの激しさだった。

 聞き込みには向いているであろうが、とてもではないが、ここに野良犬となった仔犬は居ない──と考えられた。

 飲食店のごみ捨て場などで餌を得ようとしていることも考えられるが、店主が余程の動物好きでもなければ追い払われる筈だ。

 

 それでも、真冬は仔犬を探し出して、保護したい。

 その為には労力を惜しまない腹積もりである。

 仔犬は遥と言う少女が数日間保護していた野良犬だとモグサから聞いた。

 しかし、彼女はこの神室町を去る時に、その仔犬を連れていく事はなく、劇場前広場に置いていったらしい。

 

 一度、人の手から餌を与えられ、暖かい場所で過ごした犬が野良に戻り、自分で餌を獲るのは難しい。 

 野性動物が怪我などを負った為、人に保護され、治療のあと自然に還されるのとでは訳が違う。

 彼らは産まれながらの野生なのだ。

 

 真冬は仔犬を自身に重ねてしまっている。

 ミチと言う暖かい存在に触れてしまったからか。

 遥と言う少女は、仔犬がはぐれている母犬と再会出来るようにと考え置いていったらしい──だが、真冬の考えは全く違った。

 

 母犬と仔犬が仮に再会出来たとしても、暫く離れていた母犬は自分の子供で在ることに気付かない。

 仔犬の方も然りだ。

 犬は比較的頭が良いとは言え、あくまで動物である。

 人が考えるよりも、親子の情も希薄であり、何よりそこまでの記憶力は無いに等しい。

 親子なのだと認識しているのは、常に側にいるからである。

 

 また、真冬が特に気になるのは、仔犬(ぽちたろ)は、野良犬が産んだ仔犬だったのか、と言う事である。

 本来は飼い主がいたのだが、何らかの理由で飼い主とはぐれた。

 で、あるなら、母犬の存在は神室町にあるとは考えにくい。

 そして、真冬本人は知らないことで、これは彼女の想像だったのだが、実は当たらずとも遠からずの可能性がある。

 遥と仔犬(ぽちたろ)が出会ったとき仔犬は、首輪をしていたのだ。

 神室町に棲む野良犬が母犬で、彼女が産んだとしたら、首輪をしているのは不自然なのである。

 まず、母犬とはぐれたのではなく、人間の飼い主が棄てたか、或いははぐれたのだろう。

 

 更に恐ろしい可能性がある。

 仔犬は元々、何らかの動物保護施設の出身で、引き取り手を待っていた。

 そして、名乗りを挙げた引き取り手こそ、仔犬を虐待していた“よっちゃん”達だった──

 動物を愛する人間には想像も出来ず信じがたい事であるが、虐待を行いがために保護施設から動物を引き取る様な人間も、また確かに存在するのだ。

 この可能性が真実だとすると、他の可能性と同じく母犬の存在が神室町にあるとは思えないだろう。

 

 広場にあるごみ捨て場を見て回る。

 しかしながら、当然仔犬の姿は無い。

 

 周囲の人の波──

 彼らは、真冬と言う、稀に見る美少女に目を引かれ、すれ違えば振り返り、遠目に眺める者、わざわざ近くに見に来る者も居たほどだ。

 背は年齢よりも低く、線も細い。

 だが、どこか大人びた艶もある。

 その艶っぽいとも言える不思議なオーラが、彼女を一層美しく際立たせているのだ。

 真冬は、自身の稀な美しさ、可憐さに気付いていない。

 しかし、人が向けてくる視線には気付いている。

 

 以前の服と同様にゴスロリ服には幾つかの道具(ぶき)を仕込んでいた。

 ミニスカートの内側、左太股にはナイフを帯刀したベルト。

 黒いリボンシューズの踵には左右にまち針と縫い針を四本づつ。

 シューズのリボンの結び目には剃刀が。

 肩から提げた小さなポシェット内には彫刻刀五本と錐一本、そして、デザインナイフ二本と替刃25枚入りを1ケースだ。

 ショルダーストラップの鎖も彼女が振るえば、充分に暗器となりうるだろう。

 

 好意の視線が殆どであるが、真冬はその視線を警戒し、いつでも武器を取り出せる準備を、全身に命令していた。

 

 

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