範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
4.
激痛が走った──
如何なる巨漢でも、強靭な頑丈さを誇った肉体を以てしても、免れる事の叶わない、圧倒的な激痛が押し寄せた。
真冬の振り上げる様に放たれた掌底は、剛志の睾丸へ撃ち込まれたのだ。
“
野次馬の中の男性達は、幼い少女が容赦無く繰り出した急所への打ち込みを目の当たりにし、顔面蒼白になっていた。
自らが打ち込まれた訳ではない。
しかし、幻痛に
想像や空想とは恐ろしい物だ。
より強く共感できる現象、感覚であれば、そこに──空想の中でさえ
しかも、打ち込まれた掌底は、更なる一撃へと変化する。
掌底でのインパクトが、瞬時にして剛志へと激痛をもたらせた。
だが、その“瞬間的な打撃”が、命中した“刹那的な瞬間”──
また、異なる衝撃が寸分違わず、激痛の発生源となっている睾丸に走る。
──寸勁
真冬は完全な零距離の射程にて、その掌底より派生した一撃として、更に撃ち込んだのだ。
誰かに習った訳でも、模倣した訳でもない。
真冬自身が空想の上に思い付いたそれが、所謂ワンインチパンチや寸勁に繋がったのである。
剛志の……この巨漢の体重は幾ら位だろうか、野次馬達はふと考えた。
剛志の身長は180センチメートルを越えている。
体重は、異様なまでに発達した筋肉量ゆえに相当な物だろう。
まず、100キログラムを下回る事は無い筈だ。
対して真冬は、幽霊の様な見目をしており、何処か外見的に希薄な印象さえ見るものに与える。
身長は120センチメートル、体重など35キログラムである──恐らく同年代の大抵の少女よりも儚く、脆い──そんな肉体なのだ。
そんな少女の掌底で、巨漢が浮いた。
寸勁で打たれた一撃に気付いた者以外は、掌底だけで、儚げな幽鬼の如き小さな白い少女が巨漢を浮かせたように思えただろう。
先程まで、腹や顔面に一切の躊躇いの無い攻撃を受けていた少女が──と、そこまでにも考えが行き着いた野次馬は更に戦慄したものだ。
だが、もう一つの現実に戦慄している野次馬達もいた。
礫を顔面に見舞われ、右目には砕け破片となった前歯の噴射を受け、更に睾丸を打たれた剛志が──
未だ、嗤っているのだから。
その笑みに気付いた真冬は、追撃を躊躇した。
大地を踏み締めていない故、まず、防御が手薄になっている剛志への追撃に、出たかった筈である。
それなのに、次の行動に移らなかったのは、その笑顔に尋常ではない物を感じたからだ。
並の相手なら睾丸を打たれたなら、そのまま膝を突く事もあるだろう。
闘志は直ぐ様に削がれ、失われた闘志はその表情からも推測出来るだろう──
剛志にとって、確かにこの真冬が放った睾丸打ちは、とてつもないダメージを与えてきたと思える物だった。
潰れた──
そう、自覚出来る物であった。
実際には潰されてはいない。
真冬が、敢えて潰さなかったからだ。
そうであっても、甚大なダメージである。
それでも、剛志は嗤えた。
心底愉しい──
そして、このダメージも先日の敗北の際に受けた一撃に比べれば、どうと言う物では無いと、剛志は思った。
“喧嘩師 花山薫”
カツアゲ坊主に、初めて敗北と言う辛酸を舐めさせた
本気で拳を握れば、自分の握力で自分の拳を壊してしまうという超握力で放たれる花山薫のパンチ──
それは、一切の防御が防御の意味を為さないと言う。
腕で受ければ腕が壊れる。
防御は貫かれ、真芯を砕かれるのだ。
この、14歳の天才少年の化物の様な拳から繰り出されたハリケーンの如きパンチと比べたら、真冬の睾丸打ちや寸勁など、そよ風の様な物でしかない。
花山薫に殴られ、敗北したあの瞬間は、無駄ではなかった。
だから、嗤えた──
この戦いも、明日の闘争、花山薫との再戦に活きるかも知れない。
剛志は、自分が宙に浮かされた事に気付いている──そして、追撃が来ない好運。
花山薫には遠く及ばないが、剛志の握力もまた、人智を越えた常軌を逸するものだ。
右拳を固め、左手は、右拳を包むように添えられた。
筋肉の膨張の音が、まるで聞こえるかのようだ。
目に見えて、彼の鍛えられた両腕の筋肉が膨れ上がった。
鍛えあげられた──
寧ろ、搭載されたと表現するべきかも知れない筋肉だ。
それは、戦車の装甲であり砲搭でもある。
宙に浮いた剛志は、落下と共にダブルスレッジハンマーを真冬の脳天に叩き付けた。
“また、
勝負が着いたと思っていた野次馬達が大多数だった。
しかし、地に足付かぬ態勢から、剛志は心が折れる事なく反撃したのだ。
肉が骨を打つ──
真冬の紅い瞳が、その時映したのは赤い世界だった。
それと同時に閃光か、火花も見た。
火薬が炸裂するような衝撃が火花を見せたのだ。
それは、瞳で見たのか──
脳が揺れて、脳が幻視したのか──
どちらにせよ、勝負は、決した。
脳が甘く痺れる。
痛みは既に感じない──
脳内に炸裂していた火花が消えると、真冬自身、自分に起きている現象が理解出来てはいなかったのだ。
ドグゥンと、心臓が哭いた。
真冬の心音は、右側から聞こえている。
野次馬達が見る真冬の姿は幽鬼そのものだった。
先程のダブルスレッジハンマーは、真冬の前頭骨の縫合を外し、ひび割れさえ発生させていた。
涙の様に、両眼からは血が流れており──
だらんと、両腕は下がり、ゆらゆらと、全身が揺らいでいる。
元々虚ろだった紅い瞳は、何処を見ているのか、傍目には判断し難い。
剛志は、ダブルスレッジハンマーの形を崩さず、横殴りに、真冬の下顎へと振るった。
その時だ──
その一撃に合わせたかのように、真冬の全身は剛志がダブルスレッジハンマーを振り抜いた方向へと一回転したのだ。
しかも、未だにゆらゆらと不安定な重心でありながら、回転の後も、足はアスファルトについていた。
剛志の脳裏に過った奇妙な違和感。
両手に伝わった気持ち悪さ。
──まるで、羽毛を殴ったような……?
そんな違和感が、剛志の手に残っていた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い