※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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骨太な怪獣

 

 蒙将龍は咄嗟に、右方向へと跳んだ。

 ──それは明らかに回避行動であり、しかも、見るものが見たなら、その動きは全くもって相撲的には思えないものだった。

 土俵の上での取組だけで、力を奮ってきた力士では無い事が見て取れただろう。

 そんな動きであった。

 

 その横への跳躍で、背後から繰り出された真冬の貫手を避けていた。

 殺気が鋭い刃となって突き出された──と、幻視にも関わらず、蒙将龍の脳裏にはその白刃による刺突が鮮明に映っていた為に全身で避けてしまったのである。

 

 ──息が荒い

 蒙将龍は呼吸を整えていく。

 息が上がっているのは疲れからではなく、真冬から発せられた人外の殺気に、一瞬気圧されたからだった。

 

 振り返ると、そこに殺気の主(ヌシ)がいた。

 今しがたの殺気は、幼い少女から発せられた物とは思えない常軌を逸した鋭いものだったが、それはそれ、そう言う物なのだと、現実として受け入れる。

 

 組員達が乗り込んだ車も無事に発車していた。

 しかし、風間組若頭の娘を誘拐することに失敗してしまったのだ。

 次に好機が巡ってくるのはいつか分からない。

 向こうの警戒が、より強固に高まってしまうだろう。

 誘拐対象となっている城之内翠の護衛が、厄介な極道だとは予め聞かされていた。

 その護衛が側にいない今がこれ以上ない絶好の機会だったことは言うまでもない。

 

 また、これが切っ掛けで源王(げんのう)会と風間組が敵対する事にもなりかねない──しかし、それについては問題ない。

 問題があるとしたら、この誘拐失敗が原因となり、花山組が、風間組と繋がる切っ掛けになってしまう可能性が考えられることだ。

 五代目藤木組内花山組──

 目下、源王会が対処を間違えてはいけない下部団体がそこだ。

 藤木組は源王会の傘下にあるが、近々源王会が始めようと画策する抗争に関して、反目しているのが花山組の組長“花山景三”なのだ。

 恐らく、花山組が源王会へ反旗を翻す為に取り入る先は、東城会風間組が有力候補として挙げられるだろう。

 

 蒙将龍は、パシィッと、自らの顔面を両手で叩いた。

 気圧されはしたが、改めて気合いを入れ直す。

 そんな動作であった。

 実際に意味や効果がある訳ではないが、気合いを入れ直した……そうした心の持ち様を示すことも必要である。

 

 眼前の少女は、未知の不穏分子だ。

 今回の計画を失敗に導いてしまった、予測を越えた先に居る存在なのだ。

 何より、強い──

 蒙将龍はそれを、自身の細胞全てで感じていた。

 

 不気味だ──と蒙将龍は思った。

 真冬は半身で、背を彼に向けている。

 何より不気味なのは、視線が、蒙将龍には向けられていないことが一番に挙げられる。

 真冬が見ているのは翠だった。

 彼女が巻き込まれないか、更なる伏兵が潜んでおり彼女に害を成して来ないだろうか──と、それを警戒しているのである。

 

 先程の貫手──

“俺を目視する事無く仕掛けて来たのか──”

 避けなければ、只では済まなかった──そう、確信できる程の一撃だった。

 だが、そんな恐ろしい想像をしても今回は冷たい汗が吹き出す事も無く──蒙将龍は、ゆっくりと股を割り、腰を落としていった。

 大相撲に明るく無いものであったとしても、恐らく“お相撲さんのあのポーズ”と言われたなら日本人であれば誰もが思い浮かべる筈だ。

 所謂、蹲踞(そんきょ)と呼ばれる姿勢である。

 

 翠は、この蒙将龍と言う男が、角界において最高峰に位置する横綱の一人である事を知らない。

 横綱と聞かされてもピンと来ないだろう。

 翠もまた、大相撲に明るく無い今時の少女だった。

 だが、その圧倒的なまでに巨大な肉の塊がそこに在る──そんな、肉の圧力への恐怖感は、並大抵の物では無いことは理解出来ていた。

 

 ──身長185センチメートル

 ──体重168キログラム

 

 搭載された脂肪と筋肉は本来の身長以上に、彼を巨大に見せて居るだろう。

 このまま四股でも踏み出したならば、ここら一帯は震源地にでもなってしまいそうだ。

 いや、現に先程の金網フェンスとの衝突で、確かに大気も大地も鳴動していたのだ。

 

 対して、この頃の真冬は未だ七歳──

 ──身長106センチメートル

 ──体重22キログラム

 少女である事もさることながら、身体は当然出来ておらず、年相応よりも明らかに小柄なのだ。

 

 翠は10歳と僅かに年上だが、並べば真冬のその小柄さは一目瞭然だろう。

 しかも、日本人らしからぬ程に白い肌と紅い瞳、白い髪。

 

 先天性色素欠乏症(アルビノ)

 儚さと脆さが形を成したような少女と──

 力、それそのものの権化の如く男が立ち会おうとしているのだ。

 体格にして凡そ八倍もの開きがある。

 明らかに、異様な情景だった。

 

 チワワと土佐犬──

 仔猫とライオン──

 始祖獣と恐竜──

 

 力の化身と考えるなら、まさに、そこにいるのは龍かも知れない。

 翠が蒙将龍に見たものは龍──怪獣だった。

 怪獣のなかの怪獣──

 怪獣王レッドキングだ。

 

 火を吐かない、空も飛ばない、超能力も持たない、余計な戦略は無用の腕力自慢の怪獣王レッドキング。

 小細工など必要としない、力そのものが体(てい)を成したような怪獣である。

 間違いなく、最も漢らしい骨太さを誇る怪獣なのだ。

 翠の中で、蒙将龍がそれと重なった。

 ならば、真冬の存在は、レッドキングに遇えなく潰された珍獣ピグモンだろうか。

 

 恐らく違う。

 翠は幻想の中で、架空の存在である怪獣王レッドキングと蒙将龍とを重ねて見ていたが──

 

 いつしか、それは消えていき、真冬の中にある力の軌跡だけを、見るようになっていった。

 

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