※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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範馬の娘

 無数のモニターが、神室町の至るところを映し出している。

 飲食店や風俗店、交通路は勿論、公園や裏路地に至るまで、神室町で撮影されていない場所は無いかと思われる。

 それぞれがリアルタイムの映像だ。

 当然、過去に遡っての映像を映すことも可能だ。

 

 ──神室町には警視庁がテロ防止などを名目に50台の防犯カメラが設置されている。

 しかし、このモニターに映し出されている映像は、その警視庁が設置した防犯カメラの物ではない。

 神室町随一の情報屋“サイの花屋”が取り仕切る賽の河原が設置した、1万台の監視カメラが情報収集のために撮している映像である。

 無数のモニターが並ぶ中央には、映画館のスクリーンもかくやと言う程の巨大なモニターがあり、それは神室町のと或コンビニのリアルタイム映像を流していた。

 

 ──POPPO天下一通り店だ。

 態々、一番大きなモニターに映し出しているのには理由がある。

 このモニタールームのボスである“サイの花屋”が現在興味を持っている白い少女……當之(たぎの)真冬がそこに居るからだ。

 “花屋”は、真冬が神室町にやって来たクリスマスの夜の映像も巨大モニター以外の幾つかで再生していた。

 例の児童公園での当たり屋達との乱闘の映像や、神室町をさ迷っている真冬の姿が、様々な角度や状態を切り替え映し出されている。

 カツアゲ坊主との喧嘩も先程まではライブカメラの映像が観られたが、今は再生と巻き戻し、一時停止が繰り返され、花屋の手下となるホームレスが観察していた。

 

「ボス、コマ送りでも確認出来ない箇所が幾つもありますね……あの娘、化けもんでさ」

 鞭打を放っているシーンや、ブランコのチェーンを振るっている映像などだ。

 

「良いのが賽の河原に来てくれたもんだぜ、なぁ」

 花屋は真冬を連れてきたホームレスのモグサに言った。

 

 花屋や、彼の手下であるホームレス達には真冬を使っての思惑があった。

 賽の河原は長年ホームレスの溜まり場となっているのだが、もうじきある事情により立ち退きの日が迫っていた。

 警察や極道も介入出来ないと言われていた賽の河原だったが、再開発の話が舞い込んで来たのである。

 

 ここで問題となるのは追い出される事となる大勢のホームレス達の行き場であった。

 賽の河原に住んでいるホームレス達が一斉に神室町に雪崩れ込むのだ。

 まるで、難民の様相となるだろう。

 混乱や争いの火種になるのは確実だった。

 そこで花屋はホームレス達の次の住みかとして考えたのが神室町には多く存在している廃ビルや、下水道のような地下だ。

 しかし、廃ビルは廃ビルでギャングやチーマーのような反グレ達のアジトとして利用されている。

 一部の東城会が秘密裏に使用している場所もあった。

 そうした場所の掃除──

 それを真冬にやらせようと花屋は考えていた。

 

 仔犬の捜索も、真冬を引き込むための算段の一つである。

 真冬の人柄は既に調査済みだ。

 彼女の過去も一通り調べている。

 母親と暮らしていた頃──ゴミ捨て場を漁って食べ物を探していた真冬は、野良猫や野良犬、ごきぶり等が居ると自分よりも彼らを優先し、それらに食べ物を譲るほどの生き物好きである。

 真冬が起こしたと思われた小動物を護るための暴力事件──枚挙にいとまが無い程に真冬の過去を洗えば見つかったのだ。

 

 真冬自らが保護した仔犬の住みかとなる場所の危機──ともなれば必ず動くと、花屋は確信していた。 

 そして、ミチと言う老婆のホームレスの存在だ。

 真冬は賽の河原に住み着いてから、彼女に非常になついている──利用しない手はない。

 尋常ならざる戦闘力を持ってはいるが御し易い背後関係があり、場合によっては蜥蜴の尻尾として切り捨てる事になっても問題ない存在──花屋や、彼の手下であるホームレスにとって真冬の出現は何よりも都合が良かった。

 

