ふたなりドラメたちにパコられる話 作:ギシキスキー
*食ザー描写注意。
──小鳥のさえずり、穏やかな風。
居心地の良い空気が、温かい日差しの中で微睡む“私”を包み込む。
そんな“私”を覚醒させんと体を揺する手が伸びる。
「お嬢様、お目覚めになって下さい」
「んん……あとごふん……」
ずっと寝ていたい。そんな怠惰を漏らしつつ柔らかいベットの中へ潜り込む“私”に呆れたその手は、毛布を剥ぎ取ろうとする。しかし同時に、大きな音と共に勢いよく開かれた扉の中から小さな影が弾丸のように飛び出してくる。
「おじょーさま〜!あさだよ〜!」
「あっ、ラドリーちゃん駄目!」
「ぐふぅっ!?」
「あちゃ〜……」
静止の声を待たずに“私”の腹に突き刺さったそれは、元気ハツラツといった様子で“私”の顔を覗き込む。
「えへへっ、おはよーございます、おじょーさま!」
「う、うん……おはよう……」
「もうラドリーちゃんったら……申し訳ございませんお嬢様。お怪我はございませんか?」
「だいじょうぶ……うん、大丈夫……」
青髪の小さなメイド……ラドリーと呼ばれた少女を退かし、桃色の髪のナース服のような服装メイド……ナサリーの手を借りて漸く起床する。
「ラドリーちゃんは後ほど叱っておきますので、どうかお許しを」
「気にしなくてもいいよ。ラドリーもまだ育ち盛りだろうし」
「うん!ラドリー、おじょーさまのおやくにたてたよねっ」
「ラドリーちゃん。まずはごめんなさいでしょう?」
「う……ごめんなさい……?」
悪気なく無邪気に笑うラドリーの首根っこをひっ捕まえて頭を下げさせるナサリー。相変わらず気苦労が絶えなさそうだ。
こほん、とひとつ咳払いをして“私”に向き直り彼女は告げる。
「ご主人様がお待ちです。ハスキー様がお呼びになる前にお召し替え致しましょう、フローラ様」
「わかった。ラドリーも手伝ってくれる?」
「うん!ラドリーがんばるよ!」
そして慣れた手つきでテキパキと着替えと化粧を済ませて、その部屋を後にする。ラドリーだけは終始ドタバタしていたが。
……この
(……もう『男だった頃の“俺”』はいないんだろうなぁ)
“私”フローラは、転生者である。
それを自覚したのは12歳の誕生日を迎えた頃。当時は誰とも知らない人の記憶が急に流れ込んできて、表現しようのない恐怖感にパニックになって皆に迷惑をかけたのは記憶に新しい。今となっては笑い話だが。
転生、すなわち“私”……元“俺”は死んだわけだが、所詮は他人事だと思って最初はその事実に何を思うでもなかった。ただ流石にご冥福をお祈りしたが。
次いで浮かぶは死ぬ直前であろう記憶。汗が噴き出るほどに暑苦しい夜だった。停電で冷房が動かず、予備の充電式の扇風機もバッテリー切れ、おまけに水道まで止まっているという最悪の事態だったのをよく覚えている。いわゆる夜間熱中症というやつだろう。
そして雪崩れ込むように湧き出る前世の記憶。今こそだいぶ薄れているが、かなり強烈なものだった。特にその記憶の半分ほどを占めていた『遊戯王』というコンテンツは“私”に感動すら与えた。
やがてその記憶を元に一つの結論を得る。
──デュエルモンスターズの世界に転生。
この事実は、前世の記憶を得たが故の感動か、それとも“私”が産まれ育ったこの館以外の場所を……この世界のことを何一つ知らなかった“私”に教えてくれたが故の感謝か、はたまた両方かはわからない。
だが、“私”は顔も知らない他人だった筈の“俺”をずっと拝み倒していた。
そうして4年の月日が経ち16歳となった“私”は、この世界における成人となった。少し前に聞いた、この館に仕えるメイド《ドラゴンメイド》曰く、この歳になった人間の男女は社交会やパーティなどに出席し、婚約者を探すのだという。元男だった身としては、男に嫁入りするだけでも勇気がいるのに、やがて迎えるであろう純潔を捧げる日が来るという事実は、正直堪える。
この事を知ったのはちょうど転生後だったので、この館の主人である叔父やメイドたちに抗議したり相談したりした。皆はこれを思春期だと受け取って優しく宥めてくれたっけな。
一部メイドは意味深なこと言ってたけど。練習がどうとか……
やがて一つの扉が開き、“私”達はそれを潜る。その先には広く長い部屋とそれに見合ったテーブルが鎮座していた。その上座にあたる席には既に叔父が座っていて、これでもかと溢れる威厳と上品な佇まいに目を奪われる。そんな叔父は“私”に優しく微笑みながら着席を促し、《ドラゴンメイド》の一人であるパルラが椅子を引いて待つ席に着く。
