範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
1.呉一族 陵伽登場
禁忌なる鬼の娘
──おや、如何なされましたか、婿殿。
この里にお出でになられるのも久しい事ですな。
産まれた子が娘だと随分ご立腹でしたし、此処にはもう来られない物かと思っておりましたが。
──ほう?娘が。
陵伽はどうしているのか、と……。
リョウガ……えぇ、あの子の名前です。
婿殿は、あの子の名前をご存じではありませんでしたな。
えぇ、こちらで名付けさせて貰いました。
よろしかったでしょう?
あの
父の顔すら知らず、十二年も経つのですなぁ。
──いやいや、嫌味ではござりませんよ、婿殿。
我が一族に、貴方様の血を頂戴出来たのですからな。
感謝こそすれ、恨み言など一切ございませんよ。
我ら呉一族、飛鳥の時代より千三百年……名高き武芸者の血を取り入れて来ましたが、貴方様以上の武芸者などおりませんからな。
して、何故今になって、リョウガの事を……?
──ふむ、貴方様の娘に面白き者がいた……と。
成る程、それで
──リョウガとその『娘』を会わせてみたいと。
そして、競わせたいと。
ふむふむ、確かに面白いかも知れませんが。
リョウガは、既に呉の仕事を任せられておりましてなぁ。
──そうです、暗殺業でございます。
我が一族の長『恵利央』が、強魔と呼ばれる異名を持つ様に、呉の強き者は其々異名を与えられる事をご存知でごさいますな?
リョウガは、呉の中で
その様な異名を与えられる身であるあの娘は、暗殺者としても、殺法家としても非常に優秀ですぞ。
なんせ、呉一族秘伝、外し……。
潜在能力の限界を解放するこの技術を、実に53%と言う高水準で行う事が可能ですしのう。
貴方様が呉の女を求め契りを交わされたのは、我が子にその秘伝を与えたかったが為でございましょう?
陵伽のそれは、婿殿が充分に満足しうる領域にありましょうな。
──更に呉の技術だけではなく、リョウガが修めた武術は幾つかありましてな。
リョウガの異名が、何故『魔空』なのか。
その名の意味とは。
それは、あの子が『マスター国松』の『大日本武術空道』を修めたからに他なりません。
物心が付くよりも前から定期的に生爪を剥ぎ、物心付いてからはそれに加え鉄粒や鉄粉を混ぜた砂や束ねた竹などを指先で打つ貫手の鍛練。
──そうそう、呉一族は毒に耐性があるのもご存知でございましょう……その体質は、毒手に相性が非常によろしくてですな。
毒手の完成度に至っては、マスター国松の師であるG.M(グランドマスター)こと『ナットー・L・ネルーニョ』にも認められる程でしてなぁ。
我が孫ながら、末恐ろしい物ですぞ。
──あぁ、そうでした。
婿殿のもう一人のお子……と会わせると言う話でしたな。
生憎リョウガはこの里には居らず、神室町と言う歓楽街におります。
そこで、あるお人らと共に暗殺任務に就いておるのです。
リョウガの暗殺目標をお聞きになられると、さしもの婿殿とて、かなり驚かれると思いますぞ。
それは──
かの日本最大の指定暴力団である東城会の若頭代行『柏木修』
東城会系列の三次団体とは言えど藤木組内花山組組長であり、個人の暴力と言う点では極道界随一の『花山薫』
そして、元笹井組組長『笹井英樹』
以上の三名でございます。
当家は、近江連合……またグランドマスターとの縁故から源王会と懇意にしておりますからな。
現在、神室町で起きようとしている東城会、近江連合、藤木組、源王会の騒動……それらの一件に絡ませて貰っているのです。
婿殿のお子との話はその後で……。
──ほう、なんと、それはそれは奇遇ですな。
件の娘も神室町に居るとは!
しかも、成る程、過日かの蒙将龍を破ったあの娘だと。
それは、また、よろしいですなぁ。
さて、婿殿。
我が孫娘リョウガ……貴方様の遺伝子も当然受け継いでいる。
ならば、呉一族秘伝外しの他に……と申せばお分かりになられますかな。
──果たしてどちらの血が上回るか。
リョウガとその娘の手合わせ、楽しみですなぁ。
1.
