※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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バット男

 ユウヤはPOPPOに現れた“神室町罸徒衆(バットメン)”のメンバーの動向を窺い、警戒していた。

 ──六人組が真冬に絡んで来るであろうことは容易に想像できたからだ。

 

 深夜と言うほどでは無いが、夜のコンビニにホストと並んでコピー機を使っている幼い少女。

 明らかに妙な絵面であるし、目立っている。

 しかもその少女は、髪や肌が異様に白く、年相応とは言えないゴスロリ服やヘッドドレスで着飾っており、血塗れなのだ。

 どうしても目に止まる筈だ。

 コピーも終わり、これから江本診療所へ案内しようとしていた矢先に付いていない。

 

 POPPO天下一通り店の出入り口は一ヶ所のみだ。

 それほど広くないこの店舗で、複数の危険人物が現れては、すぐに逃げ出すのは困難だろう。

 

2.

 

 コンビニの自動ドアを潜った一人目と二人目。

 彼らは真冬とユウヤがいるコピー機付近は直ぐに通り過ぎた。

 恐らくキャバ嬢と思われる年若い女性客の元へと足早に向かったのだろう。

 “罸徒衆(バットメン)”の質(タチ)が悪い所は、こうした女性客を見付けるや彼女らにも絡み、痴漢紛いのセクハラを働く所にある。

 

 公衆の面前での痴漢だが、案外誰もが黙認するものだ。

 見るからに危険人物のそれと分かる者を咎める事ができる人間はそうはいない。

 

「真冬ちゃん、このコンビニ出て右手に、スターダストって言う店がある。何とか逃げられる隙を作るから応援を呼んできてくれ」

「そこ、ユウヤさんのお店なんですよね?ポスター、貼って戴けるのですか?」

 

 尋ね犬のポスターの事だ。

 今しがたのユウヤの言葉の何処を聞いてそう解釈したのだろうか……。

 現在、真冬の脳裏を占めている割合の多くは仔犬の事だった。

 その為に、こうしたピントのずれた解釈に行き着いたのである。

 

「え、いや」

 

 カラーコピーの最中に、真冬がカツアゲ坊主と喧嘩したと言う話は聞いている。

 見た目とは裏腹に高い戦闘力を持ち合わせているのだろう。

 だが、それでも真冬が罸徒衆(バットメン)を脅威に感じている様には到底見えない素振りには理解しがたい物があった。

 

 三人目は店員に絡みだした。

 真冬はコピーが完了したポスターを纏めていたが、そこで、視線をそちらに向けた。

 

 “随分と重そうな制服”を着た少年の動きを感じたからだ。

 真冬も、彼ら罸徒衆(バットメン)は誰もが躊躇うこと無く人を金属バットで殴打できるタイプの危険な輩であると見抜いている。

 しかし、あの少年の危険さは、根本的に違う。

 必要があればクロスボウを他人に向け、引き金を落とせる──刃物を抜くことにも躊躇が無い。

 殺傷に恐怖を感じる事がない、そんな男であると、真冬は一目見て悟っていた。

 

「お、ホストの兄ちゃん、メイド幼女と同伴かい?」

 ユウヤが危惧した通り、案の定絡んできた。

 

 その瞬間──

 

 真冬は右手でヘッドドレスを外し──それを振るった。

 それと同時、膝を折った状態で左足を上げ、左手はシューズのリボンに仕込んでいた剃刀を二枚取り出した。

 人指し指と中指、薬指と小指に、それぞれ一枚ずつ挟み込む。

 

 ヘッドドレスが、まるで鞭の様相だ。

 レースで形作られた黒い百合の装飾が美しいヘッドドレスが、その素材からあり得ない程の“しなり”を見せる。

 ──そして、そのヘッドドレスは剃刀を打った。

 

 剃刀は二枚、いつの間にか宙にあり、それをヘッドドレスで打ったのだ。

 

 一枚は、ユウヤに絡んで来た男の右手に──

 もう一枚は、女性客に絡んでいる男の背後から、彼の耳を──

 それぞれ切り裂いていた。

 ただの剃刀でありながら、それは概ね手裏剣として機能しているのだ。

 

 右足で床を蹴り──続いては、折られていた左足を振り上げ、コピー機の上部を蹴った。

 そして、その反動を利用した勢いは威力を増し、ガラス張りの壁に、頭部から肩、上半身で激突し突き破る。

 激しくガラス張りの壁を粉砕し、真冬はPOPPOの外へと飛び出した。

 僅かに受け身気味に地面を回り、店側へと向き直る。

 

 喧嘩をするにしても、店舗内では迷惑がかかる……と踏んでの行動だ。

 が、勿論、壁を壊してしまっては元も子もないのだが、そこまで頭が回る真冬ではない。

 

 ヘッドドレスはまだ右手にある。

 飛び出し様に左手はガラス片を掴んでいた。

 多少、ガラス片は彼女の手や指を傷付けるが物ともしない。

 それは、明らかに異常な精神の持ち主である、と、ユウヤの目に映った。

 

「やべぇ……何だこの娘(こ)」

 

 だが、それでユウヤに火が点いた。

 長らく神室町で過ごしている彼も、大の男と真っ向から喧嘩をしようとする幼女など見たことはない。

 ──当然だ。

 

 しかし、真冬はそんな常識の外にいる。

 それでも、ガラス壁に激突したからか、真冬の額や頬にガラス片が傷を付け、細かい欠片が突き刺さっていた。

 

 視力に優れる者なら、眼球にもガラスの粒子や極々細かい破片が刺さっていることに気付けるだろう。

 だが、真冬は眼球にガラス片が突き刺さった際にも瞬きすることなく、今もなお、傷付いた箇所を被うことも拭う事もしなかった。

 そんな姿を見せられ、何の行動も起こさないユウヤでは無いだろう。

 

 ──真冬が罸徒衆(バットメン)に仕掛けた理由は二つだ。

 一つは、ユウヤに絡んで来たから。

 もう一つは──

 

 “重そうな制服”の少年が、敵なのか、味方でないにしても、このギャング側では無いのかを確認出来たから──だ。

 

 一瞬、動いた彼から流れる空気は、自分達ではなく、確かに、罸徒衆(バットメン)へと吹いたのだ。

 真冬はそう、感じた。

 

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