※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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消力

 

 男達は、異様な光景を見ていた。

 彼等は崩落する瓦礫と共に、階下へと落下した。

 

 ジェロニモン・富士岡こと電マ人間“零号”と同じく電マ人間“二号”、そして、丸坊主の男“石坂”はからくも受け身を取る。

 転倒しては居るもののほぼ無傷だ。

 

 パンチパーマの男“森本”とロン毛の男“野木”電マ人間“一号”は突然の床の崩壊に瞬時に対処できず、一階の床に体を叩き付けてしまった。

 

 野木は強かに後頭部を床に打ち付けてしまい、苦痛に呻いている。

 森本は背中から落ち、一瞬呼吸が止まるかの様な衝撃を受け、そして激痛が全身を巡り、走り抜けてきた。

 

 一号は運が悪い事に、脚から落ちたのが行けなかった。

 全体重が先ず片足にのし掛かり、そして、一呼吸も措かずもう片方の脚にも衝撃と体重がのし掛かったのだ。

 骨までダメージが行ってはいないが、階下へと落ちた衝撃で両足を捻挫し、倒れ込んだ。

 

 ──男達と、そして真冬。

 ──ゆらゆらと言うべきか、ふわふわと言うべきか、あたかも彼女にだけ、重力が働いていないかの様に、真冬は落下していた。

 

 ──落ち葉?

 ──羽毛?

 ──あるいは、塵紙(ティッシュペーパー)?

 まるで、宙を舞うそれらを彷彿とさせた。

 

 尋常ではない身体能力なのか。

 究極とも言って良い程の、人が成しえるとは思えぬ脱力が、この異常を可能としていた。

 恐らく中国武術の高等技術消力(シャオリー)に近いものだ。

 

 真冬の目は傍目にはいつもの虚ろな物だ。

 しかし、望まぬ快楽に襲われていた弱々しさは既に無かった。

 甘く優しい血の薫りが、真冬の紅い眸に力を与えていた。

 

「あっ」

 零号が声を上げた。

 いつの間に手に入れたのか、落葉の様に宙を舞い、降下してくる真冬の左手に40センチメートル程度の鉄筋が握られている事に気付いたからだ。

 真冬は、粉砕された二階の床の瓦礫から突き出ていた鉄筋を掴み、引き抜いていたのである。

 

 零号が声を上げた──その刹那、鉄筋が投擲された。

 それは激痛で呻き、のたうち回る野木に放たれていた。

 追い討ちにも程がある。

 

 当然、反応できる筈もない野木の眉間に鉄筋(それ)は、めり込んだ。

 野木は、双眸を大きく見開くと、グルリと白目を剥き、意識を手離した。

 床に後頭部を、眉間には真冬が投擲した鉄筋が。

 真冬の容赦の無さは、今しがたまで痴態を晒していた九歳と言う幼い娘の姿とは思えない物だった。

 

 投擲とほぼ同時刹那の間も措かず真冬は、僅か斜め上へと跳んだ。

 落下中の跳躍とは、人間業ではない。

 そして、その先には上階の床を補強していた鉄筋が突き出ている。

 真冬は鉄筋を右手で掴んだ。

 ぎしりと軋み鉄筋が鳴り、それに真冬は、ぶら下がっていた。

 そもそも人間業ではないが、鉄筋がそこにあると狙って跳んだのか──。

 

 ダメージの無かった零号、石坂は立ち上がり、真冬を見上げた。

 二号は片膝を付き頭を振りながら僅かに遅れて立ち上がる。

 

 ぎりぎりと鳴る金属の音を三人が聞いていると、真冬の手は鉄筋から滑り、掴んでは居るが少しずつ下がっていく。

 

 握力がもたないのか。

 ──いや、違った。

 三人は気付いていないが、真冬は落下することなく態と下がっているのだ。

 そして、ぎりぎりという金属音は──真冬の爪と金属が擦れ合う音だった。

 

 男達の注意力がどれだけ高かろうと、視力が良かろうと気付ける筈はない。

 人間業ではない、どころでなく、人間のそれではありえない事が起きていた。

 真冬の尋常ならざる代謝故か、彼女の爪が伸びていた。

 真冬は掌と薬指と小指で鉄筋を掴み、親指と人指し指、中指の爪を鉄筋に突き立て削っているのだ。

 

 零号を初めとして、男達は皆、理解が追い付かない。

 そもそも、何が起きているのだ。

 彼等は真冬が常人離れした戦闘能力を有している等と知る由もなく、真冬に声を掛けたのは、先天性色素欠乏症(アルビノ)である美しい幼女の真冬を一目で気に入り、ロリータのレイプ物アダルトビデオを撮影するためだった。

