※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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槍

 

 東城会直系堂島組傘下 風間組 舎弟頭“山乃惣一”はある都市伝説を思い出していた。

 

 ──山乃は、風間組若頭“柏木修”が内縁の妻との間に作った一人娘“城之内翠”を護衛する任に就いている。

 翠はほぼ毎日大体3時半頃に下校する。

 山乃は翠が通う小学校の授業行程となる時間割りを全て頭に叩き込んでいた。

 今日も、校門の側に車を停めておけばすぐに翠を車に乗せて送迎出来る……筈だった。

 

 しかし、いつも通りにはならなかった。

 翠が姿を現さなかったのである。

 電話を直ぐに掛けたが無視され、電源が落とされてしまった。

 明らかに異常事態ではないだろうか、山乃はそう、判断した。

 

 そして、奇妙な事が、更に起きていたのだ。

 カーナビや翠の携帯に搭載された位置情報を教えるGPSが狂っていた。

 最初に気付いたのはカーナビの大幅なズレだった。

 70メートル程度の誤差が生じていた。

 

 そこで、思い出した都市伝説がある。

 まともな大人であれば、一笑に付してしまうような都市伝説だ。

 

“軍事用の人工衛星による衛星偵察の監視対象となっている三名の男の話”

 

 “範馬勇次郎”

 “ビスケット・オリバ”

 “純・ゲバル”

 

 その三名の内、誰か一人でも時速四キロ以上のスピードで動いたなら、軍事用の人工衛星半数が緊急作動を強いられ、彼の動向を監視するのだと言う。

 その為に軍事衛星を使用する位置情報システムを用いたカーナビやGPSは大きく……70メートル以上ズレると言われているのだ。

 何らかの闘争に関係するものなら民間の人工衛星も動員されるのだろう。

 今回は携帯電話のGPS機能まで狂っているのである。

 

 山乃が思い至った都市伝説だ。

 確かに一般人なら大人どころか子供でも笑い話と笑い飛ばしかねない。

 しかし、山乃の様な裏社会の人間ならば、然もありなんと、寧ろ事実であると信じてしまうであろう都市伝説なのだ。

 

 翠の行方不明と件の三名の動きは関係するものなのか。

 恐らく直接的な関係は無い筈だと、山乃は考えた。

 彼らが翠に害を為してくるとしたらどんな理由があるだろうか。

 まず、何一つ無いからだ。

 それよりも、考えられるのはごく最近、関西近江連合と杯を交わした七代目源王会である。

 七代目源王会は現在極道社会の一本化を大義名分に、勢力の拡大を図り幾つかの抗争を企てている、と山乃も聞いていた。

 下手をすれば、東西の最大派閥東城会や近江連合を巻き込んだ一大戦争になりかねないのだ。

 そんな中で、そうした抗争を好と思わぬ七代目源王会傘下五代目藤木組内花山組の組長が、東城会風間組に接触して来たと言う話がある。

 花山組と風間組が盃を交わし手を組む事になるのをよく思わないであろう源王会が、あの手この手で何かしらを仕掛けてくる事は明白なのだ。

 その中で風間組若頭の娘が狙われる可能性は大いに考えられた。

 何にせよ、GPSが役に立たない現状、翠を捜索する事は多少の骨が折れそうだ。

 ──山乃は、車を出した。

 

6.

 真冬が、金網フェンスの胴縁上部に立っている事に直ぐ様気付けた者は居なかった。

 そもそも、真冬がガラス片を投擲してきた事に気付いた者がいなかったのだ。

 数秒遅れて、ガラス片で傷付いた男以外の二人が、懐より其々、一振りの短刀を取り出し、抜いた。

 それでも、仲間の組員が何かしらの襲撃を受けたことに関しては理解できた為に、その行動は速いものである。

 

 その短刀は匕首などとも呼ばれる30センチメートル程の日本刀だ。

 白木の鞘に柄と、極道映画のそれを思わせる物である。

 

 しかし──

 「お前らは退けッッ」

 

 叫んだのは“蒙将龍”だった。

 そして、彼は金網フェンスに突進する。

 

 彼らの目的は城之内翠の誘拐だ。

 だが、未知の+アルファの介入があり、最初の一手からして、失敗してしまったのだ。

 “光り物を使ってしまうのも不味い”

 蒙将龍はそう考えた。

 このままでは拳銃(チャカ)まで抜きかねないと判断したのだ。

 ここいらは人気も少なく、人の目も疎らだ。

 だが、近くにはアパートもある。

 目撃されるリスクはそれなりに考えられ、面倒だ。

 

 そして、蒙将龍のみ、真冬と言う未知の+アルファの存在に気付けた故に、金網フェンスに全身をぶち当て、他の極道達には退却を命じたのである。

 一人運転手が車に残っているのは、誘拐後の逃走を容易にするためでもあり、こうした失敗を考慮しての側面もある。

 失敗した場合もまた、直ぐに発車出来るのは都合がいい。

 

 蒙将龍の言葉に従い、無傷の組員二人は車に走る。

 それに遅れて、痛みに呻きながらガラス片を投擲された男も車へと急いだ。

 

 蒙将龍の実力が信用されているからこその、他の極道達の行動であった。

 

 真冬は既に、金網フェンスの上にいなかった。

 金網フェンスに蒙将龍が衝突する寸でで、宙に舞っていたのだ。

 男達が逃げた先に停車している車に仕掛けよう──としたが、それは、止めていた。

 

 蒙将龍の突進が凄まじいの一言に尽きたからだ。

 トラックかダンプカーが衝突してきたのかと思うほどに、金網は歪んでいた。

 地面から抜き出て折れ曲がっている支柱も見られた。

 

 ──とっ

 

 突進した際には中腰だった蒙将龍が立ち上がり、金網から離れると、軽い音が聞こえた。

 地面に降り立つ音だ。

 

 瞬間、ぶわりと、蒙将龍の顔から汗が吹き出した。

“背後ッ!?”

 

 異様な錯覚だった。

 突き刺さるような、気配が背後にあった。

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