※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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子供相手に、カツアゲは大人げない

1. 

 

 赤牛丸の店舗付近──

 真冬は剛志の姿を見て取るや、自分の傍(かたわ)らへと、山がゆっくり歩み寄ってきた──

 そう、錯覚してしまった。

 

 その男の背丈は確かに高い。

 街でも見掛ける程度の身長の高さではあるが、120センチ程度の真冬にしてみれば、巨人の様な男かも知れない。

 

 だが、それでも、180センチを僅かに越える程度の男を山と錯覚してしまうのは不自然だろう。

 彼女が剛志を山と見紛ったのは何も彼の身長や、筋肉の厚みからだけではない。

 

 見抜いたのだ。

 彼のただならぬ戦闘能力を──

 

 真冬は、一歩、半歩と後ずさった。

“まずい──”

 下がってしまった。

 故に、まずいと心のうちで一人ごちた。

 後退した、それは心の上で負けた事を意味するからだ。

 

「あんた、強いな。なぁ、金出せ」

 

 その山──剛志の言葉。

 意味が分からなかった。

 

 “強い”と“金を出せ”──

 それらの言葉の繋がりや意味合いが余りにも理解不能だったのだ。

 この男は何を伝えたいのだろうか。

 

 だが、不思議な事に、敵意がこの男から向けられていないのである。

 ただ、純粋そのものな闘争心めいたものは感じられるのだが。

 

 恐らく、この男は私の事が好きなのだ──と、

 それは理解出来た。

 自分が彼の戦闘能力を見抜いたように、この男も、自身の内にある戦闘能力を見抜いている。

 どうやら彼は、真冬が内包している、その高度な戦闘能力が好きなのだろう。

 

“私は貴方の戦闘力、嫌いですが──”

 真冬は何も闘争が好きなわけではない。

 勿論、強者と出逢ったとしても沸き上がる様な高揚感を覚えることは無い。

 剛志達の様な格闘士と異なり、嬉しくも何とも無いのだ。

 

「……お金、ですか?どういう意味でしょう──」

 

 冷たい汗が背筋に、頬に、額につたう。

 怖気(おぞけ)立つ心境を隠し、真っ向から真冬は剛志の目を見据えた。

 

「有り金全部置いていけ。だがッッ!俺に勝てたら、逆に俺の金を全額くれてやる」

 

「……え?いらないです」

 

 そう言う真冬の手に、いつの間にやら、デザインナイフが出現していた。

 出現したデザインナイフは掌の内側に隠匿され、剛志の目には捉えられていない。

 小さなポシェットから“抜く”瞬間すら気付かれてはいなかっただろう──

 常軌を逸した速度と技術である。

 技術と言える代物ではないかも知れないが──

 

 デザインナイフは、幾人ものプラモデル愛好家の血を吸ってきた魔剣だ。

 誤って自分の指などを切ったとしても、痛みをすぐに感じない程に、切れ味は鋭い。

 勿論、深く切ると当然出血もそれなりにしてしまう。

 真冬がデザインナイフを気に入った理由の一つとして柄の持ちやすさにある。

 本来の用途と異なるとは言え、デザインナイフは切ったり削ったりするための道具である。

 ドラマや漫画における──昔の不良が携帯し、武器として扱っていた様な、剃刀の替刃などよりも、持ち手に馴染み易いのだ。

 確かに殺傷能力を求める武器としては物足りなく、心許ない刃物だが、喧嘩の上で、相手の心情的な物を脅かす分には充分な道具になる筈だろう。

 

 虚ろな紅い瞳──

 幽霊を思わせる、囁くような「いらない」と答える声──

 

「あの……ごめんなさい、行って良いですか。用があって……忙しいのです──」

 

 最初のデザインナイフは右手に。

 左手にも、もう一本のデザインナイフを取り、同じ様に掌の内側に隠すように柄を持った。

 

 剛志の一人怒鳴る声に何かしらの危機感めいたものを覚えたのか、周囲にいる神室町の人間がざわめき出していた。

 彼らは概ね、こうした様な“厄介事”に敏感で、それを好む妙な性質がある。

 普通なら近くで喧嘩でもあれば、飛び火を警戒し、ソッとその場を離れる物だが、彼らは違う。

 周りで見物するのだ。

 ある種の修羅の街──

 歓楽街のもう一つの顔だ。

 

「行く前に俺と喧嘩して、金を置いていけ。」

「……あの、言いにくいのですが……大人げない……とは思いませんか?私のような子供に……」

 

 真冬のそれは、煽りのような返答だが、そうした思惑は無い。

 単なる本音だ。

 真冬は、この巨漢が未成年──しかも小学生とは思ってなかった。

 

 戦いたがっている事は理解出来た。

 しかし、何故そこまで戦いたいのか、真冬には理解出来ない。

 

「……俺は小5だ」

「……え」

 

 それでも、年上には変わらない。

 大人がカツアゲしてくるよりは、まだましではあるが。

 

 剛志の“小5だ”と「だ」を言い終わるか、ほぼ同時──

 真冬の五感は、剛志の筋肉が動いたのを捉えた。

 

 もはや、問答無用とばかりに、剛志は仕掛けた。

 アスファルトを蹴り──

 腰を落とし、勢いよく突進する。

 

 小柄な真冬相手である──より、低姿勢でのタックルとなった。

 

 真冬が立つ半歩前──

 そこまで剛志のタックルが迫った、その刹那だ。

 真冬は、右手のデザインナイフを横薙ぎ──

 そして、左手に持たれていたデザインナイフは剛志の右目に投擲された。

 

 横薙ぎのデザインナイフが狙うのは剛志の左頸動脈──

 真冬自身、実のところそこが頸動脈と言う血管であることは知らない。

 ただ、そこに人体の急所がある──それが見えているだけなのだ。

 しかし、右手のデザインナイフは空(くう)を斬った。

 

 半歩前──

 そこで、剛志は更に身を屈め、一瞬僅かに下がったのだ。

 投擲されたデザインナイフは剛志からほんの少し逸れ、赤牛丸の立て看板へと突き刺さる。

 

 赤牛丸側にいた野次馬から悲鳴があがった。

 

 恐らく、剛志の目には突然にしてデザインナイフが真冬の手に現れ、薙ぎり、投擲されたように見えただろう。

 心底嬉しそうな剛志の笑みが溢れる。

 喧嘩を避けようとする、そんな発言をしていたと言うのに、ちゃっかりと真冬は攻撃の準備をしており、不意討ち気味に行ったタックルに合わせて来たのだ。

 

 そして──僅かに下がったとは言え、そこはまだ、剛志の攻撃範囲であった──

 

 剛志は裏地が薄い鉄板で補強されている革靴を履いている。

 防御の意味合いと、蹴りの威力を増すため、そして重い靴を履いていることでの足腰の鍛練、三つの目的がその鉄で補強された革靴にはある。

 

 爪先部分は特に重く、強固な鉄が仕込まれているのだ──

 

 剛志は軽く息を吐き、低姿勢から、立ち上がり気味に右脚を振り上げた。

 冬の冷たい空気が裂かれる。

 かなりの速度で地面から離れた──その一撃は、鉄で重くなった靴を履いているとは思えない速さだった。

 そして、爪先が狙うのは少女の下腹部だ。

 

 真冬は、その蹴りを避けようともせず甘んじて食らい、右手のデザインナイフを剛志の胸元に投擲する。

 

 両者──

 ほんの一瞬だが、真冬の投擲の方が速い。

 しかし、真冬の下腹部を抉るように剛志の爪先が突き刺さっていた。

 

 

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