範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
銃撃を続けていた隊員の内、三名が貸し倉庫の入り口の前に立ち、内部を窺った。
中は、コンテナや資材が積み上がっており、幾つも列を成している。
暗い──
彼らは、ここに陵伽達が逃げ込んだ事は確認していた。
ヘルメットには、暗視ゴーグルは着いているが、バトンにもなる電灯で一人が照らした。
彼だけ電灯のために、銃口を下げている。
照らしても、陵伽達の姿を視認出来ない。
コンテナの陰か。
一人が手を振り、残りのメンバーを呼んだ。
その時だ。
輸送ヘリコプターが、搭載していたミサイルを放った轟音が、埠頭の大気を裂いて、震わせたのだった。
地響きや、衝撃波のような爆発音が、隊員達の鼓膜を強く叩いていた。
──剛志だ。
剛志が、輸送ヘリコプターと接触したのである。
ともすれば、その轟きが、最終局面の開始を告げる、狼煙であったかも知れない。
剛志は、埠頭を移動中にある物を見付けた。
ヘリコプターとの喧嘩。
さて、どう仕掛けるか。
そう考えていて、これを見付けたのだ。
フォークリフトである。
全長5m全高3m重量4tの運搬用の車両だ。
全面に伸びる上下する2本の爪に荷物を置いて、運搬する車両である。
乱雑にも、至る所に駐車してあったのだ。
乗って戦うのか?
──違う。
それを投擲し、ヘリコプターにぶつけるのである。
風防を割る。
ローターを曲げる。
そうしたことを考えているのだ。
爪──フォーク部分を掴む。
そして、引き摺る。
4t程度なら、両手を使わずとも、容易く持ち上げられた。
──凄まじい怪力である。
真冬との戦闘で、大型のバイクを持ち上げ投げていたが、フォークリフトは、バイクどころの重量ではない。
真冬が強くなっていくように、剛志もまた、彼女との死闘の後、大きく成長しているのである。
──当然だ。
より強大な膂力。より太い筋肉。
それを求めているのだ。
父であるカツアゲくん江頭の『地上最強の生物』となる夢。
剛志は、それを引き継いだ。
そして、彼の現時点の目的は、打倒、花山薫である。
ならば、真冬と交戦した時点の戦闘力、現在の膂力や筋肉などで満足する訳にはいかないのだ。
唸った。
いつの間にか鳴り止んだ雷鳴が、再び轟いたのかと言う程の唸りであった。
その烈帛の気合と共に、剛志はフォークリフトを全身の筋肉と膂力をフル動員し、投げつけていた。
それが、輸送ヘリコプターの側面、胴体部分に直撃したのである。
装甲と金属がぶつかり合う、凄まじい衝撃音が鳴った。
滞空飛行するヘリコプターが、大きく揺れていた。
装甲が窪み、僅かに抉れている。
金属片が舞っていた。
衝撃により、フォークリフトも鉄屑同然になっているのだ。
更に、間髪置かず、二台のフォークリフトを投げつける。
片手にそれぞれフォークリフトの爪を握り、腰を捻り、連続で投げたのだ。
「な、何だと!?」
攻撃である事は分かった。
しかし、何が起きたのか、瞬時に理解は出来なかった。
操縦席には、二名いる。
そのうちの一人が剛志に気付いた。
新たに投げ付けようとする瞬間を目撃したのだ。
「おいおいおい、何だ、ありゃあッッ」
乗員が驚愕のあまり、早口で叫んだのと、剛志が投げたのは、ほぼ同時であった。
それが、風防にぶつかったのである。
攻撃ヘリコプターの物より脆弱とは言え、防弾性能が高い風防に罅が入ったのだ。
乗員の顔が青くなっていた。
剛志が、走る。
そして、新たに投げられた次のフォークリフトがぶつかると、風防が砕け散ったのだった。
「ば、化けものがぁ」
そこで、堪らず、一基搭載されている対戦車ミサイルを撃ち込んだのだった。
しかし──
そのミサイルに向けて、剛志はフォークリフトを、二台ぶつけたのである。
剛志に着弾はしなかったものの、フォークリフトに直撃した事で生じた爆風を浴びて、彼は吹き飛ばされる。
破片が剛志を叩いた。
開戦の狼煙が上がった。
或いは、爆発音が、法螺貝代わりである。
最終局面の始まりとなった。
対戦車ミサイルが爆発し立ち登った噴煙を、“倉庫”に集う者達は、全員が目撃した。
美髯の隊員達に、動揺が走っていた。
特に、戦闘ヘリコプターの操縦席に座る隊員は、輸送ヘリコプターからミサイルを発射された事に驚愕していた。
何者と輸送ヘリコプターが交戦しているのか!?
