※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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迦陵頻伽 対 攻撃ヘリ

 

 銃撃を続けていた隊員の内、三名が貸し倉庫の入り口の前に立ち、内部を窺った。

 中は、コンテナや資材が積み上がっており、幾つも列を成している。

 暗い──

 彼らは、ここに陵伽達が逃げ込んだ事は確認していた。

 

 ヘルメットには、暗視ゴーグルは着いているが、バトンにもなる電灯で一人が照らした。

 彼だけ電灯のために、銃口を下げている。

 

 照らしても、陵伽達の姿を視認出来ない。

 コンテナの陰か。

 

 一人が手を振り、残りのメンバーを呼んだ。

 

 その時だ。

 

 輸送ヘリコプターが、搭載していたミサイルを放った轟音が、埠頭の大気を裂いて、震わせたのだった。

 地響きや、衝撃波のような爆発音が、隊員達の鼓膜を強く叩いていた。

 

 ──剛志だ。

 剛志が、輸送ヘリコプターと接触したのである。

 ともすれば、その轟きが、最終局面の開始を告げる、狼煙であったかも知れない。

 

 剛志は、埠頭を移動中にある物を見付けた。

 ヘリコプターとの喧嘩。

 さて、どう仕掛けるか。

 そう考えていて、これを見付けたのだ。

 フォークリフトである。

 全長5m全高3m重量4tの運搬用の車両だ。

 全面に伸びる上下する2本の爪に荷物を置いて、運搬する車両である。

 乱雑にも、至る所に駐車してあったのだ。

 

 乗って戦うのか?

 ──違う。

 

 それを投擲し、ヘリコプターにぶつけるのである。

 風防を割る。

 ローターを曲げる。

 そうしたことを考えているのだ。

 

 爪──フォーク部分を掴む。

 そして、引き摺る。

 4t程度なら、両手を使わずとも、容易く持ち上げられた。

 ──凄まじい怪力である。

 真冬との戦闘で、大型のバイクを持ち上げ投げていたが、フォークリフトは、バイクどころの重量ではない。

 真冬が強くなっていくように、剛志もまた、彼女との死闘の後、大きく成長しているのである。

 ──当然だ。

 より強大な膂力。より太い筋肉。

 それを求めているのだ。

 父であるカツアゲくん江頭の『地上最強の生物』となる夢。

 剛志は、それを引き継いだ。

 そして、彼の現時点の目的は、打倒、花山薫である。

 ならば、真冬と交戦した時点の戦闘力、現在の膂力や筋肉などで満足する訳にはいかないのだ。

 

 唸った。

 いつの間にか鳴り止んだ雷鳴が、再び轟いたのかと言う程の唸りであった。

 その烈帛の気合と共に、剛志はフォークリフトを全身の筋肉と膂力をフル動員し、投げつけていた。

 

 それが、輸送ヘリコプターの側面、胴体部分に直撃したのである。

 装甲と金属がぶつかり合う、凄まじい衝撃音が鳴った。

 滞空飛行するヘリコプターが、大きく揺れていた。

 装甲が窪み、僅かに抉れている。

 金属片が舞っていた。

 衝撃により、フォークリフトも鉄屑同然になっているのだ。

 

 更に、間髪置かず、二台のフォークリフトを投げつける。

 片手にそれぞれフォークリフトの爪を握り、腰を捻り、連続で投げたのだ。

 

「な、何だと!?」

 攻撃である事は分かった。

 しかし、何が起きたのか、瞬時に理解は出来なかった。

 操縦席には、二名いる。

 そのうちの一人が剛志に気付いた。

 

 新たに投げ付けようとする瞬間を目撃したのだ。

「おいおいおい、何だ、ありゃあッッ」

 乗員が驚愕のあまり、早口で叫んだのと、剛志が投げたのは、ほぼ同時であった。

 それが、風防にぶつかったのである。

 

 攻撃ヘリコプターの物より脆弱とは言え、防弾性能が高い風防に罅が入ったのだ。

 乗員の顔が青くなっていた。

 

 剛志が、走る。

 そして、新たに投げられた次のフォークリフトがぶつかると、風防が砕け散ったのだった。

 

「ば、化けものがぁ」

 そこで、堪らず、一基搭載されている対戦車ミサイルを撃ち込んだのだった。

 

 しかし──

 そのミサイルに向けて、剛志はフォークリフトを、二台ぶつけたのである。

 剛志に着弾はしなかったものの、フォークリフトに直撃した事で生じた爆風を浴びて、彼は吹き飛ばされる。

 破片が剛志を叩いた。

 

 開戦の狼煙が上がった。

 或いは、爆発音が、法螺貝代わりである。

 

 最終局面の始まりとなった。

 

 対戦車ミサイルが爆発し立ち登った噴煙を、“倉庫”に集う者達は、全員が目撃した。

 

 美髯の隊員達に、動揺が走っていた。

 特に、戦闘ヘリコプターの操縦席に座る隊員は、輸送ヘリコプターからミサイルを発射された事に驚愕していた。

 

 何者と輸送ヘリコプターが交戦しているのか!?

