※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

121 / 139
迦陵頻伽、倉庫へ

 谷村が運転する車で、リョウガは、“倉庫”へ向かっていた。

 法定速度ぎりぎりで、車が走っている。

 先程、焼き肉屋で惨劇を行った事など、もはや気に止めていない、そんなリョウガの落ち着き様に、谷村は戦慄していた。

 

 リョウガの、白黒反転した双眸が、じっと前方を睨んでいる。

 

 妹を助けるんや──改めて、倉庫へ向かう理由を尋ねると、リョウガは谷村にそう答えた。

 この少女は、この先の倉庫で待つ者との戦闘について、考えているのだろう。

 前方を凄まじく堅い双眸で睨んでいる。

 しかし、リョウガが見ているのは、車外の光景ではなく、倉庫で待つ何者かなのだ。

 

 妹、恐らく真冬の事なのだと谷村は推察した。

 何故、あの場所に囚われているのか。

 美しい幼い少女である……それだけで、あの倉庫に囚われてしまう理由になる。

 そんな、理不尽な不運に、リョウガの妹は遭っているのだろう。

 倉庫の存在を知る谷村には、それが理解出来るのだ。

 

「ありがとな、お兄さん。停めて貰(も)ろてえぇか?」

 

 大阪弁のイントネーションでリョウガが言った。

 倉庫群の並ぶ埠頭まで、あと、車で二十分は掛かる距離だ。

 リョウガが車で送って貰う事を選んだのは、外しの使用時間を温存するためだ。

 外した状態で走ったなら、確実に法定速度で走る車を上回る速度を出せる。

 外しの段階によってはレーシングカーの最大速度を上回る事も可能だろう。

 

 しかし、今日は外し過ぎた。

 倉庫での戦闘を考えての温存であった。

 だが、この距離から外して自分の脚で駆ける。

 そして、外したまま、戦闘を開始するつもりだった。

 

「まだ、それなりに距離があるが──」

「向こうにお巡りさん連れてく訳にもいかへんしなぁ」

 リョウガは、幽かに微笑する。

 右側だけ、口の端から頬骨まで裂けた笑顔は、元が美少女故に、異形の者が纏う、艶やかな蠱惑さも感じられた。

 恐ろしい事に、傷口は血が止まり、薄く皮が張っている。

 裂けてしまっているのはどうしようも無いが、その断面は既に癒え始めているのだ。

 

「私の名前は呉陵伽や、お兄さん、またどっかで会えたらなんか、お礼させて貰うな」

 リョウガの名乗りに応え、谷村もまた名前を告げた。

「何かあれば、亜細亜街の中華料理屋『故郷』に訪ねてくれ」

 

 リョウガは、軽く手を上げ、そして走り出した。

 裸足で、アスファルトを踏み、蹴るように駆け出した。

 その一歩で、アスファルトが抉られ、砂塵の様に破片が舞った。

 豪雨のなか、谷村は、既に遥か遠くにあるリョウガの背を、見送っていた。

 

 ──人が人の肉を喰らう。

 悍ましい光景だった。

 だが、谷村の心境としては、リョウガのそれを、悪と断じる事がどうしても出来なかった。

 口を割らせる手段。

 あれ程の化け物相手に、それはどれ程あっただろうか。

 妹の救出──時間も無いのである。

 

 だが、睾丸を金柑と称して、舌の上で転がす様を思い出すと、どうにも幻痛めいたものを覚えてしまい、早くその光景が記憶から消えてくれと、願うのだった。

 

1.