輸送ヘリコプターのキャビンには、あと三名の隊員が待機していた筈だ。
彼らも突入に動員され、その後、襲撃されたのか。
それとも、待機メンバーに何かあったのか。
だが、輸送ヘリコプターの救援には向かえそうに無かった。
戦闘ヘリコプターに向かって来る者がいたからだ。
──陵伽だ。
どこから出たのか。
陵伽は空掌で壁を穿ち、そこから一人飛び出したのだ。
陵伽が一人で向かったのは、ある作戦があった。
「何者だ」
疑問符を浮かべるのも仕方無いだろう。
駆け寄って来た者は、幼い少女なのだ。
真冬の容姿は知っている。
真冬ではない。髪が黒い。
染めた訳では無いだろうし、真冬の容姿は、画像で確認している。
明らかに別人だ。
だが、真冬とほぼ同年代の少女である。
「く……呉だ」
「……なに?」
「白黒反転した眼球……間違い無い」
一人は、呉一族を知っていた。
故に、陵伽の正体を、直ぐ様、察する事が出来たのだ。
「敵なら不味い、撃つぞッッ」
攻撃される前に射殺する事を選択した。
確かに、源王会が、呉一族を雇っているとは聞いている。
だが、この“倉庫”に呉一族が常駐している話は聞いた事がない。
何より、襲撃者の制圧に向かった隊員が、戦闘しているであろう方向から走って来たのだ。
操縦席の下部に搭載されている30mm機関砲の性能は、初速にして凡そ1080m/s、毎分2550発で弾丸を吐き出す事が可能だ。
攻撃ヘリコプターは、上昇する。
そして、その30mm 機関砲を呉一族へ──
陵伽へ向けたのだ。
秒間なら凡そ45発の連射速度の機関砲となる。
総弾数は分からないが、伊集院曰く、多くて3000発だ。
1分程持ち堪える。
それで、機関砲は空だ。
その間に、対戦車ミサイルが来る可能性も考えられる。
その為に、冴羽獠も空掌で穿った穴から出て、外で待機していた。
ミサイルを陵伽が反射した時、コルトパイソンで撃つ。
伊集院は、残して来た。
倉庫に突入して来た者と交戦になる筈だ。
そちらの迎撃を任せたのだ。
実は伊集院は目が不自由である。
人間相手なら兎も角、 S&W M629 でヘリコプターを狙撃することは困難だろう。
使用する銃火器によっては不可能では無いが、念には念を入れ、冴羽獠に伊集院は任せる事にしたのだ。
その為に、狙撃役は冴羽獠になった。
──速い。
攻撃ヘリコプターは、飛行移動を続け、機関砲を発射していた。
陵伽も疾った。
ミサイルの発射を警戒しつつ、弾丸を躱す。
凄まじい連射速度で放たれた弾丸が、陵伽の足元を削った。
陵伽は裸足だ。
しかし、足捌きに、乱れ一つ無かった。
空掌は、敢えて、機関砲相手には使わなかった。
弾丸を掴める。
それを知られて、ミサイルの発射を躊躇われる可能性を危惧したからだ。
毎秒45発の弾丸を、回避する。
その異様な速度と、身体能力を前に、ヘリコプターを操縦する男達は驚愕していた。
悲鳴を上げながら、操縦し、機関砲を撃ち込んだ。
──躱し続けた、60秒が近い。
まだか──
陵伽にも汗が吹いていた。
限界やな──
そう、脳裡に過った時、
心臓が早鐘を打つ。
全身に太い血管と神経が浮かび上がった。
解放率は53%だ。
背なに、鬼は宿っていない。
今日だけで、何度外したか覚えていない。
身体の負担が大きい。
でも、しゃあないねん。
妹助ける為やったしな。
それになぁ、妹苛めてくれた礼もせんとなぁ。
陵伽は、怒りのまま、叫んだ。
そして、両手を前に突き出した。
──振動。
ミサイルが発射される際の大気の僅かな振動を全身で、感じ取ったのだ。
両足に力を込めた。
空足。
右足を踏み出し、地面に吸着させた。
ある種のアンカー代わりだ。
「狙えやぁ!おっちゃん!行くでぇ」
短翼に携行された対戦車ミサイルから巨大な焔が噴射した。
発射されたのだ。
長い噴煙と炎が伸びた。
大気を炸裂させた。
凄まじい、発射音が陵伽の聴覚に叩き付けられた。