 輸送ヘリコプターのキャビンには、あと三名の隊員が待機していた筈だ。

 彼らも突入に動員され、その後、襲撃されたのか。

 それとも、待機メンバーに何かあったのか。

 

 だが、輸送ヘリコプターの救援には向かえそうに無かった。

 戦闘ヘリコプターに向かって来る者がいたからだ。

 ──陵伽だ。

 どこから出たのか。

 陵伽は空掌で壁を穿ち、そこから一人飛び出したのだ。

 

 陵伽が一人で向かったのは、ある作戦があった。

 

「何者だ」

 疑問符を浮かべるのも仕方無いだろう。

 駆け寄って来た者は、幼い少女なのだ。

 真冬の容姿は知っている。

 真冬ではない。髪が黒い。

 染めた訳では無いだろうし、真冬の容姿は、画像で確認している。

 明らかに別人だ。

 

 だが、真冬とほぼ同年代の少女である。

「く……呉だ」

「……なに?」

「白黒反転した眼球……間違い無い」

 

 一人は、呉一族を知っていた。

 故に、陵伽の正体を、直ぐ様、察する事が出来たのだ。

「敵なら不味い、撃つぞッッ」 

 

 攻撃される前に射殺する事を選択した。

 確かに、源王会が、呉一族を雇っているとは聞いている。

 だが、この“倉庫”に呉一族が常駐している話は聞いた事がない。

 何より、襲撃者の制圧に向かった隊員が、戦闘しているであろう方向から走って来たのだ。

 

 操縦席の下部に搭載されている30mm機関砲の性能は、初速にして凡そ1080m/s、毎分2550発で弾丸を吐き出す事が可能だ。

 攻撃ヘリコプターは、上昇する。

 そして、その30mm 機関砲を呉一族へ──

 陵伽へ向けたのだ。

 

 秒間なら凡そ45発の連射速度の機関砲となる。

 総弾数は分からないが、伊集院曰く、多くて3000発だ。

 1分程持ち堪える。

 それで、機関砲は空だ。

 その間に、対戦車ミサイルが来る可能性も考えられる。

 

 その為に、冴羽獠も空掌で穿った穴から出て、外で待機していた。

 ミサイルを陵伽が反射した時、コルトパイソンで撃つ。

 

 伊集院は、残して来た。

 倉庫に突入して来た者と交戦になる筈だ。

 そちらの迎撃を任せたのだ。

 実は伊集院は目が不自由である。

 人間相手なら兎も角、 S&W M629 でヘリコプターを狙撃することは困難だろう。

 使用する銃火器によっては不可能では無いが、念には念を入れ、冴羽獠に伊集院は任せる事にしたのだ。

 その為に、狙撃役は冴羽獠になった。

 

 ──速い。

 攻撃ヘリコプターは、飛行移動を続け、機関砲を発射していた。

 陵伽も疾った。

 ミサイルの発射を警戒しつつ、弾丸を躱す。

 凄まじい連射速度で放たれた弾丸が、陵伽の足元を削った。

 陵伽は裸足だ。

 しかし、足捌きに、乱れ一つ無かった。

 

 空掌は、敢えて、機関砲相手には使わなかった。

 弾丸を掴める。

 それを知られて、ミサイルの発射を躊躇われる可能性を危惧したからだ。

 

 毎秒45発の弾丸を、回避する。

 その異様な速度と、身体能力を前に、ヘリコプターを操縦する男達は驚愕していた。

 悲鳴を上げながら、操縦し、機関砲を撃ち込んだ。

 

 ──躱し続けた、60秒が近い。

 まだか──

 陵伽にも汗が吹いていた。

 限界やな──

 そう、脳裡に過った時、外し(・・)た。

 心臓が早鐘を打つ。

 全身に太い血管と神経が浮かび上がった。

 

 解放率は53%だ。

 背なに、鬼は宿っていない。

 今日だけで、何度外したか覚えていない。

 身体の負担が大きい。

 

 でも、しゃあないねん。

 妹助ける為やったしな。

 それになぁ、妹苛めてくれた礼もせんとなぁ。

 

 陵伽は、怒りのまま、叫んだ。

 

 そして、両手を前に突き出した。

 ──振動。

 ミサイルが発射される際の大気の僅かな振動を全身で、感じ取ったのだ。

 両足に力を込めた。

 空足。

 右足を踏み出し、地面に吸着させた。

 ある種のアンカー代わりだ。

 

「狙えやぁ!おっちゃん!行くでぇ」

 

 短翼に携行された対戦車ミサイルから巨大な焔が噴射した。

 発射されたのだ。

 長い噴煙と炎が伸びた。

 大気を炸裂させた。

 凄まじい、発射音が陵伽の聴覚に叩き付けられた。

 

 尋常ならざる聴覚には、かなり辛いが、問題無い程度ではあった。

 

