範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
零号が目にしたもの──
それは、例えるなら──鎗。
倒れ臥し、弱々しく息が絶える様に喘いでいた少女の姿は、もはや、そこに無かった──
真冬から現在受ける衝撃、
例えば、無数の
一歩でも近付けば、全身を貫かれる──そんな鋭い気配が真冬から発せられていた。
1. 柄本医院にて、ある少女のレントゲン写真を見る
「やあ、よくお出で下さいました」
泰平通り西に建つ雑居ビルで開業している、柄本医院。
その医院の医師である柄本が、一人の男を招き入れた。
患者の姿はなく、ここに居るのは柄本とその男性だけだ。
診察室と待ち合い室があるが、彼らは診察室の方へと向かう。
柄本が招き入れた男性は髪が女のように長い。
一見、ニューハーフかと見紛う美貌だが、その美貌とは裏腹に、衣服を着ていてもその下にある凄まじい筋肉が見てとれた。
如何なるアスリート、プロレスラー、プロボクサー、総合格闘家──それらを遥かに超越する程の筋肉量である。
巨漢レスラーからして、自身より一回りも二回りも巨大だと、言わしめる程なのだ。
彼の名前は、『
こう見えて彼は医者であり、柄本の知り合いであった。
天才的な外科医で、その腕は世界に並ぶものは無いと言われている。
歩けない者も彼の施術で完治した程だ。
「興味深いものって何です?柄本さん」
鎬は、闇医者の“梅澤”経由で、面白く興味深いレントゲン写真があるから、是非見て欲しいと言われ、この神室町へとやって来たのだ。
梅澤医師も写真を見るため、柄本医院に来たがっていたが、今回は不在だ。
鎬も本来はとてつもなく忙しい。
たまの休みさえ無いほどだ。
しかし、このレントゲン写真は、そんな多事他端な毎日であっても合間を縫って見るべきであると、それほどの価値があるレントゲン写真だと、梅澤も柄本も言っていた。
「脳のレントゲン写真でしたっけ?そんなに面白い物なのですか」
「えぇ、これです」
柄本はかなり、興奮気味に見えた。
それもその筈だ。
この脳のレントゲン写真は、明らかに異様で、脳外科医でなくても非常に興味がそそられる物だったのだ。
「……ふむ」
柄本に促され、鎬は円形の椅子に座る。
柄本もその隣に座り、シャウカステンを点灯させた。
灯りの点いたプラスチック板には、既にとあるレントゲン写真が貼られていた。
奇妙な脳のレントゲン写真であった。
明らかに、人間の脳には見えない。
それは、鎬も驚愕する脳の写真だった。
「どう、思いますか」
「……まるで……悪魔が嗤っているような……不気味な形状と言いましょうか」
そう答える鎬の頬に冷や汗がつたう。
この様な脳は、長く外科医をやっている鎬も始めて見る物だったのだ。
将来的に、同じ様な脳と再び出会う事になるのだが、それはまだ先の話だ。
そのレントゲン写真と比較するように、一般的な前頭葉の写真も貼られている。
しかし、はっきりとその比較用の前頭葉と異なると理解できた。
その異様な脳が形作る皺と襞の形状が、何かの顔の様に見えるのだ。
「先日、重傷の少女がうちに来まして、その時撮った彼女の脳のレントゲン写真です」
カツアゲ坊主との死闘の後、柄本医院へと受診にやって来た真冬の写真だ。
脳に多大なダメージを受けていた為、大事をとって、レントゲン写真も撮って貰っていた。
「……何者なのですか……その少女」
「鎬先生も気になるでしょう?」
「え、えぇ」
その脳の持ち主は、若干九歳の少女だ。
「當之真冬と言う少女です。この写真だけでも奇妙な物ですけどね……どういう状況だったのか、骨にも損傷がありまして……」
喧嘩の末に怪我をしたらしく、それの治療のために来たのだと、柄本は説明した。
しかし、その怪我は、九歳の少女が喧嘩をして負うような物だとは、到底思えない程だったと言う。
まるで、交通事故──
と、柄本は表現した。
「骨格も内臓も、人のそれとは、全く異なる形状となっているんです」
骨のレントゲン写真も撮ってある。
損傷を受けていた内臓もだ。
目を見張るべきは内臓もであった。
形状──と言うよりはその配置された位置だ。
心臓を含めて、何から何まで逆の位置、或いは向きなのだ。
分かりやすい所では心臓は右側である。
骨格も、少女のそれではない。
小柄な少女でありながら、その体躯に見合った骨の太さではないからだ。
頸椎は、まるで獣のそれだ。
骨格もまた、形状からして人間離れした異様なものだった。
産まれながらに、兵器となることを運命付けられた様な──そんな骨格だ。
指の骨がまるで、刃物の様にも見える。
関節も不思議なことに本来曲がるはずがない、まるで、逆関節のような接続でありながらも、一般的な関節も同時に共存してある。
恐らく、まともな対人体を想定した関節技は、ほぼ無効にしてしまうのでは……と鎬は思えてしまうのだ。
言うなれば
──天然戦闘用人体
少女の肉体はそうとでも呼ぶしか無いような異常な物だったのである。
「……これは、確かに興味深い検体ですね……一度会ってみたいな。次に来院して来るのはいつになりますか?」
「三が日以降、正月明けにまた、来院するように言ってあるので、えぇと……六日に予約いれてますね。」
鎬は、是非にと、真冬と会いたいと考えた。
彼は、こうした超越的な肉体に投資する人物でもある。
──レックス
例えば、戸倉竜士などが、彼が投資している例として挙がるだろう。
鎬は、真冬に興味を抱き、その尋常ならざる肉体的な構造を調査したいと──彼の悪癖がふつふつと沸き上がっていた。
「悪魔的な脳──この少女の脳は、戦闘脳──と言うしかないかも知れませんね……」
あらゆる状況下にあっても、即戦闘に対応出来る。
──そう、血の香りにて目覚めた真冬のそれは、まさしく鎬が語った『戦闘脳』と言うべき物であった事は、間違い無いだろう。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
-
そのままで良い
-
残骸置場行きが良い