尋常ならざる聴覚には、かなり辛いが、問題無い程度ではあった。
陵伽の空掌が、巨大な真空の壁を発生させた。
超音速で迫るミサイルが、真空の壁に突き刺さる。
「な、なに!?」
ミサイルが、止まった。
炎は噴射している。
異常事態であった。
陵伽が、更に絶叫する。
押し返した。
陵伽は、大きく、右腕を振り上げる。
左腕で、続けて発射されたミサイルへと空掌を使った。
陵伽の鼻孔から、血が流れた。
浮かび上がっている血管の幾本が断裂し、身体内部で出血する。
胃と心臓の中に、突然、重石が出現したかと錯覚した。
外しによる身体の負担が激痛となって、内臓を殴りつけているのだ。
痛いなぁ。
でもなぁ、
もっと苦しかったんやろなぁ。
痛かったやろなぁ。
「この、阿保共がぁッッ」
──最初の一発目が、反転した。
真空がミサイルを飲み込んだのだ。
そして、二発目。
その時だ──陵伽の顳顬、背中、肩、腹、胸から血が吹いたのだ。
断続的に、弾丸が、陵伽に撃ち込まれたのだ。
倉庫に突入しなかった三名の隊員が、自動小銃で狙撃したのである。
陵伽の身体が、踊るように跳ねる。
しかし、真空の壁を維持するため、左足を踏み出し、全身に力を込めた。
「っこんっなもん、屁の突っ張りにもならんわ!おっちゃん!弾ぁ、無駄に
陵伽は、左手首を、右手で握る。
コンクリートの床が軋む。
その踏み出した左足にも、空足を発生させたのである。
両足に生じた真空で、吸着する。
両足は、巨木の根と化した。
更に狙撃される。
しかし、それを空掌で防がず、あくまでもミサイルに集中し、相対したのだ。
──顳顬
頭蓋骨で止まった。
硬い。脳には達していないのだ。
──背中
貫通した。
更に背中に二発の9mmバレットが潜り込む。
角度が悪い。内臓に妙な当たりかたをしたのか、弾道が体内で暴れた。
体内で、臓器に当たり、弾かれ、跳弾の様に踊り狂った弾丸は──腎臓を撃ち抜いた。
──破裂した。
腹の中に血と混じりあった尿がぶち撒かれた。
「これがほんまの血の
陵伽は、目を見開いた。
裂けた口まで大きく開き、犬歯を剥き出しにして、吼えた。
獣の遠吠えだ。
悲鳴ではない。
気合だ。気合が、轟となっているのだ。
少女が見せる形相ではない。
軽い衝撃音と共に横腹を弾丸が貫いた。
血濡れの小便が、その貫通した腹から漏れだしていた。
更に右腕や両肩にも弾丸が突き刺さった。
それでもなお、根を張るような空足により、微動だにしなかったのだ。
まるで、その姿は、仁王。
無数の矢弾を食らい続けて倒れぬ、宛ら、武蔵坊弁慶であった。
三発目のミサイルが発射された──
「温いんじゃッッ、このボケナスッッ」
二発目のミサイルが、反転する。
陵伽は、ここで、一気に押し返す。
その為に、鬼の貌も背なに宿した。
なぁ、真冬、あんたは今までどんな人生やったんや。
あんたの事知らんかったもんなぁ。
なぁ、真冬、あんたと初めて
あんたとは、いつか本気で殺し合わなあかん、そんな運命や。
だからなぁ、あんたを苛めた奴らは、絶対赦さん。
姉ちゃんらしいこと、したった事無いもんなぁ。
最近
でもなぁ、真冬ぅ、見とれや。
私はなぁ、あんたの姉ちゃんや。
いつか、あんたを殺す、呉の迦陵頻伽の力やで。
「見とれや、真冬!これが
100%外した。
血が、喉の奥から込み上がるのを感じた。
両目から涙の様な血が流れた。
頬に添って、血涙のように這い下りていく。
外耳孔、鼻孔からも血が溢れた。
新たに放たれる自動小銃の弾丸は、膨張した筋肉に弾かれた。
そして、三発目のミサイルも、真空の壁で、反射したのだ。
「今や!おっちゃんっ!」
吐血と共に、陵伽は、烈帛の気合を込め、怒号めいた声を張り上げた。
四発目のミサイルが、轟音を上げた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い