※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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武器マニア

 

 真冬から膝蹴りを受けた男の胸椎がメキリと悲鳴を上げた。

 膝蹴りを放った左膝が男の背に食い込んだ状態のまま、真冬は右脚を振り上げる。

 ──とてつもなく柔軟な身体だ。

 体操選手にでもなれば、今すぐにでもメダリストに名を列ねるだろう。

 そして、人外の平衡感覚だった。

 

 苦痛に呻く男の肩胛骨に向けて、その体勢のまま、踵を落としたのだ。

 踵を落とした衝撃を利用し真冬は上空へと跳ぶ。

 跳んだ──とほぼ同時に、店内にいる、先程、剃刀で手を裂いた男へとガラス片の束を投擲する。

 ──ガラスの礫だ。

 それは、より鋭利に割れた尖端が向いて、彼に襲い掛かった。

 狙うは顔面である。

 投擲の際には一欠片だけをより細かく握り潰し、ガラスの目眩ましとしても仕上げている。

 

 だが、真冬はヒヤリとしたものを感じた。

 精神的に生じた物ではない。

 脚を振り上げた時、冬の冷気で生乾きとなった下着が擦れた為に嫌な冷たさを覚えたからだった。

 先刻、カツアゲ坊主と喧嘩をした際、下腹部を蹴られ、膀胱へとダメージを喰らい、不覚にも失禁してしまいパンツやタイツを濡らしてしまったのだ。

 訪ね犬のポスターをコピーした後で履き替えようとは思っていたが、罰徒衆(バットメン)といつのまにやら喧嘩となり、その機会を失ったのである。

 冷たくて気持ち悪い──

 神室町に来るまでなら、金銭に恵まれていない真冬は、そうそう新しい衣服や下着による着替えなどは考えた事が無かった。

 しかし、今はある程度余裕があるのだ。

 ──とは言え、下着も、タイツも今身に付けている衣服は、老婆のホームレス、ミチに買って貰った物だ。

 タイツも随分と汚れ、破れてしまっている。

 “これをミチさんが見たらどう思うだろう──悲しむかな──”などと想像すると真冬は強い胸の痛みを覚えた。

 

「あの、ユウヤさん。一つお聞きしたいんですけど──この近くに安く下着を買えて、履き替える事が出来る所ってありますか」

 

 出来る事なら洗濯もしたいとも思う。

「え?あ、下着?」

 

 突然の真冬からの質問にユウヤは動揺を隠せなかった。

 今、この状況でしてくる質問ではない。

 ユウヤは当然ロリコンではないのだが、真冬のような可憐な少女に投げ掛けられると気恥ずかしさを覚えてしまう──そんな部類に入る質問だった。

 

「後で、案内して頂けたら助かります」

「え、あ、あぁ」

 

 ユウヤは、一旦それで会話を中断する。

 気恥ずかしさを逸らす為でもあり、そして無傷の残る罰徒衆(バットメン)が金属バットを大きく振り上げ殴りかかってきたからだ。

 人の頭部を粉砕する事にかけてはホームラン王だろう。

 罰徒衆(バットメン)のフルスイングがユウヤ目掛けて振るわれた。

 

 POPPO店内もまた、似たような光景だった。

 真冬の剃刀に耳を切られた男が気合いを入れ直し、バットのグリップを強く握り締め、雄叫びを上げた。

 そして、井森洸一に狙いを定めたのだ。

 バットが降り下ろされる。

 それは、バットを振るう動作ではなく、まるで小剣か何かで斬りつける様な一撃だった。

 井森の涼やかな眸は薄氷の刃を思わせる冷酷さを秘めており、口許には嘲笑めいたものが浮かべられ、そのバットを事もあろうに前腕にて受け止めてしまう。

 

 金属と金属とがぶつかり合う、高い衝撃音が聞こえた。

 生身ではないのか──

 その異常さに罰徒衆(バットメン)の男は戦慄した。

 人体を殴り慣れているが、その肉や骨を打った手応えではなかったのだ。

 

 正体は籠手だった。

 学生服の袖下に隠れた超々ジュラルミン製の籠手が、バットの威力を殺し、井森の前腕を保護しているのである。

 しかも袖裏に編み込まれた細く強靭な鎖は特殊な形状と製法で作られた鎖籠手として機能していた。

 籠手を身に付けている事を隠蔽したいが為に、ガントレットや剣道の小手などの様な手甲の部分は無く、前腕だけを覆っている。

 幾つかの仕込まれた武器や、制服の下に着込んだ防具類。

 ──それらの武器防具こそ、彼の制服を見た真冬が“随分と重そうだ”と考える事になった所以だった。

 

 籠手など何処で入手しているのだろうか。

 現代日本で手に入る物なのか甚だ疑問である。

 見た目だけにはごく普通の、既製品の制服としか見えないにも関わらず、防具的に改造された制服もだ。

 だが、そうした現代の日本で扱われていないと考えられるような物さえも手に入る事は、神室町の物騒さ、危険さ、そして深淵の如く深い鷹揚さを物語っているのだ。

 

 井森は、神室町で武器を取り扱う裏マーケットに顔が利く。

 大抵は天下一通りの裏路地でそうした商いを営む男と取り引きし、彼の心に燻る武器マニアの欲望を満たしているのだ。

 井森はワークス上山と呼ばれる武器商人の良い顧客である。

 上山は武器や防具の販売のみならずそれらを改良し日用品を武器に改造する仕事などもやってくれる。

 井森と付き合いのある武器商人は他にもいる。

 例えばbeamというエロビデオ屋の裏の顔は武器ショップだ。

 特別な合言葉を知るものだけが利用できる。

 

 そしてもう一ヶ所──今回、井森がこのコンビニの襲撃者たちとやりあう切っ掛けとなった依頼をしてきた場所だ。

 それは、劇場前広場にあるデボラと言うクラブを表の顔にしているが真の顔は傭兵斡旋を生業としている組織だ。

 そこは金や様々な物品を報酬として依頼を行う。

 井森はそうした場所からも依頼を受け、数多くの武具を入手しているのだ。

 

 井森は不良ややくざなどを嫌う。

 そして、素手での喧嘩など現代人のすることではないと嘲笑い、武器を手にするのである──

 

 ユウヤが罰徒衆のフルスイングを上体を反らしかわした。

 そして、腰を落としタックルを狙う。

 バットの振りを避けられ、体勢が僅かに狂った男の胴体に両手を回す。

 ベアハッグの様な体勢になるが、そこから気合いの雄叫びと共に罰徒衆の男を持ち上げた。

 罰徒衆の男は脚をばたつかせ、抵抗の意思を見せたが、直ぐ様ユウヤは動いた。

 ユウヤは男を持ち上げたまま、避けた時と同じ様に上体を反らしていく。

 そして、罰徒衆の後頭部を自らの後方のアスファルトへと落とした。

 ユウヤのぶっこ抜きのフロントスープレックスが決まった瞬間だった。

 ──とほぼ同時に井森は剃刀で傷付いた罰徒衆の耳にカリ・スティックを振るった。

 

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