範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
「呉の外しと範馬の鬼……それを、同時に発現させているのか」
右脚の膝関節と膝蓋骨を砕かれた為、未だ片膝立ちのまま、ギョンドはそう分析した。
左膝を立て右脚を倒した、片膝立ちの体勢だ。
右脚に発生した激痛は続いている。
先程、空掌で抉られた腹から流血が止まらない。
腹にはくり貫かれた様な深い穴が、ぽっかりと空いている。
大腸や小腸も見えており、内臓がいつ溢れ落ちても不思議では無いだろう。
「正解や」
リョウガの顔はチーヨーに向いている。
当然視線が向いているのもチーヨーに対してだ。
その、正面はチーヨーを見据えたままに、ギョンドと会話する。
「今の私なら全ての力を凌駕するで。陵伽だけになッ──知らんけど」
「……何……?」
ギョンドは表情は変えず、しかしどこか間の抜けた言葉を口にした。
感情の読めない顔付きだが、頭には疑問符が浮かんでいるのだろうと如実に理解出来る言葉だった。
「全てとは大きく出たな。洒落は詰まらねぇが、それでも大阪人かぁ?迦陵頻伽!」
「やかましいわっ!で、どないするんや?こうなったら、あんた等に勝ち目は無いで」
「……だろうな」
空気に膨大な熱量が感じられる。
それは、実際の熱気ではないが、彼らの闘士としての本能がリョウガから発せられる恐ろしい気を熱として捉えているのだ。
本来のリョウガから感じる熱量を10とするなら、外しで15。
その15が今では150。
単純な数字で表せる物では無いが、そうした数値の変換度合いで、彼らはリョウガから発せられる熱気に襲われているのだ。
「だが、まぁ、やるしかねぇよな、お前を“倉庫”に行かせる訳にはいかねぇからなぁ」
彼らの雇い主は源王会だ。
源王会の大きなシノギである“倉庫”の重要性は、チーヨーも理解している。
「大した奴だぜ、今のお前なら間違いなく向こうの最大戦力である
「は?誰やねん」
「
「チーヨー、無駄に情報を与えるな」
「ここで殺るンだ、問題ねぇさ」
「あ?剄神山は知っとる、でもあくる
この会話はほぼ同時に交わされ、幾語は混ざりあって各々の耳に届いた。
「武恵妃、楊貴妃、貂蝉、玉藻、妲己聞いたことあるだろ?コイツらみたいな傾国の美女を調教し作り出しては、時の支配者を堕落させる。国を傾かせる雌を産み出してきた『邪淫勁』の系譜を継ぐ者よ。近代で有名なので言や、アントワネットだな。勿論、現代でも多くの政治家や官僚が、邪淫勁の性欲処理人形によってハニー・トラップにかかってやがるぜ?この国のトップ連中も結構な数が、その毒牙にな」
彼の長い説明を聞き、リョウガは不快そうに眉を顰めた。
真冬がその邪淫勁の元にいると言う事は、その調教を受けていると言う事になるからだ。
「お前の妹、貂蝉や楊貴妃みてえな傾国の美女レベルの名器になるなぁ、良かったじゃねぇか」
「ふざけんなや、ボケナス共が」
リョウガは、言い終わるよりも前に動いた。
ボケナスどもが──の「ケ」辺りでだ。
しかも、向かったのはチーヨーの元にではない。
4mは離れていたギョンドの眼前に、「ナ」と口にした辺りで現れる。
一度の瞬きにも満たない時間で、4mの距離を詰める速度で移動したのである。
しかも、顔を向けていたチーヨーにではなく、ギョンドへと近寄ったのだ。
会話をしていた相手もチーヨーだった。
仕掛けるにしても、チーヨーへと向かう、普通ならそう思うだろう。
それも虚を衝き攻撃する為の、リョウガの算段であった。
リョウガはそもそもギョンドの“片膝立”を警戒していた。
あの座り方、いや、立ち方は単に脚が傷付き膝をついているから──だけでは無い──と考えていたのだ。
即ち、あの立ち方事態が構えなのだ、と警戒していた。
故に、不意打ちを仕掛ける相手はチーヨーではなくギョンドに対してだった。
ギョンドの身長は198cmだ。
138cmのリョウガなら、先程の空掌によって穿たれた傷はすぐ目の前となる。
しかし、こうして片膝立になれば、腹の傷へは身長差を考慮しても狙い辛い。
無論それだけでは無い筈だ。
狙う部位は胸より上。
特に上半身から肩、頭部。
攻撃部位を誘発する為の構えだと、リョウガは考えた。
だから不意打ちで一気に潰す。
対処はさせない。
チーヨーとの会話を優先させたのは、ギョンドから多少なりとも注意を削ぎ、油断させる為だった。
チーヨーは少なからず自分に好意を持っている。
故にある程度は会話に持っていけるだろう。
そして、その算段は正解だった。
会話に乗ってきて、更にはギョンドもチーヨーを咎める為に彼に話し掛けた。
恐らくベラベラ話すチーヨーに苛立ち、ギョンドはそちらへ注意が向いているだろう。
仕掛けたのはそのタイミングだ。
実際、真冬を性欲処理人形に調教していると言う事に腹は立てたが、それを表面上に見せたのは態とだった。
自身の昂った感情を見せ、言葉を紡ぐ。
そこで、仕掛ける相手はチーヨーへだろうと、二人に思わせたのだ。
こうした言葉による戦いの駆け引きは、マスター国松から学んだ物である。
そしてそれは、呉の暗殺術にも適した物なのだ。
しかもリョウガは、この
ほぼ瞬間転移の如き速度で、陵伽はギョンドの眼前に現れた。
リョウガの左掌はギョンドの鼻っぱしらを狙う。
身長差のお陰で、今のギョンドの体勢でも顔面を狙うのに問題は無かった。
寧ろ、本来の身長差では打ちにくい顔面を正確に打てる。
そして、リョウガは打ち込みと同時に強く床を踏み締めた。
空掌と空足の同時使用だ。
床に僅かな亀裂が走る。
それより一瞬前に届いていたリョウガの掌は、なんとギョンドの顔面を捉えられてはいなかった。
リョウガの掌に合わせる様に、ギョンドの右掌が添えられていた。
更にリョウガの左手首を、ギョンドは左手で掴んでいた。
不意打ちは不意打ちだった。
だが、上半身を誘導するかの様に打たせるこの構えである。
リョウガの動きを予測する事は可能だ。
ほぼ本能による行動だった。
リョウガの空掌に自身の空掌で迎え撃ち、見事に捕獲したのである。
右掌にリョウガの掌が合わさった瞬間、その手首を掴む事にも成功したのだった。
空掌で敵を穿つ為には、掌を引く必要がある。
だが、相手も空掌を使い空掌同士が吸着した場合は、引くのは困難なのだ。
無論、空掌同士のぶつかり合いなど希だろうが。
しかし、リョウガは全く動じず、更に空足の真空を強く発生させた。
より巨大な亀裂が生じて、床が陥没する。
何らかの手段で迎え撃ってくるかも知れない。
その為の保険が空足だった。
そして、それは成功した。
陥没した時、リョウガの身体は大きく沈んだのだ。
リョウガの空掌とギョンドの空掌──
その練度はリョウガの空掌が勝る。
ほんの少し、体勢が崩れたギョンドの空掌は外れ、リョウガは沈むと同時に僅かに腕と掌を引いたのだ。
皮膚が破れ、肉と骨が潰れる、鈍く恐ろしい音が響いた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い