範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
真冬の小さな左手に、巨大な陰茎が握られていた。
幼女が陰茎を握る──その言葉から受け取れるような、淫らな状況ではない。
とは言え、悍ましさはあった。
巨大なそれは、四本に割れており、まるで、陰茎の束となっているのである。
白い真冬の手が、陰茎から溢れる赤い血で汚れている。
手や指から伝い、細い手首へと流れて、赤く染めていく様に、血が這っているのだ。
ポタポタと、不気味なリズムで、床にも滴っていた。
真冬は、その陰茎の束を手から離す。
堅さも失い、もはや肉片でしかないそれは、するりと滑る様に床へと落ちて行った。
何処と無く哀れみを誘う光景であったかも知れない。
だが、数多の女へと、死にも等しい苦痛を与えてきた邪淫勁の要が、完全に断たれたのである。
真冬の視線の先には、鎬紅葉の姿があった。
その事に気付いた、紅葉は戦慄していた。
息を飲んだと言って良い。
虚ろな紅い双眸は、不気味さを醸し出しているのだ。
自分を見ている。
それ以前に、気付いているのか。
明らかに異常であった。
射貫く様に見据えられていた真冬の視線が動いた。
逸らしたのではない。
移動させたのだ。
その視線が新たに向けられたのは、一匹の仔犬であった。
──生後二ヶ月程度のゴールデン・レトリバーだ。
垂れ耳を後ろに下げ、声音を押し殺した高い金属音の様な鳴き声を上げている。
どんな目に遭って来たのか、別段動物好きでもない紅葉ですら想像したくない程の、憔悴し怯えきった様子だった。
そして仔犬から、再び、紅葉へと視線が注がれたのである。
紅葉は、その視線の流れの意味が理解出来なかった。
普通なら気付きようがない存在である自分を見ている。
完全に身を潜めていた訳ではないが、存在を知らせる様な失敗はしていない筈だ。
そうした自負が、却って混乱や動揺を呼び込み、理解力を鈍らせているようであった。
悪樓は、股間を右手で庇う様に押さえ、蹌踉めいた。
縺れるような足取りになっていた。
新たに発生した激痛。
女性を犯し、痛め付け、自身の快楽にしていた逸物が、そこに、無い。
快楽の中心であった物が、今は、激痛の発生源と化しているのだ。
だが、そこまでの状態にも拘わらず、その目は、敗者の物ではなかった。
睾丸を潰され、陰茎を毟るように千切られた。
左腕は肘を破壊され、骨も突き出ている。
顔面はまるで陥没しているかのようだ。
それでも、闘志が死んでいない。
心が折れていないのだ。
普通、常人ならば睾丸を打たれただけで悶絶し、心が折れる。
嘔吐し、意識を失う事だってあるだろう。
仮にいっぱしの格闘家であってもそうなるであろう。
睾丸への打撃はそれほどまでに苦痛を伴う物なのだ。
しかも、悪樓の場合は、打たれただけではない。
打たれた上に、潰されたのだ。
──凄まじく、恐ろしい精神力だった。
──闘志であった。
何が、彼の精神を、ここまで繋ぎ止めているのであろうか。
今、此処に立っているのは、女を犯すことを楽しむ単なる強姦魔ではないのだろう。
邪淫勁・悪樓──
確かに彼は、女を犯し調教することを生業としている。
しかし、また、武術家としての側面も併せ持つのだ。
その武術家としての彼が、顔を覗かせ、両の足で立たせているのである。
──亜細亜裏武術省『
それが、悪樓のもう一つの姿だ。
陵伽と交戦した劉星龍が属する黒社会『
八部衆──その中でも、武術的な実力者の一人なのである。
悪樓は、踏み
軸足が払われ、体勢を崩されながらも、倒れなかったのだ。
悪樓は、身長226cm体重218kgと言う巨躯だ。
膝立ちで100cmほどの真冬は、悪樓と比べると、半分にも満たない身長差になっているのである。
そして、その肉の量感が桁違いだった。
悪樓は肥満体ではない。