 デボラのマスター伊集院は、源王会の極道と銃撃戦を開始していた。

 銃撃だけではない。

 待機しているであろう、貸倉庫内に、手榴弾を放り込む。

 日本の埠頭が、戦場の様相を呈していた。

 極道達の武装は、拳銃や散弾銃、短機関銃などまちまちだった。

 腕前も当然差がある。

 躊躇いなく撃てるものも、若干の躊躇を見せ発砲が遅れるものもいる。

 彼らは、伊集院が両手で放つロケット弾の爆発で吹き飛ばされていた。

 そして、ジープの銃架から外したブローニングM2重機関銃を手にするのだった。

 

 伊集院の目的は、突入組を援護する為の陽動も兼ねている。

 少し離れて、古くからの知り合いである、ミニクーパーの男も銃撃戦を始めたのか、銃声が聞こえていた。

 

 神室町の種馬──

 神室町の一発狼──

 神室町の掃除屋(スイーパー)──

 四十代半ばの壮年であるが、見た目は三十を過ぎた程度だ。

 銃の腕前も、衰えていない。

 真冬救出の為に声をかけて見たところ、意外にもあっさり承諾したのだ。

 彼の名は、冴羽獠──人呼んで、シティーハンターである。

 

 獠は、身を翻し、咄嗟に転がった。

 彼が既に離れたその場所へと、一瞬遅れて数発の弾丸が撃ち込まれる。

 直ぐ様立ち上がり、近くの貸倉庫の窓から内へ、身を躍らせていた。

 

 源王会の極道が放った無数の弾丸を掻い潜り、躱し、闇に潜む。

 ──そして、獠のコルト・パイソンから放たれる弾丸は正確無比に彼らへ撃ち込まれていた。

 

 その倉庫内は薄暗く、人の気配は無かった。

 貸倉庫群に囚われている少女──真冬は、ここには居ない様だ。

 人気が無い、倉庫を後にしよう、と。

 

 ──その時だ。

 鉄球クレーン車の分銅が建物へ激突したかのような轟音が轟いた。

 獠は、窓から顔を出し、そちらへと視線を向ける。

 

 凡そ8m離れて建っている別の貸倉庫の壁が、内側から粉砕され、そこから、剛志の巨躯が弾き出されたのだ。

 壁を突き破ったのか。

 184cm125kgの体躯が宙を舞っていた。

 

 剛志が、アスファルトに叩き付けられ、二度バウンドした後、止まった。

 獠は、立ち上がった剛志の顔を見て、一瞬我が目を疑った。

 左右の鼻孔が、上向きに裂けていたのだ。

 

 良く良く見れば、鼻尖が失われているようだ。

 

 そして、彼を追って来たのか、壁の奥から一人の男が悠然と歩んで来た。

 元横綱の蒙将龍だ。

 二年前真冬に敗れ、だが、この倉庫では三度真冬を破った男である。

 そのリベンジは、レイプと言う形で果たしたのだ。

 

 蒙将龍は、剛志の足元へ、人差し指と中指で挟んでいたものを投げ捨てた。

 ──肉片だ。

 剛志の鼻頭であった。

 鼻孔に、人差し指と中指を突き入れ、二指で挟み込み、無造作に放り投げたのだ。

 その際、掌側を上向きに、指を突っ込んでいた。

 そして鼻孔内で二指を鉤状に曲げ、挟み、引っ掛けたのである。

 

 剛志は、千切られた鼻尖に視線を落とし、幽かに舌を鳴らした。

 ゆっくりと右脚を上げ、その肉片を踏み潰す。

 ──そして、蒙将龍に笑いかけた。

 鼻尖を千切られた顔面から、血が滑り、口をつたいアスファルトへと滴っていく。

 凄まじい笑顔であった。

 

「大丈夫かっ!?」

 

 獠が剛志へと声をかけ、人気が無かった倉庫から飛び出した。

 駆け寄ろうとする獠を、剛志は制した。

「平気だ、俺の事より、あんた、真冬の救出に向かってくれや、場所はもう分かってる」

 

 四番棟──

 貸倉庫群の中に、番号が振り当てられている棟がある。

 色分け等はされていない。

 

 剛志は、簡潔に告げるや、蒙将龍へと掴みかかるのだった。

 蒙将龍は、股を割り、蹲踞の姿勢を取った。 

 

「──そうか、よし、そっちは任せた。死ぬんじゃないぞっ」

 剛志とほぼ同時に、獠も四番棟へと、走り出していた。

 

『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?

  • そのままで良い
  • 残骸置場行きが良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。