※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

129 / 139
掟破りの、逆フィストファック

 

 ズルリと、真冬の左手が引き抜かれた。

 手首の付け根と肘の間まで、潜り込んでいた。

 左手が、赤黒く染まっている。

 

 附着した血が、滴り落ちていた。

 悪樓の、曾て男性器が生えていた付け根部分が、穿たれたように穴が空いている。

 陰茎が引き千切られ、穿たれたそこは、常軌を逸した手段で作られた女性器なのだ。

 

 男の股間に無理矢理作られた、女性器に対してのフィストファック──。

 女を犯し、調教する男への皮肉を込めた一撃──にも見えるが、真冬の意識の上では、そうした意味合いは無い。

 

 人体急所が見える双眸で見た結果、そこから内臓や骨に攻撃を加えただけである。

 膀胱や腸はズタズタになっているだろう。

 

 悪樓は、仰向けに倒れていた。

 ごぼりと不気味な音と共に血を吐いた。

 血の混ざった泡が、口に残り、今も溢れ続けている。

 

 真冬は、それを虚ろな紅い双眸で見据えていた。

 その真冬の元へ、鎬が急いだ。

 

「殺したのか」

「まだ、終わってません。ですから、仔犬さんをここから出してあげて下さい。あの子は、疲弊してます」

 

 その真冬の言葉に、鎬も返答に困った。

 そもそも真冬を救出に来たのだ。

 しかし、肝心の真冬は、何と仔犬の心配をしているのだ。

 鎬の見立てでは、真冬の状態も非常に悪い。

 

 腹部から夥しく流血している。

 彫刻刀の持ち手部分が刺さっていたのだ。

 その深さは10cmを越えていた筈だ。

 怪我の無い箇所を探すのが困難な程に全身傷だらけであった。

 

「私たちは、君の救出に来たんだ。今なら、ここを離れられるだろう」

 

「たち(・・)──ですか?」

 複数で来ているのか。

 真冬は、そこに疑問を持ち、更に疑問が湧いた。

「どうして、私を助けようとして下さるんですか?」

 真冬は、それが、理解出来なかったのだ。

 

 鎬は、困惑した。

 会話は出来るのに、どこか噛み合わない。

 人間と話している気がしないのだ。

「柄本先生と、東城会の柏木氏の依頼でね」

「柄本先生は知っています、柏木氏は存じません。それより、仔犬さんをお願い出来ませんか」

 

 一つの事柄に固執する。

 真冬のそうした、精神的な異常性が顔を出していた。

 

「……分かった。一先ず、あの犬を安全な場所へ連れて行こう。君も来るだろう」

「いえ、この人はまだ生きています。追撃されては、あの子に危険が及ぶかも知れません。私は残ります」

 

 これ以上何を言っても無駄か。

 鎬はそう判断を下した。

 外では、他のメンバーが交戦しているだろう。

 犬をまず連れていき、こちらに、他のメンバーを回そう。

 それが最善かと、鎬は考えた。

 仔犬の元へ向かう。

 

 鎬の身体が動き出そうとした時だ。

 真冬は、転倒している悪樓の顔面に向かって、突然右足を落としたのだ。

 

 悪樓が呻いた。

 そこで、鎬の脚も仔犬へと走り出したのだ。

 鎬は知らない事だが、真冬のこの攻撃は、仔犬の元へ向かおうとする鎬の邪魔をされないための追い討ちであった。

 

 容赦の無い執拗な攻撃も、真冬の狂気を表す物だろう。

 この僅かな時間で、鎬は、真冬の人格の異様さを把握しつつあるのだった。

 

 真冬は、ゆらりと移動を始めた。

 そして、梯子を背にする。

 悪樓が立ち上がっても、鎬と仔犬の元へは行かさない様にするためだ。

 

 鎬は、インカムで伊集院達に報告し、仔犬をケージに入れた。

 確かに、彼の目にも犬の調子は良くないと分かる。

 仔犬が離れ、真冬は漸く安心出来たのか、溜め息を吐いた。

 