その体重の殆んどが筋肉の重さなのだ。
体脂肪率、実に6%を下回るのだ。
圧倒的な身長と筋肉量を誇る悪樓──そして、年相応の平均よりも小柄な真冬。
表の、あらゆる格闘技の試合で、起こり得ない体格差である。
御式内とは、小柄な者に向いた秘伝武術とされる。
例えば、御式内を継承した
しかし、そんな御式内と言えど、ここまでの体格差を考慮し、体系化されているとは到底思えない。
江戸時代はおろか、明治の世でも、身長226cmの相手と戦う事が想定されている訳が無いのだから。
しかも、真冬は120cm35kgと、武田惣角と比べても単身痩躯なのだ。
──だが、真冬は、未だに膝立ちのままであった。
何故ならこれは、御式内対悪樓の戦いではなく、『御式内に似た技術を扱う真冬』対悪樓なのだ。
本来の御式内が想定していない状況──それは、何の意味もない事である。
技術が戦うのではない。
肝要なのは、技術とそれを扱う者が合わさる事である。
故に、真冬は、なおもこの技術を使うのだ。
それは、右膝の前後十字靭帯、左足アキレス腱が断裂している事も影響している。
痛みも無い。
バランスも損なわれてはいない。
しかし、それでも、下手に動き回るよりも、御式内の構えを取ることが適切であると、真冬は考えているのだ。
元々、相手の技や狙う部位を制限する御式内である。
これ程の身長差を考えたら、常よりも、自ずと悪樓の攻撃は足技に制限されるだろう。
手技なら頭上から打ち下ろすくらいになる。
組み付こうにも、余程の低空からのタックルになってしまう。
胴体に組み付くのは困難であり、脚を捕るのは不可能である。
御式内を前にする──それは、もしかしたら『猪狩アライ状態』に、似ているのかも知れない。
プロボクサーであり打撃中心の戦法を得意とする『マホメッド・アライ』に対して、プロレスラー『アントニオ・猪狩』は、仰向けに寝そべり迎え撃つという戦い方を行ったのだ。
攻撃手段を制限し、封じ、自身が有利となる戦闘へと導いていく体勢、それが、通称『猪狩アライ状態』である。
真冬と悪樓の現状も、同様にして、悪樓側の攻撃手段が大幅に制限されてしまっているのだ。
そして、真冬側が反撃しやすい状態になっていた。
無論、最も手っ取り早く、御式内を崩す手筈はある。
銃火器で撃てば良いのだ。
だが、全裸の悪樓が、銃火器を携帯していない事は明白である。
この闘争も突発的に起きたものだ。
性欲処理人形であった真冬との闘争が、突然始まったのである。
性欲処理人形を前にして、武器を携帯している筈がなかったのだ。
油断であると、言い渡すのは、流石に哀れだろう。
踏み止まった瞬間の事だ。
右拳──
なんと、悪樓は蹴りではなく、拳を真冬の頭部へと打ち下ろして来た。
一瞬、蹴りを見舞うと言う風に、堪えた脚、太股の筋肉を震わせた。
気が満ちて、熱を持ったのは脚だった。
蹴りの起こり──その脳の伝達をフェイントとして織り交ぜたのだ。
どうと言う事は無いフェイントである。
蹴ると言う気配を真冬にぶつけたのだ。
だが、真冬達の様な、動作0.5秒前に発せられる脳の伝達を察知している相手には却って有効となる、そんなフェイクだった。
そうした未来予知染みた知覚力を有していない鎬でさえも、悪樓の蹴り脚が跳ね上がって来る──そんな風に感じられた程の鮮明なフェイクなのだ。
しかし、実際に打たれたのは、パンチであった。
岩石が降ってきた。
打ち下ろされた拳が、落石の様相を呈しているのである。
拳から発せられる威圧が、そうした物であるかの様に幻視させるのだ。
その巨岩が──そして、218kgの肉体が宙に舞っていた。
紅葉は、我が目を疑った。
その一瞬で起きた出来事が、余りにも信じがたく、異様な物だったからだ。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い