範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
これが相撲の取組であったなら、既に勝負は決している。
決まり手は“足取り”と言った所だろうか。
前頭時代から蒙将龍が得意としていた技だ。
しかし、蒙将龍は、当然の様に今回のこれを勝利だとは考えていない。
この勝負は相撲ではないのだ。
仮に相撲だとしても、裏相撲か、はたまた古代相撲である。
表の相撲における様な決着は有り得ないのだ。
相手を叩きのめし、再起不能に追いやる事で漸く決着となるのだった。
裏社会との太いパイプがあり、闇の賭け試合に幾度となく出場している蒙将龍だからこその心構えだ。
とは言え相手は幼い少女である。
普通なら躊躇いも生まれるはずだ。
しかし蒙将龍は、手心を加えるつもり等、毛頭無かった。
真冬の恐るべき戦闘力を、肌で感じ取っているからだ。
この幼い少女を“強敵”として認識しているのである。
ともすれば、脅威を感じ、恐れているのかも知れない。
蒙将龍の左腕は、真冬の右太股を抱えたままだ。
こうした状態になっていても、緊張が拭い切れていないのだ。
張り詰めた気は、警戒の色に染まっている。
有利と思える筈の蒙将龍に、緊張と警戒が途切れていない事には理由がある。
──アスファルトへは、後頭部から落とした。
右太股と胴体をしっかりと捕らえており、受け身はさせなかった。
頭頂骨から後頭骨にかけて砕かれ、脳へのダメージもある筈なのだ。
──激痛で呼吸が出来なくなっている。
そんな可能性も考えられる──だろう。
しかし、蒙将龍の目から見ても、真冬は明らかに無事な様子であった。
──それが、不気味で、警戒を解く事が出来ずにいる理由なのだ。
尤も、警戒しているだけでは勝ちは拾えない。
警戒もそこそこに、蒙将龍は直ぐ様、真冬の顔面へと張り手を打ち下ろす様に放った。
これも、本来の相撲では有り得ない体勢からの攻撃だ。
だが、これもまた、蒙将龍にとっては、やり馴れない攻撃ではないのである。
横綱“金竜山”相手に、大相撲本場所では概ね負け越している蒙将龍だが、例えば徳川光成の地下闘技場や、サイの花屋の(凶器を用いる事さえ可能な)地下闘技場、闇の賭け試合“闘人市場”や、果ては“ゆうえんち”などで命の削りあいを行ったなら、蒙将龍に軍配が上がるだろう。
翠が絶叫した。
蒙将龍の張り手が真冬の顔を潰す……そんな未来を想像したからだ。
真冬の双眸は、蒙将龍の巨大な
その張り手を、真冬は額で迎える。
衝撃が起きる瞬間、真冬は頚を動かし、頭を起こした。
そして、額を蒙将龍の掌にぶつけた。
──無寸受けである。
しかし、それは通常の無寸受けと多少異なる。
自身の被るであろうダメージを殺すだけでなく、相手にダメージを与える攻撃的な無寸受けだった。
蒙将龍の腕が跳ね上がる。
まるで、弾き返されてしまったかのように見えた筈だ。
張り手……掌底で良かったのだ、拳で打っていたなら、蒙将龍の拳の骨は砕けていただろう。
先程、真冬が後頭部で蒙将龍の額を割った技術と同じ流れを汲む
蒙将龍は、何が起きたのか、一瞬理解出来ずにきょとんとした表情になっていた。
有り体に言えば、無寸受けと額を用いての頭突きだ。
例えば、空手道神心會館長“愚地独歩”が見せる額で防御し、打ってきた部位を逆に破壊する技に近い。
真冬の場合、そうした技術も無寸受けも、知識としては知らないが、空想の先に──自然に扱っている。
現在(本文中2003年)よりも先の話、真冬がコンビニエンスストアPOPPOのガラス壁に額から突っ込み粉砕していたが、あれも、実戦の中で“練習”しているのだ。
制止している物体を無寸受けで破壊する練習だ。
それは、真冬にとって、悪く言えば“遊んで”いる事に等しい。
勿論、実戦を侮っている訳ではない。
ごく自然に、武を武と知らず武を“遊び”そして、楽しんでいるのだ。
その先の目的意識すら存在しない遊びである。
『頑張ることも、耐えることも、日常の全てが遊び』
『丸一日、“武”の中で“遊ぶ”』
『楽しむ者には絶対に勝てない』
これは──行住坐臥を旨とする本部流実戦柔術“本部以蔵”が、ある少年を話題にしていた際に出した言葉だ。
それは、真冬にも当てはまる言葉であった。
件の少年とは、範馬刃牙──
真冬は、彼女自身、名も存在も知らぬ……しかし、決して縁が無い訳ではない……その少年と、奇しくも同じ道筋を歩んでいるのだ。
先程拭ったものの、今もなお額から流血している蒙将龍の夥しい鮮血が、無寸受けの反動と衝撃が蒙将龍の上半身を大きく揺らした為、真冬に降りかかる。
白い髪、白い肌に染まる赤い血液──
真冬の紅い瞳も血のように紅く虚ろだ。
それを、その──血に濡れた白い少女が持つ紅い瞳を、蒙将龍はまざまざと見てしまい、余りの気味の悪さに戦慄を覚える。
更に──
自身の血液が、真冬の小さな口許にボタボタと滴り落ちるのを見た。
しかも、口を開けることはせず、真冬の口唇に隙間を割って舌が伸び、その血液を絡めとる様に舐めたのだ。
一瞬、蒙将龍は我が目を疑った。
異様な舌だった。
細長い舌が二本ある様に見えたのだ。
無論、舌が二本ある訳ではない。
その舌は、縦に、二つに切られているのだ。
その異質な舌が自分の血液を舐める不気味さに、蒙将龍はヒュッと、小さく悲鳴の様な息を洩らした。
その悲鳴と共に、またも張り手を放つ。
攻撃──と言うよりも防衛本能に近い手だった。
だが──
真冬はその張り手に合わせた。
何を、か──?
──貫手だ。
脚を捕らえられ、腹の上に170キログラムを乗せていても、彼女は冷静さを失っていない。
ズブリ、と、真冬の指が蒙将龍の掌に吸い込まれる様に突き刺さった。
掌と指だ。
しかもその掌は、張り手を打っている。
普通なら、勢いのある掌を突いたとしたら、指の方がダメージを受けるだろう。
骨が折れるか、脱臼するか……である。
蒙将龍は、咄嗟に張り手を放った右手を引っ込めた。
恐ろしい激痛が走ったのだ。
手を引っ込める瞬間よりもほんの刹那前に、真冬は掌側を上へ
蒙将龍の掌の中心辺りに突き刺さっていた真冬の中指が“くの字”に曲げられるや、蒙将龍の中指と薬指の間を広くしてしまったのだ。
堪らず蒙将龍は脚を離してしまう。
更に、蒙将龍は背中に激痛を感じた。
不自然な激痛だった。
真冬の腕が伸びたとしか思えない。
真冬の掌が背中を打ったのだ。
張り手……を、やり返された。
いや、確かに張り手だが、これは所謂鞭打である。
鞭打を放つ際に必要なのは脱力だ。
全身を水とイメージし、脱力の果てに腕が鞭となる。
貫手から間髪入れず、脱力が必須な鞭打だ。
緊張と弛緩。
それを瞬時に切り替えているのだ。
並大抵の精神では無いだろう。
そして、腕を振るった。
爪が、蒙将龍の頚を裂いた。
それは、最初に真冬が言っていた彼が捻挫を負っている箇所と寸分違わない位置であった。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い