範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
2番棟が見えて来た。
制圧部隊『美髯』の男達は、時刻を確認する。
午前2時半──
この貸し倉庫群の隠れ簑──いや、本来の利用者達の活動開始時間を踏まえると、作戦行動時間は、60分がタイムリミットと考えていた。
ターゲットの當之真冬が居るのは4番棟である。
いつの間にか、雷雲は去り、今は強い雨音のみ響いている。
雨粒が、フルフェイスのヘルメットを伝う。
戦闘服は、雨を弾く素材でコーティングがされている。
降雨のせいで、水分を吸収し衣服が重くなる事は無い。
それでも、冬の雨が降る中では、かなり冷えた。
パシャリと、水溜まりを踏む。
各自、警戒を怠らず、行軍を続けていた。
ここに来るまでに、源王会のやくざと蚩尤街メンバーの死体や負傷者をかなり目撃している。
百人程度が“倉庫”には、常駐していた筈だ。
逃走した者も居るようだが、これだけの数をほぼ皆殺しにした襲撃者の正体が分からない。
どれほどの戦力なのか。
報告によると、数自体は、多く無いだろう。
十人に満たない。
余程の精鋭の集まりなのだと、予測出来た。
美髯の作戦行動隊長『
フルフェイスで良かった。
薄ら笑いを、部下達に見られなくて済むからだ。
1.
作戦行動隊長の発砲許可を待つ必要は無い。
各々の判断で、何者かと接触次第、発砲出来る。
自分達の足音ではない。
それが、濡れたコンクリートの地面の雨水を弾いていた。
その音を聞いた瞬間だ、二人が、トリガーを引いた。
それぞれ、別の方向へと銃口は弾丸を吐き出していた。
コンクリートを穿つ音が響いた。
もう一方は、金属がぶつかり合う奇妙な音だった。
金属の音が聞こえた方に発砲した隊員は、怪訝そうに眉を顰めた。
そちらから、一瞬、閃影のような物が過ったのだ。
──白刃が疾った。
ぬらりとした光芒が、闇を撫でて行った。
日本刀だ。
脇差より長く、太刀よりは短い。
小太刀の刃が、一文字に薙られていた。
辺りが、一瞬で血臭で満ちた。
閃影を見た隊員の喉から、血が噴射したのだ。
勢い良く吹き出していた血が、細く疎らな飛沫になっていく前に、その隊員の身体は倒れていた。
他の隊員は、四方を注視する。
建物の壁に寄って、死角をカバーするように、三人が背中を合わせた。
襲撃者は霧の様に消えていた。
「即死と腹上死、お好みは」
片言のような日本語が聞こえた。
そちらへ、二人が銃口を向ける。
5.56mmの弾丸が、初速930m/sで連射された。
そこには、凄まじい筋肉を誇る黒人男性が居た。
背丈は、隊員達と然程変わらないが、筋肉の量感が桁違いであった。
その『ゲイリー・バスター・ホームズ』は、相変わらずの意味不明な台詞を言うと、白い歯を見せる。
ゲイリーは、自動小銃の速射を計六発、腹と胸に食らった。
だが、被弾にも怯む事なく突進したのだ。
筋肉の層を撃ち抜けていなかった。
若干の流血が見られるが、胸筋と腹筋は、弾頭を筋肉の鎧で止めているのだ。
チタン製のメリケンサックを着けた右拳をスイングする。
9mm パラベラムの弾丸に対しての防弾性能を有するヘルメットのフェイスアーマーが、その一撃で粉砕された。
そして、ぐるりと、頭部が動いた。
一撃で頸が折れていた。
正に、即死である。
続けて、もう一人へと、伸ばした左腕を、絡める様に叩き付けた。
ゲイリーのラリアットを胸元に食らったもう一人の隊員は、吹き飛ばされた。
その先に、一人の白人男性が、待ち構えていた。
上半身が裸だ。
上背は、200cm近いゲイリーと比べて181cmと低いが、筋肉量は変わらない。
寧ろ、ゲイリーよりも体脂肪率は低そうで、引き締まった筋肉を誇っている。
シカゴなどでバウンサーを生業としていた『リチャード・フィルス』だった。
真冬保護の報せを鎬から受けて、真冬脱出時の際に必要となる車の運転は、待機組の井森とユウヤに任せ、最後の掃討に参加するため合流したのてある。
新たに出現したヘリコプターの乗員達が動き出せば、却って脱出は困難となるだろう。
故に、現時点の敵戦力を殲滅すると言うのが、鎬と伊集院の判断であった。
リチャードは、吹き飛ばされて来た隊員の背後から、凄まじい拳を叩き込んだ。
どんどん、拳がめり込んでいく。
恐ろしい音が響いた。
後ろに大きく海老反りになっていき、背骨がへし折れていくのだ。
口から血が溢れ、ヘルメットの中で溜まっていた。
それが、隙間から溢れる程に吐血し、崩れていった。
六名中、三名が一瞬で絶命した。
そして、少し遅れて、もう一方の戦闘も始まった。
2.