 陵伽の空掌が、巨大な真空の壁を発生させた。

 超音速で迫るミサイルが、真空の壁に突き刺さる。

 

「な、なに!?」

 

 ミサイルが、止まった。

 炎は噴射している。

 異常事態であった。

 

 陵伽が、更に絶叫する。

 押し返した。

 陵伽は、大きく、右腕を振り上げる。

 左腕で、続けて発射されたミサイルへと空掌を使った。

 

 陵伽の鼻孔から、血が流れた。

 浮かび上がっている血管の幾本が断裂し、身体内部で出血する。

 胃と心臓の中に、突然、重石が出現したかと錯覚した。

 外しによる身体の負担が激痛となって、内臓を殴りつけているのだ。

 

 痛いなぁ。

 でもなぁ、真冬(あいつ)は。

 もっと苦しかったんやろなぁ。

 痛かったやろなぁ。

「この、阿保共がぁッッ」

 

 ──最初の一発目が、反転した。

 真空がミサイルを飲み込んだのだ。

 そして、二発目。

 

 その時だ──陵伽の顳顬、背中、肩、腹、胸から血が吹いたのだ。

 断続的に、弾丸が、陵伽に撃ち込まれたのだ。

 倉庫に突入しなかった三名の隊員が、自動小銃で狙撃したのである。

 陵伽の身体が、踊るように跳ねる。

 しかし、真空の壁を維持するため、左足を踏み出し、全身に力を込めた。

 

「っこんっなもん、屁の突っ張りにもならんわ!おっちゃん!弾ぁ、無駄に使(つこ)たらあかんでぇッッ」

 

 陵伽は、左手首を、右手で握る。

 コンクリートの床が軋む。

 その踏み出した左足にも、空足を発生させたのである。

 

 両足に生じた真空で、吸着する。

 両足は、巨木の根と化した。

 

 更に狙撃される。

 しかし、それを空掌で防がず、あくまでもミサイルに集中し、相対したのだ。

 

 ──顳顬

 頭蓋骨で止まった。

 硬い。脳には達していないのだ。

 ──背中

 貫通した。

 更に背中に二発の9mmバレットが潜り込む。

 角度が悪い。内臓に妙な当たりかたをしたのか、弾道が体内で暴れた。

 体内で、臓器に当たり、弾かれ、跳弾の様に踊り狂った弾丸は──腎臓を撃ち抜いた。

 ──破裂した。

 腹の中に血と混じりあった尿がぶち撒かれた。

 

「これがほんまの血の小便(しょんべん)やのぉ。おう、だから、それがなんぼのもんじゃい!!」

 陵伽は、目を見開いた。

 裂けた口まで大きく開き、犬歯を剥き出しにして、吼えた。

 獣の遠吠えだ。

 悲鳴ではない。

 気合だ。気合が、轟となっているのだ。

 少女が見せる形相ではない。

 

 軽い衝撃音と共に横腹を弾丸が貫いた。

 血濡れの小便が、その貫通した腹から漏れだしていた。

 更に右腕や両肩にも弾丸が突き刺さった。 

 

 それでもなお、根を張るような空足により、微動だにしなかったのだ。

 まるで、その姿は、仁王。

 無数の矢弾を食らい続けて倒れぬ、宛ら、武蔵坊弁慶であった。

 

 三発目のミサイルが発射された──

 

「温いんじゃッッ、このボケナスッッ」

 二発目のミサイルが、反転する。

 

 陵伽は、ここで、一気に押し返す。

 その為に、鬼の貌も背なに宿した。

 

 なぁ、真冬、あんたは今までどんな人生やったんや。

 あんたの事知らんかったもんなぁ。

 なぁ、真冬、あんたと初めて逢(お)うた時、妙な運命的なもん感じたで。

 あんたとは、いつか本気で殺し合わなあかん、そんな運命や。

 だからなぁ、あんたを苛めた奴らは、絶対赦さん。

 姉ちゃんらしいこと、したった事無いもんなぁ。

 最近逢(お)うたばかりやし、仕方(しゃあ)ないねんけどな。

 でもなぁ、真冬ぅ、見とれや。

 私はなぁ、あんたの姉ちゃんや。

 いつか、あんたを殺す、呉の迦陵頻伽の力やで。

 

「見とれや、真冬!これが迦陵頻伽(ねぇちゃん)の根性やぁッッ」

 

 100%外した。

 血が、喉の奥から込み上がるのを感じた。

 両目から涙の様な血が流れた。

 頬に添って、血涙のように這い下りていく。

 

 外耳孔、鼻孔からも血が溢れた。

 

 新たに放たれる自動小銃の弾丸は、膨張した筋肉に弾かれた。

 

 そして、三発目のミサイルも、真空の壁で、反射したのだ。

「今や!おっちゃんっ!」

 吐血と共に、陵伽は、烈帛の気合を込め、怒号めいた声を張り上げた。

 

 四発目のミサイルが、轟音を上げた。

 

 

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