範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
この一場面を切り取り、何も知らぬ者に見せたなら、彼はこの状況についていかなる感想を持つだろう。
何が起きているのか、何をやっているのか、果たして理解出来るだろうか。
一見するだけなら、あまりにも異様な光景だろう。
──撮影現場
大して考えずに答える者なら、そんな風に推察するかも知れない。
だとしても、異常な撮影である。
切り取られた場面には、二人の人間がいる。
その一人を見るなら、児童ポルノか。
しかも、違法中の違法と思われる部類の物だ。
スナッフ・フィルムの類いであろう。
全身、打撲の痕が見受けられる。
裂傷もある。
臍の下辺りに、何かが突き刺さっている。
突き出ている部分は折れているが、彫刻刀の持ち手部分だ。
刃先ではなく、柄が下腹部に刺さっているのだ。
どんな恐ろしい力が加えられたのであろうか。
陰部は血塗れだ。
そんな一糸纏わぬ裸体の少女が、膝を床につけ、跪座に近い体勢で座しているのだ。両手は、膝の上にある。
その少女の前には、俯せで踠く大男がいる。
彼も全裸だ。
彼は、右足のアキレス腱が抉れていた。
左腕の肘の骨が異様に突き出ており、小指が恐ろしく捻れ曲がっていた。
俯せなので、一場面だけ見た場合、確認出来ないかも知れないが、彼の睾丸と陰茎は潰れ、失われている。
どういう状況にあるのか、直ぐに答えを導き出せる者などそうはいない、そんな異様な光景が、ここにあった。
當之真冬
邪淫勁・悪樓
両者の因縁も終幕が近いようである。
悪樓の呼吸が荒い。
苦し気に喘いでいるのだ。
喘ぐ。
文字に起こせば、艶のある性的な表現に読めてしまうかも知れない。
だが、彼の喘ぐ様は、そうした『淫靡な喘ぎ』では無い。
アキレス腱を捥がれ、それを目潰しとして眼球に投げ付けられたのだ。
彼の喘ぎとは、繰り返される苦し気な呼吸音なのである。
しかし、どこか不気味でもあった。
その喘ぎには、苦しみで怒りを増幅させようとしているような、太い荒々しさ、雄々しさが込められているのだ。
その不気味さは、呪詛を吐き続ける怨嗟の鬼のようでもあった。
その異質さに、真冬も気付いている。
故に、攻撃に備え、御式内の構えを解いていないのだ。
警戒していた。
気配を感じ、彼から生じるあらゆる音を聞き、呼吸を合わせ、氣の流れにも同調している。
しかし、不思議な事に、視線は彼に向いていない。
真冬の虚ろな紅い双眸は、鎬に向けられているのだ。
その双眸が、何かを訴えているのだと鎬は察したが、その答えが見えて来ない。
真冬は、鎬から発せられている気配や氣の流れ、脳の電気信号から敵意の無さを感じ取っていた。
更に、うっすらとした記憶の中で、柄本に見せられた医師の姿と、彼が重なるのだ。
自身の負傷を診察してくれる医師だと聞いている。
一般的に想像する医師と何か異なる雰囲気が、画像からでも感じられた。
器械体操の様な運動をしているスポーツマン。
白衣を着た医者としての姿。
それら二つの姿の画像を見せて貰った。
最初に抱いたのは「あぁ、戦いたくないな」と言う、普通、医師を見たときに抱く感情とは、かけ離れた物であった。
写真だけで、真冬は、鎬紅葉の戦闘力と、不穏な異常性を見て取ったのだ。
怖いな、とも思ったものだ。
それらを踏まえて、向こうで身を隠している男は、恐らく鎬だろうと、その答えに繋げたのである。
医師なら、あのゴールデンレトリバーの仔犬を早く助けてあげて欲しい──真冬は、そう目で訴えていた。
声に出せば、悪樓がどう動くか分からないので危険だ。
真冬が、仔犬を重視していると勘づけば、仔犬を利用し、盾にするかも知れないのだ。
真冬が、仔犬を嘉信達から守った姿を見ているので、気付いている可能性もある。
だが、今のところ枷として利用されていない。
とは言うものの、切っ掛けを作る事になってしまう危険性は怖く、避けたかった。
悪樓は唸っていた。
視力がまだ回復しない。
投げ付けられたアキレス腱は、確実に黒目を擦り、網膜を剥がさんばかりにぶつかってきたのだ。
しかも、血糊がべったりと眼球に附着してしまった。
脂に似たものが膜のように、眼球にへばりついているのである。
手を伸ばせば、真冬の細い膝に届く。
そこまで、接近している。
しかし、悪樓は、新たな動きを未だに起こせずにいた。
底無し沼で溺れるような感覚に纏わり付かれている。
荒い呼吸は、酸素を求めるようにして繰り返された。
そんな中、悪樓の内で、真冬への憎悪が膨れ上がっていた。
憤怒の焔が、点っている。
爛々とした朱い物が肚で、熱を伴い膨張していた。
それが、感情を昂らせていくのだ。
邪淫勁──
女を支配し、壊す者だ。
俺は、凌辱者なのだ。
剄神山八部衆に数えられる男なのだ。
俺は邪淫勁・悪樓だ。
女の前で無様に転がって良い訳がない。
