※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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幼き打岩

大財閥当主が語る白い少女の話

 

 ──うん、名前も素性も知らなんだよ。

 初めて会ったときは。

 

 本邸ではなく、この別邸に居(お)った時じゃな。

 あの子は毎晩、何処からか忍び込んで来よった。

 最初は護衛にも気付かれることなく庭で遊んでおったみたいでな。

 尤も何度も何度もやってくるもんじゃから、しまいには、うちの警備頭をやっとる加納に見付かってしまいおった。

 奇妙だったのは、監視カメラには映るんじゃが、肉眼では見付け難くてのう。

 なんちゅうか──

 時代劇の忍者みたいな娘じゃったわ。

 

 加納の奴も、侵入者が七つか八つの娘じゃし、処遇に困っておった。

 しかしな、情けない事にだぁれも、あの娘を捕まえられんのじゃよ。

 別段悪事を働く訳でも無いしな。

 儂らは一先ず、様子見がてらほったらかしにすることを決めたんじゃ。

 たまに、ほれ、向こうの池──

 あそこで、儂と一緒に鯉に餌やりとかやっておったよ。

 楽しそうにしとったのう。

 

 庭と言えば──

 ほれ、見てみい、見事な石庭じゃろ。

 

 この別邸自慢の枯山水じゃよ。

 あの子は、あれ、あのおっきな庭石が気に入っておってな。

 

 うん?

 ──そう、あの“丸っこい岩”じゃよ。

 石庭を飾る石には見えんのう?

 窮めて真球に近い岩──

 

 お前さん、打岩って知っとるか?

 うん、そうそう、中国武術の古い鍛練法じゃが──よく知っとったのう、打岩なんぞ。

 

 素手で岩を打ち、砕き、割っては、角を削って球体に近付けて行く、あれじゃ。

 素手でなら拳だろうが、蹴りだろうが、肘打ち、頭突き何でも構わん。

 

 しかしな、相手は堅い岩石。

 そんなもんを素手で打てば皮膚は破れるし肉は抉れて只では済まん。

 並大抵の修行者では、それを成し得る事など一生かかっても出来んらしい。

 

 儂が中国から招いた中国武術の雄、魔拳『烈海王』は黒曜石の打岩を完成させたんじゃが、あれは見事なものじゃったよ。

 完全な真球。

 角なんぞ一切無い。

 

 あの娘の打岩は、まぁそれと比べては出来が良いとは言えんだろうな。

 しかしな?

 

 この幼き打岩──

 僅か三日三晩で成し得たもの──だとしたら、お前さんどう思う?

 

 信じがたいじゃろ。

 でもな、あの娘はそれをやってのけおったのじゃよ。

 

 センスの無いものなら一生かかっても出来ん。

 天才的な才能の有るものでも三年はかかる打岩。

 庭石でやったもんとは言っても、果たしてこれを三日三晩で出来る奴など、どれだけ居るじゃろうなあ?

 

 ん?あれも気になるかい?

 庭石が輪っかになっとるの。

 うん、時価530万円のフラフープじゃ。

 

 打岩をやり終わったあの娘にちょいと意地悪を言ったんじゃよ。

 石を丸になんぞ誰でも出来るっての。

 ──いや、出来んけどの。

“わし、石の輪を見てみたいのう”

 

 そんなことをあの娘に言ってみたんじゃよ。

 永い長い中国武術の歴史──岩で輪を作ったとされる逸話もある──

 

 伝説の打輪じゃよ。

 打岩を成した者が次に挑戦する鍛練法なんじゃが、これを完成させた者は少ない。

 

 球体にするより当然難しいのは理解出来るじゃろ。

 儂が意地悪なのは、倒れたら失敗とからかったことじゃよ。

 球体を更に削って抉ってゆくから、打撃を受けるや、矢先に折れやすく、倒れやすくなる。

 とんでもない正確さ、速さ、タイミングが要求されるんじゃ。

 

 で、倒したらゲームオーバー。

 流石にあの娘も手こずりおったな。

 半年くらい掛かりおったかな。

 

 この530万円のフラフープを作るまでに。

 いやな、倒した奴も勿体無いと、倒れてからも削っておったんじゃよ。

 思えば折った事は無かったのだから大したものじゃよ。

 だから半年かかった。

 成功例の奴だけなら、うーん、二週間程かの。

 

 でな、儂はあの娘の拳をもっともっと見てみたい、そう思ってしまったんじゃ。

 だから、言ったよ。

 

 細長い石の棒は作れないじゃろ?ってな。

 

 打針じゃよ。

 それをやらせる為に、儂は1200万円の庭石を取り寄せた。

 作るのは直径二センチの石の棒じゃ。

 球体や輪を作るより難しい、打岩の究極系、打針。

 烈海王でさえも、こいつはやっておらんと思うぞ。

 話では黄海王のオリジナルの鍛練法らしいからの。

 中国武術四千年の歴史のなかでも類を見ない途方もない超技術じゃて。

 

 ──これな、折ったら失敗なのは当然じゃ。

 折らない様に、大きな岩を細く細く削って行く。

 当然素手でな。

 

 ──で、折ったら1200万円弁償して貰うぞいってあの娘に言ってみたんじゃよ。

 いや、勝手に庭石を取り寄せて、打針をやってみる様に提案したのは儂なんだがな。

 ──それでもあの娘、気負う様な素振りは全く見せなんだ。

 寧ろ、失敗してはいけない状況にワクワクした様子じゃったよ。

 

 そして、あれじゃよ、見ての通りにあの娘は打針もやってのけおった。

 

 打岩──

 打輪──

 打針──

 

 良いじゃろう?これ程の石庭は無かろうて。

 範馬の娘がこしらえた打岩の石庭じゃ。

 

 これ以上の枯山水は他に無いぞい。

 儂の自慢の石庭じゃ。

 

 岩を砕く小さな拳──

 あの娘ならば、如何なる鋼の肉体でも打ち抜いてしまうじゃろうなぁ。

 

 ──儂ならどんな相手とマッチメイクさせてみるか……じゃと?

 そうじゃな、幾ら強かろうが地下闘技場に呼ぶわけにもいかんが……差し詰め、地球一のタフガイ……リチャード・フィルス辺りとやってみて欲しいかのう?

 

 ──なぬ?神室町でとうの昔にやっとる!?

 

 見てみたかったのう。

 

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