範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
“何か面白い事が起きないかな──”
幼い少女は、変化を待ち望んでいた。
どれほど高価な欲しい物でも、苦労せず、好きなだけ手に入る事が当たり前な毎日であれば、寧ろ何一つとして充たされないものなのかも知れない。
大人達から、かしずかれる。
大人達は“お嬢”と自分を呼ぶ。
だから、少女は自分が、所謂『御嬢様』などと言われる存在なのだと漠然と感じるようになっていた。
同年代の誰よりも、高価な物を身に付けている。
それは衣服でもあるし、他の小物類まで様々だ。
通学鞄も外国の有名ブランドか何からしい。
制服ではなく私服通学故に、身に纏う衣服は、他の児童のそれとは明らかに違うきらびやかさが見て取れた。
しかも、学校への送り迎えは、自家用車だ。
運転手までいる。
少なくとも、彼女が通う小学校に、自分以外そんな生徒はいなかった。
勿論、羨望の眼差しを向ける生徒は多かった。
やっかむ者も居るだろうが、それ以上に、もて囃す者の方が多くいた。
しかし、そうした友人達の誰一人として、自身を充たす事は無かった。
彼女が十歳の頃、とある真冬の時期に──今まで見てきた誰とも違う、興味深い不思議な冷気の槍と出逢うのだった。
2. 西暦2003年
翠は、母親と二人暮らしだ。
父親の顔は知っているが、暮らす家は別だった。
母親は未婚の母である。
それでも、恵まれた裕福な生活を送れているのは、母親の実家自体が非常に裕福な家柄だった事にも起因する。
住居も、邸宅と呼んで差し支えの無い高級住宅だろう。
“御嬢様”である事に、間違いは無いのだ。
ただ、多少は特異な事もあった。
父親は関西最大の広域指定暴力団である東城会の三次団体“風間組”の若頭らしい。
十歳当時は、そうした暴力団という存在が何なのか、翠は理解出来ておらず、ただ父親は偉い役職に就いている人物何だろう──そう考えていた。
堂島組傘下風間組若頭、柏木修──
それが翠の実の父親である。
母は入籍していない、柏木の内縁の妻と言ったところだ。
自家用車の運転手は、護衛──そうした意味合いを持った人物でもある。
柏木は風間組内で重要なポストにいる人物だ。
翠は、そんな極道の娘である。
内縁の妻との娘とは言え、その身に危険が迫ることも考えられると、故あっての処置なのだろう。
運転手は髪を短く刈り上げ、深い剃りこみを入れた強面の男であり、児童が彼を見たら、確実に泣き出してしまうだろう。
恐らく、上級生達、あるいは同級生であっても勘の良い者なら、そんな運転手に送り迎えされている翠が“普通”の御嬢様では無いことに気付いている筈だ。
明らかに翠は異質な存在だった。
子供同士であっても、異質な存在は排除したがる物だ。
だが、その異質さに、更に恐怖が上乗せされたなら話は変わる。
翠は、子供達の中心的な立場にあった。
周りの子供は、翠に媚びを売っている──様にも見えるほどだった。
そして、そうした立ち位置に居るなら、大抵は天狗になる。
だが、翠は、概ね性根がひねくれているのか、寧ろ周囲の態度に心底辟易し、しかも、傷付いた様相だったのだ。
──そんな折に触れて、ある下校時、翠は自分を待つ車に乗ることなく、一人で、ふらりと街へと脚を伸ばした。
いつもなら自家用車の中で暖房の温もりに包まれているが、冬の冷気が肌を刺した。
吐いた息も真っ白だ。
しかし、それが心地好かった。
一人歩きを始めたのも、冬の寒さに不思議な気持ちよさを覚えたからだ。
何故か、身体も軽く感じる。
伸び伸びとした、解放感とも言えるだろうか。
深呼吸の様に、目一杯空気を肺に溜め、吐き出した吐息はやはり、白い。
澄んだ空気、空間は冷気が充ちて透明な白さに見えてくる。
だが、そんな清んだ世界を壊すように携帯電話が鳴った。
翠の姿が見当たらない事に心配した護衛兼、運転手の男──山乃が電話をしてきたのだ。
翠は直ぐに──電源を切った。
──邪魔されたくないと、思ったのだ。
何か、予感めいたものが在ったのかも知れない。
もう少しこの“散歩”を続けたかった。
小学校を離れ、見馴れない景色が広がっている。
車で来ることも無ければ、当然自分の足で訪れた事もなかった。
見たことが無い、或いは気に留めていなかっただけか、知らない制服を着た学童が行き交っている。
中学生か──
小学生でも学区が異なる地区の子供だろう。
翠の学校は私服通学故、制服と言うものを着てみたい……とも彼女は思う。
擦れ違う何人かは、翠に興味を持ったか、不躾にジロジロと見てくる者もいた。
この辺りで、見掛けた事が無い少女だからか──
それもあるが、翠が稀に見る美少女だと言うことが大きいのだろう。
母親の趣味で、翠は、今よりも幼い頃からずっと髪を長く伸ばしており、今では美しい黒髪が背中迄に流れている。
前髪は目より少し上、頬に添った左右の髪は顎辺りで綺麗に切り揃えられ、翠を現代的な御嬢様とより良く見せる髪型となっている。
少し大人びた、つり目がちな眸から猫の様な印象を与えている。
伝統的な和装──と言うよりも現代的にアレンジしたような和服が似合いそうだ。
今は金糸で花模様の刺繍をあしらった紺色のワンピースに白と黒のレースで飾られたケープを身に付けている。
ケープを留めるブローチは控え目な品だが、見るものが見たら高価な物だと気付けるだろう。
視線には無視を貫き、暫く歩いていると、肌寒さが僅かに辛くなってきた。
何か、温かい飲み物が欲しい。
──と、自販機を探す。
少し戻ればコンビニのPOPPOがあった。
そこまで戻るか──と思いつつ──
“戻らなくて良かった──”
二階建てのアパートか、或いは文化住宅か……
昭和から取り残されたような建物の脇に自販機が二基、設置されていた。
しかし、翠が戻らなくて良かったと、心底思ったのは、自販機を見付けたからではない。
その自販機が設置されている場所から奥まった先には、金網で囲われたゴミ捨て場があった。
このアパートの、共用のゴミ捨て場ではない。
恐らく単なる空き地に不法投棄されたゴミ群が山となり、ゴミ捨て場の様相を呈しているだけだ。
──様々な粗大ゴミが見える。
大型の冷蔵庫が目立っていた。
野晒しにされ、雨露で錆びたフレームが一部剥き出しになった事故車両も二台、金網の外にも一台ある。
自転車やバイク、何の機械か翠には分からない金属などとが打ち捨てられている。
金属の墓場──
翠が、その不法投棄されてゴミ捨て場と化した空き地を見て受けた印象だ。
しかし、そんな負の空間に──
真冬の空気の如くに清んでいて、透明で、真っ白な──
綺麗な、鋭利な“槍”が輝く姿を見付けた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い