範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
鼻孔を擽り、脳へと染み渡る様に血が薫った。
零号の掌を斬り裂いたジャボタイに仕込まれた剃刀。
それは、翠が真冬にクリスマスプレゼントとして贈った物だ。
──剃刀で傷付き、零号の掌から流れる血の甘い香りが真冬に届く。
突然掌が斬られた為に、動揺した零号は咄嗟に真冬の胸ぐらを離してしまう。
その時だ。
同じくジャボタイに隠匿していた針──
極々細い
真冬の胸元を脱がそうと、掴んでいた筈の彼女の手首を離したのも失敗だったろう。
自由になった左手で抜いた娥媚刺二本を、同時に投擲したのだ。
娥媚刺は零号の掌を貫通し、手の甲からはその尖端が突き出ていた。
更に、真冬は左手の袖下に仕込まれている暗器──
手首に巻かれたベルトにバネ仕掛けの小型の筒状の弓が付いており、それに連動している中指のアラミド繊維を引き絞ることで、発射のスイッチとなっている。
矢は金属製で、鋲に近い釘状の物である。
右手を掴む一号は、零号の呻きと共に、大気が鳴るような
それは連続で耳に響いた。
袖箭から発射された矢が、一号の眉間を襲う。
真冬が着ているゴスロリの袖口はラッパ状に開いており、この袖箭を隠しながらも発射しやすい形状となっているのだ。
崩れる事無くラッパ状の袖口として固定されているのは、袖の淵にアラミド繊維が組み込まれてあるからだ。
右手を凄まじい怪力で掴んでいた一号だったが、眉間に突き刺さる金属製の鋲の痛みに耐えかね、真冬から逃げるように、その手を離してしまう。
真冬が袖箭の発射と娥媚刺二本の投擲に要した時間──
──その速度、僅か0.015ミリ秒に過ぎない。
両手が自由になった真冬が次に行った事は、その抜き打ちによる投擲の速度さえも些細な物と思わせる行動であり、彼らには到底理解の及ばない
まず、突然ベッドが粉砕した様に彼らは見えた。
真冬が横たわる部分が僅かに陥没し、粉塵を上げたのだ。
ドロワーズだけでなくショーツまでも脱がし、陰部と陰核を直に触れては、掻き擦っていた石坂も、足首を掴み股を大きく開かせていた二号だったが、ベッドが突如として粉砕された事に驚き、後ずさった。
二人は、目を見開き驚愕する。
石坂でさえ、驚きの余り手が滑り、電マを落としてしまうのだった。
──陰部に塗り込まれた媚薬は、ともすれば少女の精神を焼き切ってしまうほどに強烈な物である。
真冬も又、意識が刈り取られていた筈であった。
──だからこそ真冬のこれらの行動は、零号達に取って明らかに不意打ちとなっていた。
ベッドを粉砕した
背中による『無寸雷神』と『無寸受け』である。
──これは、その二つを同時に行うと言う、それら両方の応用技となる。
ベッドを一つの巨大な打撃と見立てた。
そして、それに零距離にて背なで衝撃を与えた。
ベッドの四本の脚が接地されたコンクリートの床と自らの背中。
その間にあるベッドに衝撃が拡がった。
更に──
無寸受けにより殺された衝撃波は、再びベッドの脚へと伝わって行く。
そこで、恐るべき事が起こった。
徐々に拡がっていく衝撃は、まず、ベッドの脚と接地している床にヒビを入れた。
そこから、コンクリートの床は割れていく。
粉砕されたベッドと共に、この桃源郷の床までもが、粉砕されたのだ。
ベッドの凡そ二倍程の面積が崩落する。
当然──真冬、四十八手章治郎の面々は階下へと落下していく。
真冬達は二階に居たので、落下した先は一階だ。
ロビーのような大広間へと、彼らは落下する。
男達は、情けない野太い声で悲鳴を上げていた。
真冬は無言だ。
それは、未だ意識が無いからである。
これら全て、真冬は意識が無いままに行っていたのだ。
血液の匂いが、真冬の全身を無意識のままに動かせたのだった。
意思を持っているかの如くゆらゆらと揺らめく髪と、鋭い刃物のような爪は、まだ伸び続けている。
尋常ならざる新陳代謝所以だろう。
“──血が甘い”
真冬の脳裏にその一言が過った。
不思議な物だ。
血は甘いと、真冬の脳は認識している。
真冬の母──
実際は、真冬に何も与えていない彼女から、真冬が与えられた物。
それは、血液の味だ。
物心もついていない程の幼い頃の話だ──
記憶としては残っていない、真冬の母との想い出の話だ。
産まれ落ちて、母から乳さえ与えられた事の無い娘だった真冬。
母からある日、酷い虐待を受けた。
真冬の舌の先端は、蛇の様に二又に割れている。
これは当然だが、生まれながらの物ではない。
母に、切られたのだ。
舌の先端に鋏を入れ、ちょうど縦に切り裂いたのである。
その時だ──
真冬の口内は、血の味と香で満ち充ちた。
幼いながら、母から与えられた初めての物となった。
それは、痛みと、血の味である。
故に、血は甘い。
血の匂いが、真冬の脳へ甘く薫るのだ。
母から向けられる憎悪が、真冬にとっては強い愛情だと感ぜられたのである。
その想い出にある血の薫りが、今まさに脳を擽った。
その尋常ならざる多幸感が全身に充ちて溢れだした。
意識の無い真冬だったが、その多幸感故に、眠る闘争心が体を動かした。
母との想い出、母への愛が、ここで命を終わらせまいと全身を自動的に動かしたのだった。
その奇跡はまさしく──
範馬の血も、また、作用しているのだ。
階下へと落下する寸でに、真冬は覚醒した。
零号達はそこに気を回せなかったが、先程の様に真冬の口からは黒い息が吐かれている。
黒い澱みが、蚯蚓が這うかのように吐き出されていく。
媚薬と言う毒を、吐き出しているのだ。
これこそ、秘義『放華』であった──
真冬の爪が、更に伸びた。
翠の愛が、母への愛が、父の血が真冬を覚醒させた。
──反撃が始まる。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い