範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
投げられたバイクが真正面から衝突──
それによって、本来なら被る筈のダメージを吸収してしまう真冬の
恐らく、単に身体が頑丈なだけではないだろうと、剛志は考えていた。
この技術を破るのが、今回の勝敗の鍵となる。
出来るなら真っ向勝負……小細工無しで、勝利を納めたいと言うのが本音だ。
剛よく柔を断つ──
技術を力で破ってこそ地上最強の生物と呼ばれるに値する
剛志──
父親から与えられた剛を志す意味を持った名前。
地上最強の生物を目指す為に、自分は生まれ落ちたのだ。
だが、それだけに拘りすぎても、勝利を得るのは難しいことを剛志は知っている。
花山薫のような存在ならそれでも良いだろう。
恐らく花山薫なら、真冬のあの奇妙な技術を前にしても異形の拳を見舞うだけで終わらせる……と剛志は思う。
いずれは、自分もそうなりたい物だが今はまだ無理だ。
剛志は決して、自信過剰な男では無い。
自分を過小評価はしないが、慎重な面もある。
自らを過大評価せず、そして、貪欲なまでの向上心を持ち合わせているのだ。
何より、真冬との勝負は想像以上に楽しかった。
いい加減なやり方で、この技術を破りたいとは思わない。
上から下、隅々まで──この技や、真冬が持っている、引き出しの中身すべてを堪能して行きたい──そう、考えていた。
殺すつもりで行くが、間違いなく、真冬は壊れないだろう。
自分に、そう確信させてしまう真冬との喧嘩が素晴らしく楽しい。
今夜の楽しい時間は終わっても、近い将来、また別の続きが出来る筈だ。
──だが、当然、勝って今夜の勝負は終わらせたい。
見てくれは脆く儚い少女だと言うのに、ここまで楽しくさせてくれるとは、世の中、分からない物だ。
特別構える事無く、真冬は、だらりと腕を下ろしてゆらゆらしている──それが剛志の目にも不気味で奇妙に映っているのだった。
何をしてくるか、分からない。
肉体による打撃──あの少女が得意としているのは、恐らくそうした物では無くて暗器の様な物や、何らかの道具だ。
だが、自分自身の血液や爪、歯なども武器にしてしまうし、寸勁の様な高等な技までも使ってくる、故に何が飛び出すか想像するのが難しく、読みにくい相手なのだ。
一瞬の油断もしてはいけない──元より、微塵も油断などするつもりは無いが。
この真冬は、幼い少女の外見をした化け物なのだ。
そもそも、まち針でアキレス腱を貫いた姿を見て惚れ込んだ少女の戦闘力である。
油断無く、間合いを詰める。
周囲を、そちらには顔を向けずに確かめる。
赤牛丸は店内が外からも見えるガラス張りだ。
自分の背後にはたこ焼き屋──
ガラス張りはそこにぶつければガラスでダメージを与えられるかも知れないし、たこ焼き屋の鉄板なども武器になる。
どちらにとっても、有効な武器だろう。
剛志は、少し間合いを詰めて行く。
一歩、歩幅程には詰めては行かない。
真冬の出方を窺っていた。
しかし、真冬からは動く様子は無いようだ。
あの技術は、防御の物だろう。
となれば、真冬からの攻撃は無いのだろうか……。
その時だ──
揺らめき、風に晒される草の様だった真冬の身体は、突然に動いた。
空気を破裂させた。
炸裂音──
それは、異様にしなり、鞭の様に──関節など存在しないかの如くに曲がりくねった真冬の両腕が撃ち込まれた後に鳴った。
音が遅れてやって来たのだ。
──つまり、真冬の腕は音より速くに撃ち込まれたのだ。
右手は掌で剛志の喉仏を打ち、左手は爪で背中を一閃し切り裂いた。
爪は背中の肉を抉っていた。
真冬の五本の指の爪の間に衣服の繊維と剛志の皮と筋肉、血がこびりついている。
明らかに、射程範囲の物理的な距離感がおかしい。
どういう原理で扱われている技術なのか、どんな腕をしているのか理解出来ず、剛志は一瞬動揺し、冷や汗が頬につたうのを感じた。
真冬のしなる腕は、次の攻撃に移ることはなく、ただ、縦横無尽に恐るべき速度で動いていた。
──が、ピタリと止まり、またもゆらゆらと緩やかな揺らぎに戻った。
両腕による鞭打──
そして、左手で打たれたそれは、中国発祥の武器、縄鏢に似る。
本来の縄鏢ならば、縄の先に付いている鏢の本数は一つだ。
しかし、爪は指五本分の五枚である。
それは、正しく五本の鏢が搭載された縄鏢となるのだ。
差し詰め、『縄鏢掌』とでも名付けられようか、真冬の強固な爪があってこそ可能な
消力をも可能とする真冬の脱力──鞭打もまた、真冬が得意とする技術だ。
これは、真冬にとって数少ない娯楽……ちょっとした遊びから修得された。
真冬は、ガラス瓶を鞭打で破壊出来る。
いや、ただ破壊するだけではない。
固定されていないビール瓶などの栓を、まず、鞭打で弾き、その栓だけを抜くことになる。
その際に、瓶は全く微動だにしない。
中身が溢れる事すら無いのだ。
そして、逆達磨落としとでも言えば良いだろうか、順々に上部から粉砕して行く。
それでもなお、中身は無事であり、瓶は動かない。
底の付近ぎりぎりまで粉砕すると、中身は無くなっているが、瓶は当然そこまでやっても倒れないのだ。
真冬は、ゴミ捨て場でビール瓶を拾い、中身には公園の水飲み場の水道水を入れて、こんな遊びを今より幼い頃から行っていたのである。
常軌を逸した恐ろしい遊びをする幼女……それが、真冬なのだ。
──遊びがそのままに、武の修行となっている、そんな生活だった。
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