※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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カツアゲ坊主

3. カツアゲ坊主

 

 肌に突き刺さる様な寒さを覚える神室町の夜、少年は白い少女を目撃した──

 

 メイド?

 第一印象はそれだった。

 当然疑問符が浮かぶ。

 メイド喫茶か何かのバイトだろうか。

 流石に本物のメイドがこの歓楽街にいるとは思えない。

 

 年齢は幾つ位か。

 随分小柄な少女だった。

 外見だけで、白い少女──真冬の年齢を推し測るのは意外に難しい。

 顔立ちから大人びた印象も受けるが、小柄な為に幼くも見えるからだ。 

 

 少年──

 江頭(えがしら)剛志(ごうし)は11歳だ。

 自分より少女は年下だろうと、彼は思った。

 実際のところ、剛志も少年と呼ぶには幼い年齢だ。

 児童と呼ぶのが適切だろう。

 

 しかし、児童と言うよりも少年──

 大抵は彼を見て、児童と思わない筈だ。 

 

 まず何より、児童と呼ぶには判断に困るくらいの長身だった──180センチ以上はある。

 身長の高さだけではない。

 どうやればこれ程鍛えられるのか……肉の圧力が凄まじい。

 人間ドラム缶、或いは土管と言った所か。

 筋肉量が桁違いなのだ。

 樹齢100年の大木にベアハッグでもかけたなら、十中八九それをへし折ってしまいそうな太い腕。

 野生の獣の様な脚と異常に膨れ上がった頸部。

 分厚く、太く、巨大──

 しかしながら、肥満ではない。

 とんでもない小学生である。

 

 薄茶色のジャージ、白いTシャツ──

 裏側に薄い鉄板で補強し、爪先にも重い鉄を仕込んだ革靴を履いていた。

 それは、足を守る為だけでなく、キックの威力も上げ、更には重い靴は足腰を鍛えるのにも役立つのだ。

 丸坊主の頭部にはバンダナを巻いている。

 

 少年とも思われないかも知れない。

 とは言え、彼は11歳、まだまだ成長期なのだ。

 成人したときの肉体が如何様になっているのか、そら恐ろしい物があるだろう。

 

 この人間離れした少年の父親は、1988年頃に神室町を騒がせた“カツアゲくん”の一人、江頭宏哉だ。

 地上最強の生物を目指し、強者と思われる人物に喧嘩を吹っ掛け、金を奪う。

 その金は修行の為に様々な場所へ向かう旅費などに使われた。

 剛志もまた、父の意思を継ぎ、地上最強の生物となるべく、神室町でカツアゲの日々を送っている。

 通称──“カツアゲ坊主”である。

 

 剛志の父親は地上最強の生物を目指してはいたが、残念ながらその夢は既に断たれている。

 どうしようもない程の、厚く、高い壁と出会ってしまったからだ。

 神室町でカツアゲをしていた1988年頃も桐生一馬と言う極道風の堅気に何度も敗れていたが、いつかは彼を越える為に修行を怠りはしなかった。

 だが、神室町を発ち、出会ってしまった巨凶。

 その男こそが地上最強の生物であろう。

 白熊やライオン、虎、イリエワニだろうが──

 鯱やシロナガスクジラ、鮫だろうが──

 仮に巨大な甲虫やカマキリが現れても──

 或いは太古の恐竜、空想の産物とされるドラゴンや悪魔であっても──その男には絶対に勝てない。

 そう思わせる鬼神だった。

 それは、オーガ──

 

 “範馬勇次郎”その人である。

 

 剛志の目標となる存在だ。

 だが、オーガに近付く為にはまだ多くの試練や壁が残っているだろう。

 少年は、父親の戦闘能力に未だ劣る。

 オーガに敗れて、自身の修行は怠っており、実力自体鈍っているであろうにもかかわらず、だ──

 江頭がどう足掻いても及ばなかったオーガに勝つには、まず父親を越えなくては話にならないだろう。

 

 それに──

 地上最強の生物に近いものはまだまだ多く存在している。

 この神室町にやってきて、カツアゲ坊主として喧嘩を繰り返す内にそれが良く分かったのだ。

 

 先日、一人の少年と殴りあった。

 年齢は剛志よりも僅かに上の13歳。

 その少年とは喧嘩師“花山薫”だ。

 

 500円硬貨をねじ曲げ、本気で拳を固めたなら自身の力で拳を壊しかねないと言われる超人的な握力──トランプの束を摘まみ、引きちぎる程のピンチ力の持ち主である。

 

 実のところ“殴りあった”と言うには語弊があろう。

 最初のうちは剛志が一方的に殴り付けていた。

 殴り、掴み、蹴る──

 一方的な連打を続けた物だ。

 

 しかし、たった一発のパンチ──

 

 花山薫は、一方的な攻撃を食らいながらも、徐々に徐々に身を屈めていった。

 背は剛志に向けている。

 それは、一切の防御、迎撃を考慮しない──

 より強く、より重く、より速く──

 攻撃だけに特化した、花山薫ならではの超攻撃偏重型と言える姿勢である。

 

 花山薫の頭が下がっていた。

 その頭部にだめ押しとばかりの一撃を入れるが花山薫はびくともせず──

 

 たった一発のパンチを放った。

 

 それで、剛志の意識はあっさりと断ち切られてしまった。

 

 恐ろしく強い超雄(おとこ)である。

 剛志は、自分にとって花山薫は越えるべき最初の壁だと感じ──こうして、花山薫こそ彼の目標となったのだ。

 

 そんな江頭剛志だが、現在彼の目は一人のメイドに釘付けとなっていた。

 メイドの様な白い少女──

 白く長い髪に映える黒いヘッドドレス──

 レースとフリルで装飾され、左端には黒百合が表現されている。

 ロングケープを含めてスリーピースのゴスロリ服の胸元に彩られるフリルは白。

 全体的には漆黒の生地が美しい。

 少女自身は凡そ日本人らしからぬ肌の白さだ。

 黒と白──

 だが、虹彩と瞳孔だけは鮮血の様に紅い。

 

 彼女が遺伝子疾患である先天性色素欠乏症(アルビノ)と呼ばれる者だとは知らない。

 そもそも、そんな言葉自体知らないのだから仕方無いだろう。

 分かるのは、その少女があまりにも美しいという事である。

 

 だが、彼の心の内に在るものは、異性への好意ではない。

 例えば、観音菩薩像や聖母マリア像を見たら、男女問わず、等しく、それらを美しいと感じるだろう。

 剛志が真冬へ感じた好感はそれと同じだ。

 

 そして、真冬への興味は、その外見的な物だけに惹かれた訳では無かった。

 

 強い──

 何よりも、興味はそこにあった。

 

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