イタリアの国旗を連想させるデザインのテント看板。
落ち着いた印象を与えるレンガ建て風の外観、四枚のガラス壁が嵌め込まれている純喫茶。
1971年に創業されて以降、2005年の現在まで神室町に関わる多くの人々の喜怒哀楽を見てきた喫茶店、喫茶アルプスだ。
木製の扉が開かれると、短く音楽が流れた。
「いらっしゃいませ。……?」
冷たい、夜の空気と共に来店した人物に声をかけるも、アルプスの店員は怪訝な表情を浮かべ、僅かに言葉を詰まらせた。
神室町は歓楽街だ。
一般的な飲食店の他に、キャバクラやホストクラブ、ショーパブ、風俗店がひしめく大人のナイトスポットである。
アルプスは純喫茶と言えど、歓楽街に店を構えている。
そんな店には、似つかわしくない客人なのだった。
──それは、幼い、年端のいかぬ女児であった。
時刻も時刻だ。
一月五日、午前一時二十分。
冬休みなのだろうが、深夜とも言える時間である。
軽くウェーブがかかった長い黒髪。
前髪は多少不揃いに切られ、両サイドの髪を黒いリボンで細い尻尾の様な房でまとめている。
所謂、ツーサイドアップテールが似合う、多少つり目がちの美少女だった。
だが、よく見れば、その双眸には違和がある事に気付くだろう。
黒目と白目が逆なのだ。
本来黒目であるはずの部分が白く、白目が黒い。
しかし、幼女には双眸の異常さを補って余りある、清楚で令嬢めいた不思議な気品があった。
それは身に纏う衣服からも見受けられる。
その服装の上下は、襟元に黒いリボンが飾られている高級そうな布地で仕立てられた薄紅色のフリルブラウス、それより少し赤みがかった色の膝上丈のプリーツスカートである。
そして、純白で無地のタイツ、靴は淡いピンクのスニーカーを履いている。
──年は幾つくらいだろうか。
身長は140cmに満たない小柄さだった。
背丈からは、年齢を推し量れそうにない。
──しかし、それでも中学生には見えない。
──よくて、小学生の高学年だろう。
その思考は瞬時に脳内を廻り──
『児童売春』
──神室町と言う街がらのせいか、店員の脳裏にそんな単語が浮かび上がったのだ。
“関わりたくねぇ”
入店を断ろうか、とも考えた。
しかし、入店した幼女は店員に目もくれず、既に席についていた客の元へと向かってしまい、入店拒否を告げる機会を逃したのだった。
時間も時間なのだが、アルプスは老舗の人気店だ。
カップルに、数人の集団から単独の客まで幾つかの層で賑わっている。
だが、幼女が向かった先で、席についている三人の客を見て息を飲んだ。
幼女に声をかけずに居たことが正解だった。
入店を拒否するなど言語道断だろう。
その客達はどう見ても堅気ではないからだ。
アルプスは神室町の飲食店として、当然の様にケツ持ちを得ているため、店員も極道を見慣れている。
喫茶アルプスの長い歴史の中で、ケツ持ちは何度も入れ替わっているが、現在のケツ持ちは東城会系の三次団体『松金組』である。
義侠を重んじる昔気質の強く良き極道に守られている──とは言え、誰とも知らぬヤクザと揉め事など起こしたくはないのだ。
「お爺ちゃん!待ったぁ?ごめんなあ、
独特なイントネーションで、大きく高い声が店内に響いた。
関西圏のイントネーションだと店員は気付く。
──お爺ちゃん
少女が声をかけたのは、髪を短く刈り上げている小柄な老人だった。
「だれ、殺すん?」
先程の声と同じトーンで少女がそう言ったからか、店内は一瞬静まった。
幼女の虚言だ。
そうとしか考えられない発言なのだが、幼女と一緒にいる男達の見た目からして、妙な真実味を与えているのだ。
明らかに危険で、威圧と共に凶悪な印象を放っている極道風の男達なのだから。
小柄な老人の他、男性二名。
二人とも大柄だ。
いや、巨大だ。
両名共に、身長は195㎝を越えている。
巨大だと思わせる所以は身長だけではない。
素人目には、肥満と映るかも知れないが、実際のところ筋肉量が尋常ではないのだ。
──レスラー、力士、柔道家、そうした者を連想するかも知れない。
「リョウガ、腹減ってるんじゃないかい?何か注文するといい」
好好爺然とした風体、表情、声色で、小柄な老人はリョウガと呼ばれた幼女に告げた。
二人の男は無表情のまま、無言である。
「なぁ、お爺ちゃん、じいちゃんから連絡あってん」
リョウガはメニューを眺めながら楽しそうに話す。
──お爺ちゃんとは、目の前の老人……助川仙吉を指しており、じいちゃんはリョウガの実の祖父の事を指している。
「ふむ?」
「あ、すみませえん、注文お願いしますー。アールグレイとー、ナポリタン、アルプス特製ショートケーキお願いしますぅ」
品の良さそうな見た目からは予想できない、気さくな関西圏のイントネーションでリョウガは店員に言った。
「あんなぁ、お爺ちゃん……仕事の他になぁ、私、真冬ゆう妹、殺すねん」
リョウガは、楽しそうに、笑みを浮かべていた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い