 その幼女が化け物の様な行動を取ってくるとは、ほんの僅かにでも脳裏には無かっただろう。

 

 するりと、真冬の手から鉄筋が離される。

 手が離された瞬間、真冬を見上げていた彼等の目に、真冬の右手の肘から先が消えたかの様に見えた。

 その時“ぎゃっ”と二号は呻き、両目を押さえもんどり打って倒れ込んだ。

 苦痛の声をあげながら、二号はゴロゴロと転がり続けた。

 

 ──金属片

 

 真冬は爪で削った鉄筋の破片を二号の両目に投げ付け、それが彼の目に突き刺さったのである。

 金属片の礫は、細かくも鋭利に削られており、即席の投擲武器とは思えぬ殺傷力を持ち合わせていた。

 

 そして、真冬は音もなく空中から降り立った。

 そこで、先んじて我に帰ったのは石坂だった。

 流石は、極道の『代打ち』で多くの地下闘技場にてその力を奮った男なだけはある。

 幼女をレイプする撮影を楽しんでいた男の目から、命の取り合いをする喧嘩師、或いは武術家の目に変わっていた。

 切り替えが速い。

 確かに、眼前に居るのは幼女である。

 が、尋常な人間ではない。

 長い極道との繋がりの中でも真冬の様な者は見たことが無い。

 しかし、真冬の危険性を感じとり、『獲物』から『敵』と見方を直ぐ様変える事が出来たのは、彼が並々ならぬ武術家の所以だろう。

 

 石坂は190センチメートルを大きく越える体躯を誇る。

 だが、大抵の人間の目には、それ以上の巨体に映るだろう。

 何故なら、先ずはその威圧的な風貌が挙げられる。

 日に焼けた色黒な肌に丸坊主。

 しかもその頭には奇妙な幾何学模様の刺青が入っている。

 そして、何より、異様に発達した筋肉量だ。

 太く、分厚い筋肉からは、例えば素手で熊の首をねじきってしまえる事が容易に想像できるのだ。

 

 その巨漢が突進した。

 当然、向かうは真冬へ、だ。

 見た目からまるで鉄の塊の突進。

 まるでそれは、鉄球クレーンの重錘が振るわれたかのようである。

 

 190センチメートル以上、正確に言うなら身長196センチメートル、体重116キログラム。

 その巨体が一瞬で間合いを詰め真冬に迫る。

 言語になっていない気焔の声が真冬に届くと、既に石坂は真冬の眼前にあった。

 身長差は76センチメートル、体重差に至っては81キログラム差となり真冬の体重35キロの凡そ三倍だ。

 

 そんな体格差ともなれば、掴みに掛かったものが、実質、覆い被さる様相であった。

 

 更に真冬は先程までのレイプ撮影のため、ドロワーズが脛辺りまで脱がされ、ショーツは膝先辺りまでずり下ろされている。

 布とは言え、完全に脱がされていないこの状態は、足枷の様になっていた。

 これでよく転倒せずに着地出来たものだが、掴み掛かってくる者を相手取るには明らかに不利だった。

 

 だが、またも異常な事が起きた。

 真冬に寸でで触れようとした石坂の右手から鮮血が迸ったのだ。

 

 前後左右、下がろうが、どこに避けようとも、石坂の掴みからは逃れられない筈だった。

 ボタボタと鮮血が真冬の白い髪を汚す。

 

 何があったか、それは血に塗れているのは真冬の白い髪だけでないことが物語る。

 薄く、髪と同じく白い真冬の唇も赤く染まっている。

 虚ろな、紅い眸に映し出されているのは、石坂の手、その末端だ。

 石坂の右手に本来ある筈の指が二本、薬指と小指が失われ流血していた。

 

 真冬の唇を赤く紅を差したように染める血は、そこから流れた物だ。

 

 ──噛み千切っていた。

 

 だが、そんな非常事態にも臆することなく、石坂は真冬の頭部に左腕を回した。

 そして、勢いをつけて、膝を顔面に叩き込む。

 そのつもりだった。

 

 そんな目算も、真冬の爪が、根本から千切れた指の付け根を抉り、更に真冬は噛み千切った指を口内で更に噛み千切り、第一関節部分を吹き矢の様に、いや、弾丸の様に石坂の左右の目に吹きかけた事で潰えたのである。

 恐らく弾丸となった指は、脳にまで到っているだろう。

 

 零号が動き出すまでの間に、石坂は崩れ落ちた。

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