※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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脳内麻薬

 

“何だろう?これ?頭の中が、甘い?甘くてとても美味しい”

“火花が散って、光って、急に甘いので充たされた”

“この人で、甘い……”

“あぁ、そうだ──この人の戦闘力、嫌いだけど、この人に殴られたら、急に甘くって、美味しくなったんだ”

“だったら、キラいじゃないかな、この戦闘力も”

“甘くなるのって、あの時と同じだから──”

“──そうですよね?ねぇ、お母さん──”

 

 脳内の甘い痺れが気持ちいい。

 不思議な快楽が、真冬の脳内を満たしている。

 痛みも、疲れも押し殺してくれる快楽に、真冬は身を委ねた。

 

 そうすると、まだ動けるし、戦える。

 生への執着も何故か増した。

 

 心臓の鼓動も、血流も速くなっている。

 胸が、熱かった。

 疼いていると言っても良いかも知れない。

 その疼きも、心地良い。

 

 真冬を充たしているその正体は、ランナーズハイの際に分泌されると言う、所謂、脳内麻薬と呼ばれる物である──

 

 脳内麻薬、β-エンドルフィン──

 地上最強の生物である範馬勇次郎曰く、

『運動を長く続けていると、脳がこれ以上運動を続ける事は危険であるとサインを出す』

 本来、通常の競技者であるならば、ここで休憩を取ることになるのだが、格闘士、特に表社会にて武を競っている訳では無いような武術家達の人体はそこで終わらず、更にその先の境地に達する必要がある。

 人体が要求している苦痛のサインがどれだけ送られようとも無視をし続け、運動を続けるのだ。

『すると脳ってやつは面白い事を始める。苦痛を取りさっちまうんだ』

 そうすると、競技者達は死ぬまで動き続ける事が出来るようになる。

 それを可能とするのが、脳内に分泌される神経伝達物──エンドルフィンである。

 

 強力な鎮痛効果を有しており、単純に体力をも増し、精神に強烈な多幸感や高揚感をもたらせると言う。

 

 真冬もまた、このエンドルフィンが脳内を満たしたなら、痛みや疲れを感じる事は無くなり、強力な身体能力を得ることになるのだ。

 前頭骨の縫合を外した剛志のダブルスレッジハンマー。

 頭骨へ甚大なダメージを被る事で、真冬の脳内はエンドルフィンを分泌──

 エンドルフィンで満たされた真冬はほぼ無敵だ。

 痛みは無くなり無尽蔵の体力を得る。

 つまり、あの、ダブルスレッジハンマーを受けた時点で、勝負は決したと言えるのだ。

 脳内麻薬で満たされた真冬に、敗北はまず、有り得ないだろう。

 

 

6.

 真冬の身体と脳に充ちる多幸感──

 それをもたらせる物の正体はエンドルフィンだ。

 もはや、痛みはない。

 そして、目に見えて真冬の身体にも変化が有った。

 

 ──爪だ。

 

 ブロック壁を、まるで粘土か何かの様に容易く抉り穿った鋼鉄の如く強靭な爪が、僅かに伸びだしたのだ。

 伸びた爪は真冬にとって武器となる。

 更にアルビノの白い肌から透けて見えるような血管は膨張していた。

 脳内麻薬が分泌された事によりもたらされた、尋常為らざる新陳代謝の結果である。

 

「……馬鹿な、爪が伸びておるのが、はっきりと目に見えるだと……」

 達人然とした老人も、その異様な新陳代謝に驚嘆の声を挙げていた。

 

「面白いじゃねぇか、バイク、真っ正面からぶっつけられて、何ともねぇのか!」

 消力と脳内麻薬──

 真冬が見せたその技術と能力を、剛志もまた賞賛し驚嘆する。

 しかし、そこに恐怖の色は全くなく、寧ろ嬉しそうだった。

 今もなお、剛志は笑い続けていた。

 牙を剥く獣の表情のような嗤い顔である。

 そして、大きく腕を広げた。

 威嚇する熊の様な、彼の父である江頭宏哉と同じ構えだ。

 

「嬢ちゃん、何て名前だ?俺は、江頭剛志……いずれ、地上最強の生物と呼ばれる様になる男だッッ!」

 

「……當之(たぎの)」

 白い少女は僅かにそこで、一呼吸ほどの間、言葉を止め──

「……真冬です」

 名乗った。

 

 脳内麻薬により恍惚とするような多幸感に在っても、真冬の神経は一層研ぎ澄まされ、声にも澱みは一切無かった。

 

“中国武術の極意である消力に、脳内麻薬の操作、制御された尋常ではない代謝──こんな幼い子供が如何にして、どの様な、どれだけの修練を重ねたと言うのか……?欲しい、これ程の逸材などそうはない、我が古牧流に欲しいものじゃ”

 

 武術家──古牧宗太郎……達人然とした老人は震えていた。

 素晴らしい才能の塊を前にして喜びに打ち震えているのだ。

 弟子に迎えたい。

 そして、もしくはいずれ拳を交えたい……とも。

 彼の古武術古牧流は戦場術である。

 戦場(いくさば)に身を起き磨かれる技術なのだ。

 真冬の様な才能に技を伝える事に意味があり、そして、その才能と拳を交えてこそ、古牧宗太郎自身の技術もより磨かれ冴えて行く事になるだろう。

 

 真冬は両掌を開手のままに、何らかの構えを取ることもなく、ただ、両腕を下ろしている。

 だが、陽炎の様な揺らめきが彼女から見える。

 周囲の空間が捻れているような、ひりひりと感じる冷たい霊気が真冬から発せられていることに、剛志も古牧も気付いていた。

 

 しかも、単なる野次馬達の目にさえ、真冬の周りが吹雪いているような、そんな錯覚や幻想が見える程の霊気が、真冬の冷気として映っていた。

 自分達が、薄氷の上に立ちすくんでいる様な、そんな恐怖さえ感じる寒さだった。

 

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