この、真冬だけは、赦さない。
──殺す。
朱い焔が、黒い憎悪と殺意を薪とし、燃え滾っていく。
「ぶち殺してやるぞ……クソガキがぁっ」
喉仏も、壊されている。
故に、その叫びは掠れており、何処か枯れた咳の様な物が混ざった異様な声だった。
顔を挙げた。
やはり、まだ視力が回復していない。
距離感が掴めないほどに、ぼんやりとしている。
水中に慣れない子供が、水中で目を開けたような、薄い膜が目を覆っているような──そんな状態であった。
右腕を伸ばし、それを軸にし、上体を起こした。
そこで、真冬は一気に詰め寄った。
膝をついた状態とは思えない速度だった。
その時には、腹に刺さっている彫刻刀の柄を持ち、引き抜いていた。
鮮血が、迸った。
そして、引き抜いたと同時に、彫刻刀の柄を突き出した。
それは、悪樓の右目に深々と潜り込んで行く。
抉り込むように捻る。
そこから、更に左目の方へ横に薙ったのだ。
恐ろしい音が響いた。
眼窩から鼻根部の骨を砕く音だ。
そして、真冬は、右の眼球と共に、左目を巻き込み振り抜いた。
左の眼球が、引き摺られるように溢れ落ちた。
──真冬が行う人体破壊。
それは、恐ろしく執拗な物だった。
無数の蟻が巨象をじっくり解体していく様に、様々な技術や道具を以て、人体を破壊していくのである。
だが、目は見えなくとも、悪樓はその攻撃により、真冬との位置関係を把握したのだ。
右足で床を蹴り、飛び込むような格好で、右腕を伸ばした。
髪を掴んだ。
真冬の長く白い髪をだ。
憎悪と殺意と憤怒が、身体を動かしている。
両目を潰された。
それでもなお、執念を燃やし続けているのだ。
心は、まだ、へし折れていない。
雌に、負ける筈が無い。
そんな、邪淫勁としての矜持と自負が、最後の支えなのである。
悪樓の上腕二頭筋が膨れ上がった。
烈帛の気合いを込めて叫ぶ。
真冬の髪を掴み、引き寄せた。
それに合わせ、真冬は膝と立てた足の親指と小指以外の三指を軸に、回転するように、膝行した。
──そして、宙を舞ったのは、またもや悪樓であった。
髪の毛で、投げられたのだ。
体重や重力がそこに無いかのように、悪樓の体躯が浮かび上がっていた。
──
一見、手品か何かと見紛う、そんな状態であった。
大東流合気柔術の技術である。
本来は修行の一環で行われる物だ。
互いに紙縒りの端を持ち、切られること無く相手を投げる鍛練である。
武田惣角が幼少の折りに、西郷頼母からこの修行を受けたと言う。
現代でも、この鍛練を行う者がいる。
格闘技の世界征服を企む磯村露風だ。
彼は弟子に、これをゲームとして、やらせるのだ。
どこまで本気か分からないが、楽しみながら強くなると彼は嘯く。
これが出来たなら、例えば胴着を掴まれた状態から、こちらが相手を掴むこと無く投げる技術となり、実戦でも通用する鍛練なのだ。
真冬は、悪樓が髪の毛を引っ張る力を利用して、投げたのである。
今回の場合、髪の毛を紙縒りに見立て紙縒り投げを行っていた。
悪樓の身体が逆さまになっていた。
頭が、下に向いている。
頭部から、落下していくのだ。
そこで、真冬は声を上げた。
幽鬼のようなか細い声だが、鎬の耳に届く程度の声量はある。
「仔犬さんをお願いいたします」
「なに……!?」
その言葉で、鎬は視線の意味を察した。
真冬は、あの向こうで怯えている仔犬を助けて欲しいと考えているのだ。
鎬は本来、真冬の救出の為に、倉庫にやって来た。
だが、戦闘を行っている姿に興味が湧き、見物するうち、いつしか魅入ってしまっていた。
咄嗟に、鎬は梯子を蹴り、下へ伸ばす。
そして、約8m下へ飛び降りたのだ。
ほぼ同時に、悪樓の身体も落下していく。
そして、真冬の左手五指、全ての爪が、急激に伸び出した。
ぎゅらりと、そんな音が真冬の体内から聞こえるかと思える程に、彼女の血流が凄まじい早さになる。
レーシングカーのエンジンがトップスピードになるように、真冬の心臓が早鐘を打ち鳴らし、血液を全身に凄まじい速度で循環させるのだ。
揺らめく髪も伸びていた。
その五指を揃えた。
コンクリートの床に、悪樓は頭から落ちた。
コンクリートと頭蓋骨がぶつかる。
太い頚が、潰れる様に曲がっていた。
しかし、骨は折れていない。
真冬には、それも見えている。
まるで、透視能力である。
そして、恐ろしく、加えて悍ましい一撃を、真冬は放った。
未だに流血を続ける千切れた陰茎の根元。
そこへ向けて、鋼板を穿つ爪を叩き込んだのだ。
ぞぶりと、爪は根元に突き刺さった。
更に潜り込んでいく。
それは、順々に。
爪、指、掌、手首、前腕──
恐ろしいこの攻撃は、まるで、千切れた陰茎の根元へ挿入される──宛ら、フィスト・ファックの様相を呈していたのである。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い