範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
“好きになった相手がたまたま女の子だった──
そんな話を稀に聞いた──
私の場合は──
──そう言う訳じゃ無い
まずあの子が女の子じゃなければ、私が彼女に興味を惹かれることはなかった──
可愛い女の子が──真っ白で雪のような少女が、鋼を刃のような手刀(貫手)で穿ってる──
それは、女の子であることが重要だった──
そんなことが出来る女の子何て、普通は絶対にいないからだ──
強い男性なら何人か知っている。
でも、彼らに特別な興味を抱いたこと何て無かった。
多分彼女の行動に興味を惹かれたあの瞬間から、私の
七.
真冬は未だ
彼女は蒙将龍を見ていなかった。
真冬の視線は翠に向けられているのだ。
しかし──
「
幽霊が囁く様な声で真冬は言った。
翠を見ているから、翠は自分に言われたのかと思い、何の話だろうかと疑問符を浮かべた。
「え?首?え、別に大丈……」
捻挫の覚えなんて無いからだ。
他に怪我をするとしたら先程手を掴まれたが、それも別に痛くはない。
頬を打たれかけたが、それは、真冬が男へとガラスを投擲し守ったから、怪我以前の話だ。
「な、何故知っているっ!?」
蒙将龍は、翠とほぼ同時に半ば叫んだ。
無表情だった蒙将龍だが、驚愕の為か僅かに目を見開いていた。
今の真冬の問い掛けは、蒙将龍に投げ掛けられた言葉であると察したからだ。
頚の捻挫──
それが、大相撲の本場所などで被った物であるなら、眼前にいる少女でも知っていておかしくはない。
ニュース等で話される事もあるだろう。
しかし、確かに頚部を捻挫していた。
だが、それは、大相撲の取組でも、稽古で受けた傷でも無いのだ。
普通の少女が知っている筈もない場所で受けた傷である。
闇相撲──
裏社会での賭け相撲だ。
対戦相手は力士に限らないが、稀に相撲限定のトーナメントが開催される事もある。
モンゴル相撲等とやりあう場合もあり、蒙将龍は幾度かそうした闇相撲トーナメントで優勝している。
蒙将龍は、表の大相撲横綱であり、同時に闇相撲の横綱でもあるのだ。
つい先日、そうした闇相撲の試合で、柔道家との異種格闘技戦の際にて頚を痛めていた事を思い出した。
あの試合の決着は相撲と異なっていた。
倒れても、手を付いても良い。
行司もいない。
決着は、意識を失うか……死ぬかだけだ。
降参することも許されない、闇の相撲だ。
それは、大相撲の源流……古代相撲──當麻蹴速と野見宿禰の大一番に似る。
試合の舞台も土俵の上では無い。
水を抜いたプールだった。
周囲は四角いプールの底のため、追い詰められたら壁がある。
土俵ではないため、転落しても負けではないが、壁に囲まれたその試合場では逃げることは出来ない。
裏社会においての、闇相撲──危なくなれば逃げたくなってしまう者だっている。
そうした逃走防止の意味合いも含まれた試合場である。
プール本来備え付けられている様なタラップはなく、脚立の梯子で登り降りするため、完全な決着まで誰も外には出られないのだ。
そんな過酷な試合場での闇相撲を先日行った。
八人でのトーナメント、試合数は三回。
当然優勝した。
一回戦はレスラー、二回戦は力士、決勝はその頚にダメージを与えてきた柔道家とだった。
件のトーナメントは一日で終わる。
関係者以外は知らない闇の相撲である。
観客も日本の極道十数名と、今回のトーナメントでは残念ながら当たらなかったモンゴル相撲を連れて来た中国マフィアの何人かだけであった。
外部に試合内容や選手の名前が持ち出される事は普通有り得ない。
故に、真冬が頚の捻挫を知っている筈が無いのである。
あまりの奇妙さに、何処か不気味さを蒙将龍は感じた。
湿布等を貼っていたら見掛けから判断を出来るかも知れないが、そんな事は無い。
頚の捻挫を悟られる要素は外見からも見当たらない筈だった。
この不気味な少女との立ち合いは、恐らく不要だ。
何の得も無いと考えていい。
確かに、この少女を黙らせれば、本来の目的だった風間組若頭の娘を誘拐できるだろう。
雇い主だった他の組員は逃がすことができた。
彼等に危害が及ぶ事は既にない。
後は機を見て、蒙将龍自身もこの場を離れるだけだ。
最初は嘗めていた所もある。
ガラスの投擲は見たが、幼女一人どうとでもなるだろうと高を括ったものだ。
しかし、この少女を前にして、彼女のその言動、立ち居振舞い……その全てが底知れぬ不気味さが醸し出されているのだ。
だが──
闇相撲の横綱として、背を向けたくない相手でもある。
幼女相手に、何を、考えている──蒙将龍は自分に問い掛けるが、そう思ってしまう程に、少女は得体が知れず、そして、彼女からは強い氣が発せられているのだ。
表の大相撲では出会えない相手だ。
闇相撲であっても果たしてこれほどの存在と立ち合えるだろうかと考え得る
闇相撲の対戦相手とて、並の者などいないにも関わらず、である。
「いや、まぁな。何でも良いか」
蒙将龍は蹲踞の姿勢のまま、左手を開く。
──ゾブ
そして、アスファルトに蒙将龍の指が潜り、それは毟られ、手の内いっぱいに握り込まれた。
蹲踞から、腰を上げる。
真冬はそれでも、まだ、翠を見ていた。
アスファルトを毟る。
その異常を見ていない。
──翠は見ていた。
だが、アスファルトを毟り握り潰す、その力を見ても翠の胸は高まらない。
真冬の貫手を見たときのような高揚感は何一つ無かった。
「塩代わりにしては黒いけどな」
軽く笑い声を上げながら、砂塵と化したアスファルトを撒いた。
浄めの塩を真似たジョークなのだが、真冬はさして興味も持たない。
暫しの間を置くが──
先に動いたのは蒙将龍だ。
168キログラムの肉が動いた。
速い──
翠は愕然とした。
脳裏に過ったのは、口が悪いかも知れないが“デブなのに速いっ”である。
恐らく誰もがそう思うだろうが、170キログラム近い体格が動いたと考えて、素人目には信じがたい速度だったのだ。
真冬は、まだ、翠を見ていた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い