「ありました、モニターに出します」

 中央の大型モニターがライブ映像から記録映像へと切り替わった。

 コンビニでのライブ映像の方は別の小さなモニターに映し出している。

 一瞬モニターは暗転するが直ぐに映像が現れた。

 

「ミレニアムタワー女児落下事故──事故とは言われてるが、ある種の都市伝説的未解決事件の映像だ」

 

 映像は2002年6月5日深夜11時50分から始まっている。

 監視カメラが捉えたのはミレニアムタワーの屋上にいる若い男性と女児だ。

 幾つかの監視カメラが記録している様で、巨大なモニター以外のモニターにも異なる角度の彼らを映し出している。

 異様に白い肌と髪の女児だ。

 真冬だろう事は明らかである。

 6月の深夜帯、五歳の幼女は若い男性に荷物か何かの様に運ばれていた。

 男性が掴んでいるのは真冬の首だ──異常な光景としか言い様が無い。

 真冬は薄手の白いインナーシャツと小学校の制服と思われる紺のプリーツスカート、白のロングソックスを身に付けている。

 靴は履いていないのが余計に異様さを高めている。

 しかも、インナーシャツは胸元が切り裂かれ、血で汚れている。

 乾いており、黒く変色している為に、血が付いたのはついさっき、と言う訳では無さそうだ。

 しかし、彼女の胸元にはざっくりとナイフか包丁で切られた様な傷痕が残っている。

 まともな精神ならば目を背けたくなる……そんな切り傷の痕だった。

 ロングソックスは洗濯された様子は無く薄汚れている。

 

 若い男性は暴力そのものが形を成したような、そんな男だった。

 怒髪と呼ぶに相応しい長い髪は、獅子の鬣の様に風に靡いている。

 黒い半袖の拳法着から伸びた二の腕の隆々たる筋肉に走る太い血管は、尋常ではない新陳代謝を物語っていた。

 3年前の映像に映るその男は、モニターの向こうから、そして時間を超越してまで見るものを威圧している様だ。

 百戦錬磨の極道や、龍に例えられる男と出会い、渡り合ってきたサイの花屋さえ、居すくまる程の存在感であった。

 悪魔

 鬼

 悪鬼羅刹

 そんな例えですら、生温いだろう男は、真冬の首を掴み、引き摺り、ミレニアムタワーの屋上から神室町を見下ろしていた。

 真冬、五歳の夜──

 彼女が自分の意思でないにせよ、初めて神室町にやって来た夜の事だ。

 

 そして──

 日付は丁度、6月6日

 男は動いた。

 真冬の首を掴んだまま、彼女の体を振り上げる。

「誕生日おめでとうッッ!バースデープレゼントだ。受け取れッッ」

 

 放り投げられた真冬の体は宙を舞った──

「モノにしな!死に際の集中力をよッッ」

 

 夜の空気を歪ませ、切り裂く男の笑い声が木霊する。

 その映像に、過去の出来事だと理解してはいるが、モグサやホームレス達は言葉を失い、息を飲んだ。

 

 虚ろな真冬の目は何を映してるのだろう。

 生きてきた僅か5年。

 

 その全てを、見ていた。

 

 そして、更にその先も。

 真冬の体は宙を舞いながら、どうしようもないとしか思えない落下の重力を受けながらも、死に反抗していた。

 神室町最大の高層ビルの屋上からの落下だ。

 

 普通なら途中で意識を手放すだろう。

 だが、真冬の意識はより鮮明になっていた。

 

 ミレニアムタワーの壁を蹴る。

 衝撃を全身に浴びても、緩和する様に弾いていく。

 見えるのだ。

 異様な集中力が真冬の脳を支配していた。

 

 甘い脳の痺れを越えた快楽が意識を占めている。

 落下速度が、緩やかに、スローモーションの様だと真冬は思った。

 

 

「これが……當之……いや」

 ──範馬真冬だ。

 

 利用するには都合が良かった、それだけではない──真冬の存在は、ホームレス達の未来を任せられる、そうサイの花屋に確信させる物なのであった。

 

 リアルタイム映像の方では、3年前、高層ビルの屋上からの落下より生存した真冬が、バットを持ったギャングと対峙している──そんな温い現在が映されているのだった。

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