範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
嘗ての高級ソープランドは、今や見る影も無く荒れ果て、すっかりと寂れ切っていた。
──桃源郷
真冬と、丸坊主、パンチパーマ、ロン毛の男達は“keep out”と書かれた黄色いテープを越え、板張りの扉を抜ける。
扉も元々は豪奢で、頑丈そうな代物だったが、昨年末に起きた極道の抗争によりダンプカーが突っ込み、完全に破壊されてしまい、今では単なる板張りで簡素に閉ざされているだけであった。
内部の荒廃具合も、酷い有り様である。
埃っぽい。
埃や黴のすえた、嫌な臭いが真冬の鼻をついた。
どこから立ち入ったのか、ホームレスなども居着いているのだろう。
酒瓶やビール缶、残飯などもそこかしこに散らばっている。
「やぁ、来たかい」
砕けた石膏の像が目立つ受付ロビーのカウンターに座った一人の男が、真冬を出迎えた。
奇妙な出で立ちである。
全身黒タイツ、目出し帽の様な覆面──
恐らく、
他にも二人、彼と同じ格好の男がいた。
彼らのその姿は、古い特撮に見られる戦闘員のパロディだ。
その内一人は何やら怪しげな器具の点検をしており、もう一人は注射器を弄っている。
真冬は知らないが、公園前通りにもある様な店に売っている、所謂大人のおもちゃだ。
ピンクローターやら、電マ等と呼ばれる物である。
注射器には何の薬物が仕込まれているのだろうか。
──媚薬やら、違法薬物などであった。
「私は何をしたらいいのですか?」
真冬は、小首を傾げ丸坊主の男に尋ねた。
「真冬ちゃんには、僕達のね、新作特撮ビデオ、仮面《マ》ライダー リパイズリのヒロインをやってもらおうと思ってるんだ。直ぐに終わるから、その後、ワンちゃんを探そうか」
「よ~し、真冬ちゃん、まず写真一枚撮るよぉ」
ロン毛の男が、真冬に有無を言わさずシャッターを切った。
それと同時に、全身黒タイツの一人──注射器を弄っていた男が缶飲料のタブを開けた。
プシュッと音が鳴る。
缶ビールだ。
真冬の視線がカメラに向いた隙に、その缶ビールに注射器の媚薬と同様の薬物を注入し──
「お嬢ちゃん、喉渇いてねぇか?」
──ビールを注いだ紙コップを真冬に手渡した。
周りの男達がにやつく中、真冬は、それを口にしてしまう。
途端に真冬は、ビールの苦さに不味さを覚え、眉を顰めた。
しかし、捨てたり吐いたりするのは申し訳無いと考え、真冬はコップ一杯のビールを飲み干した。
「もう一杯飲むかい?」
「いえ、いりません」
だが、紙コップへ更に注がれ、飲まざるを得なくなる。
「よし、真冬ちゃん。取り敢えず上に行こうか」
桃源郷は四階建てで、それぞれの階層に幾つかの個室が存在していた。
現在は床が陥没し、半ば倒壊寸前のように見える。
嫌々ながらも注がれたビールを飲み続け、真冬は、男達と共に上階へと向かっていく。
──階段は、瓦礫、瓶やらのガラス片でかなり危険な事になっている。
──しかし、男達はそんな足場にも慣れた様子であった。
桃源郷が閉鎖されて以来、彼らはここで余程の数の“仕事”をこなして来たのだろう。
ガラス片を踏む音が響く。
──男達の視線は真冬に向けられていた。
彼らが撮影するポルノは、ロリータ専門アダルトビデオで、彼らの映像を愛するロリータ趣味の持ち主は数多く存在している。
そして、彼ら全員が、ロリータ趣味を嗜好とする集団なのだ。
真冬の様な美少女は彼らの格好の獲物となる。
パキり──とガラスが割れると、真冬の脚が震えた。
割れて響いたガラスの音が足に伝わり、そして脚に突き刺さり、体の真芯を震わせた。
際どいミニスカートのフリルと、黒いニーソックスの間に覗く白い太ももが、僅かに赤みを射している。
「真冬ちゃん、期待してるよ」
ぽんぽんとパンチパーマの男が肩を軽く、叩く。
すると──
真冬は、全身に走った異様な感覚に驚き、小さく声を上げた。
脚の震えが激しくなり、一瞬、しゃがみこみそうになってしまう。
脚の震えを抑える様に、強く足首に力を込めた。
眩暈が、真冬に足場が揺らめいた様に錯覚させ、パンチパーマの男の方へと肩が傾いた。
真冬のその様子を見たパンチパーマの男と、全身黒タイツの男達は下卑た笑顔を浮かべた。
「おっと、真冬ちゃん、大丈夫かい?どうしたんだい」
真冬とパンチパーマの男はかなりの身長差がある。
真冬は、120センチ──
パンチパーマの男は凡そ190センチだ。
真冬を支える為に男は僅かに腰を落とし、その細い肩を抱き抱え、背中に手を回した。
ぞくりと背中に氷が押し込まれた様な感覚に、真冬は、反射的に仰け反った。
息が上がっている様な、未知の感覚に戸惑う。
疲れや、ダメージは無い──だが、それらと異なる明らかに不可思議な感覚が全身を襲っている。
布越しに触れられているだけで、体の痺れと震えが治まらない。
“あぁ、そうか──”
──毒だ。
二階の一室に入ると、窓は板で打ち付けられていた。
外から見えないようにするためか、それとも窓から逃げ出させ無いようにする為か。
桃源郷時代から使われていたが、打ち捨てられ薄汚れたベッドの上には、見るからに怪しい道具が散らばっている。
その中で、真冬の知識の中に有るものは手錠だ。
ベッドの横にある小さなテーブルの上には注射器と錠剤が入った瓶、薬包紙も見えた。
「それじゃあ、真冬ちゃん、電マ人間ローターックル軍団とゴスロリヒロインの撮影会といこうか」
丸坊主の男が告げると、荒い息を吐く真冬の顔を、ロン毛の男はカメラに収める。
普通なら、女児が見せない様な表情である──男達に取って最高の画がそこにあった。
「向こうに座ってねぇ」
パンチパーマの男がベッドへと促す。
全身黒タイツ男の一人がベッドの横に控えており、真冬がベッドに近寄るや、真冬へと右手を伸ばした。
左手には手錠がある。
下卑た笑みを隠すような猫撫で声で、優しげな顔を見せていた男達だったが、豹変した。
黒タイツ男は乱暴に真冬の左手首を掴むのだった。
ここに連れ込んでしまえば、逃げようが無い。
優しい顔など不要なのだ。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い