 そして、思った。

 これで、心残りは無い、と。

 咳き込む様に、血が口から溢れた。

 僅かに、意識が遠のいた。

 急激に痛みが発生した。

 全身が激痛で悲鳴を上げている。

 痛みが無い箇所が無い。

 

 常態化している脳内麻薬だったが、常より異常な分泌をした為か、一気に底をついた様に、分泌が停止したのだ。

 疲労がのし掛かる。

 

 膣と尿道口、下腹部に、異様な違和感と激痛が襲ってきた。

 彫刻刀を突き刺した激痛が今になってやってきたようだった。

 脚が震えた。

 そして、崩れる様に、膝をつき、へたりこんだ。

 

 その時だ。

 梯子の上に気配を感じた。

 そして、その気配の出現に併せるかのように、悪樓が動き出したのだ。

 どさりと、梯子の上から何かが落ちて来た。

 

 そちらに視線を向ける。

 梯子を背にしていたが、今は梯子側と悪樓側に半身を向けていた。

 悪樓の方へは右手側を向けた。

 しかし、膝をついているとはいえ、御式内とは言えない、状態である。

 

 落下して来た者は、知った顔だった。

 ──カツアゲ坊主だ。

 生きている様だが、意識が無い。

 鎬の言う『たち』はこの男も含まれていたのか。

 

 カツアゲ坊主を放り投げた者も知っている。

 蒙将龍だ。

 

 重い音が響いた。

 蒙将龍が、降り立ったのである。

 凄まじい顔で嗤っている。

「何だ、この死体の山は。真冬よぉ、お前が殺ったのかぁ?」

 くぐもった様な声で笑った。

 怒っているのか、楽しんでいるのか。

 その両方が混じった異質な声だった。

「こりゃあ、仕置きが必要だなぁ、孕むまで犯してやるよ」

 

 疾った。

 一瞬で詰めて来た。

 そして、それに呼応するかの様に、片膝で悪樓が立ち上がった。

 悪樓の様子に、蒙将龍も気付く。 

 

「とんでもないガキだな、全く」

 さしもの蒙将龍も、背中に冷たい物を感じた。

 

「頭蓋骨大丈夫ですか」

 真冬は幽鬼の声で、囁いた。

 ゾクリと、鼓膜を震わせる声音であった。

 

 陽炎が、揺らめいた。

 真冬は、両の足で立ち上がった。

 そして、ゆらりゆらりと、水中を揺蕩うクラゲの様に、揺らめいたのだ。

 

「ありがとうございます」

 真冬は、頭を垂れた。

 その間も、揺れは続いていた。

「……何だと」

「生きたいことを、貴方の顔をみて思い出せました。私はまた、逢いたいあなた(・・・)に」

 

 幽鬼の声は、か細く、どこか舌足らずな、ろれつが回らないような口調になっていた。

 ぼんやりと、虚ろで、夢を見ているような口調であった。

 

「みどり(・・・)」

 城之内翠の顔を幻視していた。

 蒙将龍と交戦したあの日に、真冬は翠と出逢ったのだ。

 だからであろう。

 蒙将龍を前にしたことで、思い出したのだ。

 

 ──なんだ、心残りは有るじゃないか。

 

 ──だから

「ねぇ、貴方。しんでくださいね」

 はっきりと、そう宣告した。

 殺意を、ぶつけた。

 

 蒙将龍は恩人かも知れない。

 しかし、敵だ。

 翠との再会を阻む障害なのだ。

 

 真冬は、ゆらりと右腕を振るった。

 

 笛の音を思わせる、高い音が鳴った。

 短い音。長く吹いているのか、長い音。

 それが、ランダムに鳴り響く。

 笛の音の様だが違う。

 空気を裂く音だ。

 とてつもない速度で疾り、空気を裂いている。

 そして、遅れて、破裂音も響くのだ。

 

 何かが、音の速度を越えて空気を裂いて疾っている。

 

 その時だ。

 悪樓の胸元から腹部にかけて、そこから夥しい血が噴射するように迸ったのだ。

 

 ──鞭打

 真冬の右腕が、音の速度でそれを繰り出していた。

 

