※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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四十八手章治郎

 

 演技──

 石坂のその言葉に真冬は戸惑った。

 台本などもまだ、渡されていないのだ。

 自由に──等と言われても、真冬には何をすればいいのか、考えもつかないのだった。

 

 それに……

 恐らく、この戦闘員の様な男達に“攻撃をされているのだろう”と真冬は考えていた。

 身体の異変は“毒”だ。

 媚薬と言う存在を真冬は当然ながら知らない。

 

 “毒なら体から排出すればいいだけ”

 

 身体に異変や変調をもたらせる物は全て毒だ。

 真冬は、今よりも幼い頃、鼠やごきぶり等の真っ当な人間なら避けるべき対象となる生き物と過ごしていた。

 

 母親は真冬を疎ましく思っており、ほぼ放置されていた。

 真冬の食事はゴミ捨て場にある生ゴミや等だった。

 それを不潔極まりない生き物と分けあい、口にしていたのだ。

 腐った物もあれば、元より食べ物ではない物体もあった。

 雑草や、公園のベンチの脇に生えている正体不明の茸、果ては蟲なども食べた。

 毒の含まれた植物、茸、ムカデなど毒虫もあったろう。

 

 だが、尋常ならざる免疫力や代謝が、それらの危険を真冬から遠ざけていた。

 ──しかも真冬は、自分でも知らない内に、自然由来、科学的由来問わず多くの毒物、ウィルスなどを体外に排出する技術体系(わざ)を身に付けているのだ。

 

「あ、の……離して下さい」

 何かおかしい──

 真冬は、身体の異常だけでなく、心情的な物もいつもとかなり異なっていると、ありありと感じていた。

 

 羞恥がいつもより強く、カメラを下半身に向けられているのが、嫌で堪らないのだ。

 普段であっても当然羞恥心が真冬にもある。

 ゴミ捨て場での食事は生きるために必死であった頃からの日常で、それは何とも思わない。

 戦闘中に服が破れ、肌が露になろうと、それはそれである。

 ──しかし、例えば人混みの中で無意味に下着を晒せ、などと言われても従わないだろう。

 一般的な少女からはかなりズレた感性であったとしても、それなりの最低限の羞恥心は持ち合わせているのだ。

 

 現在も攻撃を受けていると認識しながらも──スカートの中を撮影されており、そして、それがあのカメラを持つ男の目的かと思えば羞恥心と不快感が沸き上がるのだ。

 これは本当に戦闘なのだろうか。

 そんな疑問もあった。

 

「離すわきゃあねーだろうがよォッッ」

 絶叫の様な笑い声と一緒に、真冬の頬に拳を振り抜く一号。

 喉が鳴るような呻きに交ざる息を、真冬は吐き出した。

 一号はその打拳とほぼ同時にベッドへと飛び乗り、膝を真冬の右腕に落とした。

 一号の体重は100キログラムに近い。

 ──膝を落とした後、その体重が真冬の右腕に乗りかかったのである。

 

 腕に激痛が走った──その刹那だ。

 

 脚を掴んでいた二号が、もう片方の手で太股の内側を撫で上げる。

 そして、撫でるのを止め、先程点検していた器具のスイッチを入れた。

 棒状の先端に丸みがあり振動している、一見すれば、機械的なコケシだろうか。

 ──電マ人間の名を冠するに相応しい、彼らの武器だ。

 それを、二号は石坂に投げ渡す。

 

 軟膏の様な薬品を練る石坂の視線はそちらに向いていた筈だが、ふいに投げられた電動こけしを、ヘラを持っている手で受け取った。

 目を見張る程の反射神経だ。

 単なるアダルトビデオのクリエイターではない、一方(ひとかた)ならぬ身体能力の持ち主なのだろう。

 ロリータ専門アダルトビデオ制作グループ“四十八手章治郎(しじゅうはってしょうじろう)”の背後には源王会が有るとは言え、石坂自身は一応カタギだ。

 勿論、真っ当な人間とは言えないのだが。

 ──蒼天堀川にある、闇社会の闘技場『無尽闘宴※1』で拳を奮う現役の闘士でもあった。

 

 石坂は、近江連合や源王会からの依頼で、代打ちと言う試合を行ったりもする。

 代打ちとは、つまり賭け試合に参加する代理の事だ。

 金銭や不動産、極道組織同士の利権を賭けて格闘試合を行うのだ。

 若い頃の愚地独歩もそうした賭け試合の代打ちを経験しているし、組長である花山薫などは本来は代打ちを手配する立場なのだが、代理を立てる事無く自らが賭け試合で拳を奮っている。

 

 石坂はそうした賭け試合を60戦、闘技場での通常の試合を80戦以上の参加経験があるベテランだ。

 プロの格闘家や極道の喧嘩自慢を相手にし、真冬が嘗て苦戦した、同じく代打ちのベテランとなる大相撲の横綱“蒙将龍(もうしょうりゅう)”、更には、件の若かりし頃の愚地独歩が試合した宗内厳とも、試合を行った事がある。

 まだ代打ちを始めて数戦の馴れていない頃の話とは言え、宗内が敗北した数である三回のうち一度は石坂との試合なのだ。

 この試合で石坂は源王会に神室町のビルを二棟もたらす事となり、源王会の幹部達の覚えも良くなったのだ。

 ──通常の試合での敗けは幾度かある。

 ──が、代打ちでの敗北は僅か二度。

 それらの事もあり、近江連合や源王会にとって信頼のおけるカタギであった。

 

 石坂はベッドへと歩み寄り、真冬を見下ろす。

 真冬は、両目を瞑り、深く息を吐いている。

 

 その吐いた息が石坂には“黒く”見えた。

 勿論、吐息に色など付いている筈が無い。

 しかし、その幻視は、石坂もまた恐るべき達人であるから見えたのだろう。

 

 ──確かに、真冬は黒い息を吐いている──そうしたイメージを真冬は、脳裏に描いていたからだ。

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