鎬は、仔犬を、一旦井森とユウヤに預けた。
そして、4番棟へ戻ったのだ。
既に、真冬と悪樓、蒙将龍の死闘は終わっていた。
「……おい、無事か」
鎬は、剛志の鳩尾辺りに手を置き、肋骨の隙間を広げる。
そして、剛志を抱え座らせた。
剛志の背中に膝を当て、両腕を引き、
剛志は、脳に送られる血流を三角絞めで止められ、ブラックアウトしていたが、ダメージ自体は少なそうである。
僅かに吐血するも、剛志は息を吹き返した。
鼻尖が失われているが、命に関わる程ではないだろう。
「真冬君をジープの所まで連れて行ってくれ、井森君とユウヤさんが待機している」
「あんたは、どうするんだ?」
「ヘリで増援が現れたんだ。他のメンバーと合流して殲滅する」
「おいおい、ヘリって、ヤバいだろ。何人くらいだ?」
「いいから、行け、真冬君を直ぐ柄本先生の所へ連れて行くんだ、早めに処置したら、千切れた耳も治せる筈だ」
「なに!?」
千切れた耳。
それを、ある程度清潔なハンカチに包み、鎬は剛志に渡す。
「なら、残るのは俺だ。あんたは、医者だろ。ジープん中でも少しは応急手当が出来るんじゃねぇか?」
包みを突き返し、鎬に言った。
「それによ、ヘリコプターと喧嘩、そんな面白いもん、やらずに帰れるかよ」
自分も鼻を失われているにも拘わらず、剛志は、凄まじい顔で嗤った。
3.
滞空飛行を続ける輸送ヘリコプターの乗員は二名。
攻撃ヘリコプターも同様だ。
彼らは、交戦が開始された報せを受ける。
攻撃ヘリコプターが飛ぶ。
プロペラの回す駆動音とメインローターとテールローターのブレードが、冬の大気を叩き、切り裂く凄まじい轟音が、継続的に響いていた。
メインローターは五枚ブレード、テールローターは四枚ブレードであった。
発進した攻撃ヘリコプターは、2006年1月現在、まだ、どの国でも運用されていない機体であった。
武装としては、四基の対戦車ミサイルを短翼に携行し、機首の下部には機関砲が搭載されていた。
キャノピー及び、操縦席周辺の胴体の装甲は高い防弾性能を有している。
彼らが、目視した時、既に戦闘が開始されていた。
「何だ、あいつら」
「う、嘘だろ」
操縦席の乗員が絶句する。
壮年の男と丸坊主の男が身を翻し、自動小銃の連射を躱している、そんな異様な状況が繰り広げられていた。
躱しては、身を隠し、自動小銃相手にリボルバー拳銃で交戦しているのだ。
冴羽獠と伊集院の姿である。
「ヘリが来たぜ、獠」
「機関砲は、兎も角、ミサイルはヤバそうだな」
貸し倉庫に飛び込み、様子を窺う。
「おっちゃんら、その鉄砲で、ヘリコプター落とせる?」
陵伽は、冴羽獠のコルトパイソン 357マグナムと伊集院のS&W M629 を指差した。
文字では分かりにくいが、大阪弁鈍りのイントネーションで、陵伽が尋ねる。
おっちゃんのイントネーションや『
「分からないな、装甲の防弾性能がどれくらいかによるね」
「風防も防弾だろうしな、ジープの銃架に設置してるM2重機関銃、取りに戻るか?」
「いや、追って来られたら不味い。取りに戻るにしても、真冬ちゃんが待機組と合流し、脱出してからだ。真冬ちゃんはもう保護できたんだろ?」
「わかった、なら、あのミサイルとか撃ってぇや、向こうも撃って来よったら、私が空掌でミサイル逸らすか跳ね返すわ」
「……なに!?」
「そんなことが、出来るのか?」
「それくらい出来んと、呉の
陵伽は、口の端を上げ、裂けている右端は更に深く吊り上がり、嗤っていた。
──倉庫での、最後の戦闘が、始まる。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い