 異様な脱力であった。

 自分の肉体がある場所も分からない程だ。

 

「真冬ッッ」

 

 蒙将龍が絶叫した。

 何故なら、その右手の五指に、恐ろしい物が引っ掛けられていたからだ。

 悪樓が音もなく崩れた。

 仰向けに倒れ、そのまま動かなくなったのである。

 ──絶命していた。

 

 勝てない。

 圧倒的な、動かぬ山脈。

 そう思っていたこの巨人に、真冬は勝利したのだ。

 限界の果てに、漸く、その命を奪えたのである。

 

 その勝利の戦利品が、右手にある。

 

 胸骨ごと、肋骨を剥ぎ取っていたのだ。

 ──鞭打ではない。

 これは、真冬の強靭な爪と骨格があわさり生み出された真冬だけのオリジナルフィニッシュムーブの一つ。

 縄鏢掌であった。

 

 べきべきと肋骨を折る。

 そして、折ったそれを左手に持った。

 人差し指から小指の間に、それぞれ一本ずつ、計三本の肋骨の破片が握られていた。

 残りの胸骨は、蒙将龍へ投擲する。

 蒙将龍は、投げられた胸骨を体勢を低くして躱した。

 胸骨が裂いたのは宙空だ。

 

 胸骨が跳び去ると、真冬の右腕が遅れて襲いかかってきた。

 

 蒙将龍は、それを右掌と左手の甲で弾く。

 そして、右手で真冬の右手の中指を掴んだ。

 ──指取りだ。

 折った。

 と、蒙将龍は、思った。

 指を捕って、関節を逆に曲げたのだ。

 本来なら弾けるような厭な音が聞こえる筈だ。

 だが、まるで関節が無いかの様に、反らされて行くだけであった。

 

 真冬は、その中指を掴む蒙将龍の手、小指球辺りへと、自身の親指の爪を突き立てた。

 爪は、ずぶりと刺さり、咄嗟に蒙将龍は、中指を離したのだった。

 

 そして、背後へ跳んだ。

 

 真冬の関節は、異常な可動域を持つ。

 更に、それはまるで、軟体である。

 強靭かつ軟体。

 相反するものを併せ持つ、しなやかな、人ならざる関節を、真冬は有しているのだ。

 つまり、真冬には、まともな関節技は意味を為さないのである。

 

「……化物め」

 軽く舌を鳴らし、膝を深く曲げ体勢を下げる。

 そして、両の掌を広げ構えた。

 

 真冬が知る、蹲踞の姿勢を取らない。

 パターンを変えたのかと、真冬は考えた。

 とは言え、真冬は別に格闘技の流儀に明るくは無い。

 

 何を仕掛けて来ようとも、関係ない。

 どんな流儀でも、迎え撃つだけなのだ。

 真冬から、やることは、変わらない。

 

 蒙将龍の口から擦過音のような呼気が発せられた。

 前に出る。

 そして、右手を突き出す。

 掌底だ。

 更に、右足で、真冬の足を蹴りつけた。

 掌底は、顔面を狙っていた。

 真冬は上体を反らした。

 蹴りは、左足を持ち上げる様に躱した。

 が、掌底の軌道が変わった。

 

 真冬の左腕に向かって伸びてきたのだ。

 真冬は、その軌道の変化を初めから察知していた。

 故に、自身の左脚を大きく持ち上げる様に上昇させていたのだ。

 

 蹴りを躱すのと同時に、伸びて来た右手に膝をぶつけた。

 そして、跳ね上がった右手に、握り締めていた肋骨で打ち抜いたのだ。

 悪樓の肋骨を、寸鉄や手の内のような武器として扱ったのである。

 

 一本折れていた。

 そこで、指の間から手の平に移動させ、二本を束にして、握り込んだ。

 逆手に持つような形である。

 真冬は、人骨をも、武器とするのだ。

 

 その人骨の寸鉄は、蒙将龍の右手中指の、中手骨に罅を生じさせていた。

『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?

  • そのままで良い
  • 残骸置場行きが良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。