※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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ブランコチェーン

 

 傷めていた肩や鎖骨に加えて、顔面にもブランコチェーンを打ち付けられた畑は意識を刈り取られ、その場に崩れていた──

 錆びも見られるこの鎖は、先程の彫刻刀同様に、到底武器と呼べる代物ではなかっただろう。

 

 仰向けに転倒する畑──

 

「ふっ、げふ」

 その畑の顔を覗き見た松井は口を押さえ、えづきはするも、何とか嘔吐は抑え込めた。

 ブランコチェーンが畑の鼻梁を砕くと、鼻はひしゃげ、千切れかけていたのだ。

 夥しい鮮血が見てとれる。

 

「肩とか傷めてましたね、あまり無理しない方が、あ、あと貴方、これ、鎖」

 

 ブランコチェーンの先端、座面が回転し、そちらを注視しても、視界におさめるのは困難だろう。

 達人ならば、先端は見えなくても操作する手の機微によりその起動を把握してしまうという。

 恐らく、万力鎖や鎖鞭であってもそうなのだ。

 この、間に合わせの鎖分銅、元は単なるブランコチェーンだ。

 達人に通用するか否かは分からないが、この当たり屋達の目では追うことすら不可能だった。

 

 分銅代わりに動く座面の角が、止めとばかりにまたもや、砕かれた鼻を強打。

 倒れた彼の鼻に、座面が降り下ろされたのだ。

 

 そして、それとほぼ同時に、松井へとブランコチェーンは投げられた。

 

「へ?」

 

「鎖──」

 

 突然、軽く放り投げられたブランコチェーンは空中でカチャカチャ踊りながら松井の方へと弧を描く。

 

 顔が上に向けられ、彼の目は鎖へと向いた為に白い少女からは視線が逸らされた。

 受けとるか──

 無視するか──

 無視するとなると避けないと──

 

 一瞬、纏まらない思考が脳裏に過る。

 そもそも、何で投げた──

 パスされた──?何故?

 攻撃された訳ではない──?

 

 一方、見張り役だった清水は、腰を下ろしていた防護柵のパイプから咄嗟に立ち上がった。

 この異様な異常事態に、いち早く対応、順応出来たのか、臨戦態勢に入り、立ち上がりながらポケットからナイフを取り出していた。

 折り畳み式の小型ナイフ──

 片刃で、刃渡りは凡そ五センチ程度。

 

 清水が折り畳み式ナイフを構えた姿を見た千葉も、同じくナイフを出し、白い少女の次の動きに備える。

 

 ブランコチェーンに注意が逸れた松井は、それを避けようとしたのだが、蛇が躍動し、のたうつような動きで落下してくる為に、鎖の長さも相まって、避けたくとも避けるのは非常に困難であった。

 

 鎖は松井の頭部や肩に落下し、跳ねた座面は彼の眼鏡を弾き飛ばす。

 衝撃自体は軽いものだが、金属製の鎖である。

 じんじんと込み上げる痛みに涙が出る。

 

「鎖、欲しかったのでは無いんですか?さっき……公園に入ったとき見てましたよね」

 

 虚ろな目のまま、小首を傾げる真冬。

 

 見てましたよねと、言い終わるより早いか、同時か、ナイフを握る清水の右手が突きだされる。

 

 数歩、距離を詰めての一撃だ。

 それは殺す覚悟を決めた、躊躇い1つ無いものであった。

 強姦したいだのと、既にそんな考えは微塵も無かった。

 そんな思考を持つ余裕など、有りはしないのだ。

 

 清水も千葉も、今までにナイフを使い殺人を犯したことは当然無い。

 大抵はナイフを脅迫に使う。

 適当にちらつかせ、“刺すぞ”やら“殺すぞ”などと脅せば、概ね、言うことを聞くものだ。

 

 然し、今回ばかりは勝手が違う。

 本当に殺す気なのだ。

 

 突き出された。

 柄には渾身の握力を込め、全体重を一撃に乗せる。

 

 怒りの中に不可思議な高揚感めいたものがあった──

 人を刺せる──

 

 今回のこれを上手くやれたなら、今度はあのグレーのスーツを着た極道風の堅気だってやれる。

 

 真冬の白い髪に隠れた小さな背中。

 “刺した”と清水は思った。

 

 だが──

 殺す覚悟を決めた清水が、今夜、最後に見たものは、寒風に靡き、雪に濡れた白い少女の髪だった。

 

 一秒にも満たなかったかも知れない──

 刺した、などと言う幻想を、脳裏に過らせた清水の折り畳み式ナイフが宙を待っていた。

 ぶらんと手首が異様な曲がりかたで揺れた──

 あらぬ方向に曲がった手首の骨は、明らかに折れている。

 

 背後から迫るナイフを握る清水の手を、真冬は平手で打った。

 ただの平手打ち──

 その一発で、清水の手首は折れた。

 

 だが、この瞬間、真冬の平手打ちはこの一発で終わってはいなかった。

 折り畳み式ナイフの腹を打ち、上空へ──

 

 手首が折れたことに苦悶する暇を与えず、ナイフの腹を打った逆の掌が清水の顎を打ち付ける。

 顎を打たれた清水の脳は振動し、有り体に言えば脳震盪を起こしたのだった。

 

 真冬はこの刹那の間に、あるイメージを思い浮かべていた。

 骨の無い腕──

 全身は液体──

 

 腕は、重い、重い熔けた鉛──

 

 全身はまさしく脱力し、打ち付ける一瞬のみ高速の振りと重い衝撃を伴う。

 

 腕は熔けた、液体のようなどろどろの金属──

 

 そのイメージにより、真冬はある妙技を炸裂させた。

 鞭打──

 

 全身の一切の緊張を打消し、完璧な脱力の果てに扱える、人体に多大な激痛を与える技術(わざ)だ。

 とは言え、これは誰かに師事し学んだ物ではない。

 いつの頃か、自然に身に付いたものであった。

 

 千葉はこの清水が崩れるまでの一連の流れを見ていた筈なのだが、起きた出来事をまるで理解出来ずにいた。

 彼の目には突然清水が倒れたかのように映っていたからだ。

 

 地面に清水が持っていたナイフが落ちるのを合図にしたかのように、千葉は雄叫びを上げ、自分も抜いたナイフを振りかぶった。

 

 千葉が持っているナイフは清水の折り畳み式ナイフよりも刃渡りは約7センチと長く、そして幾分か重い。

 

 しかし、そんな武器を携えていたとしても、千葉も、末路は同じだった。

 

『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?

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