それを確認した叔父は手を叩き合図を出す。と同時に料理が運ばれてくる。
「いただきます」
“私”が合掌したのに倣って叔父もまた合掌。そうして食事が始まる。
本来はこの合掌の文化は無かったそうだが、“私”が昔にうっかりやってしまった際に、叔父やメイドに何故そんな事を?と聞かれて、
「命を頂くことに感謝をしなければ、料理をしてくれた者達にはもちろん食材そのものにも失礼だから」
と咄嗟に言い訳したのを皮切りに、叔父がそれを気に入ってこの文化が館の中で流行り出した。というのが始まり。
ただ外でやっては色々と不都合があるようで、やるならコッソリと、と口添えされたのをよく覚えている。曰く、庶民感丸出しなのは貴族としてはよろしくないのだとか。
とにかく周りが身内だけでならセーフなので、現状は気にしなくてもまだ大丈夫。次々に運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつ黙々と食指を進める。
そして最後に運ばれてきた食後のスープをパルラが配膳すると同時に耳元で囁かれる。
「──自信作ですよ♡」
どことなく艶がかったような声……それも多少息が乱れてたような印象を受けた。いったい何をしたのだろうと首を捻り、考えても仕方ないと思いスプーンを手に持つ。
黄色のポタージュに白いソースが掛かった、よくあるタイプのスープ。ぱっと見は違和感は特に……いやなんだこれ。ソースが何というか、半固形っぽいというか、妙に粘っこく見えるというか。でも何処かで見覚えがあるような気がする。
違和感が拭えないまま、ソースと一緒にスープを口にする。視界の端でパルラがブルリと震えたように見えたが一旦無視して味を確かめる。
《ナチュル・パンプキン》あたりでも使ってるのか、ほんわかとした甘みの中に胃の中を殴りつけられるような衝撃もそれとなく感じる。スープだけの感想なら、文句の付け所がないほど美味だと言える。のだが、どうしてもソースに違和感を感じる。味に深みがあるのかと思えば、渋味といつか苦味というか、そういったものが鼻についてまわるようなイメージ。
不思議な感覚を抱えたままどうにか完食して、このスープに何を入れたのかパルラに尋ねようと振り返る。
「ねえパルラ、この白いのってな、に……っ!?」
瞬間、全身がブワッと熱くなる。汗が噴き出るほどに暑い。いやそれだけならまだよかった。
身体の芯が空しくなるというか、誰かに慰めて欲しくなるというか……いやもうハッキリ言おう。凄く、こう、ムラっとする。具体的には胸の先端とか、下半身とかがムズムズして、つい弄りたくなる。
次第に頭の中がふわふわしてきて、思考する余裕もなくなってきた。肩で息をする“私”をナサリーが心配して歩み寄ろうとするが、その前にパルラが“私”の身体に手を添え耳元に口を寄せる。
「おかわり、欲しいですか?」
「ひうっ……!♡」
息を吹き掛けられるような囁き声に驚いてついヘンな声をあげてしまった。それに気付いた叔父が心配そうに此方の様子を伺う。
「──ご主人様。お嬢様はお身体が優れないとのことですので、お部屋へお連れしても宜しいでしょうか?」
先ほどとは別人のように真面目な顔をしたパルラの言葉に叔父は頷く。すると彼女は舌をチロリと出して口角を上げ、“私”を横抱き──いわゆるお姫様抱っこ──にして退出していく。視界の端で何人かのドラゴンメイドたちが恨めしげに此方を見ていたが、“私”はそれに気付くことはなかった。
人目が無くなったタイミングでパルラは妖しく笑って再び“私”の耳元に口を近付ける。
「……いかがでしたか?♡ 私の特性ソース♡」
「うぅっ……パルラぁ…♡な、なにをいれたの……?」
ゾワゾワっとくる囁き声に悶えながらもずっと気になっていた疑問をようやく口にする。しかしパルラは、顔を更に近付けて“私”の口を……口を?
「……んむぅっ!?」
「んふふっ…♡」
えっ、うそ、いま口……わたしのファースト…!?
「……ぷはっ♡」
「っは…!ぱ、ぱるら……!?」
顔が離れて、一本の銀糸が滴れる。啄むように行われたそれは、紛う事なくキスだった。前世を含めても一度もする事のなかったそれは、“私”の思考を停止させるのに十分だった。
「その答えは、お部屋の中で教えてあげます♡」
捕食者を思わせる熱く鋭い視線を送りながらもパルラは、“私”の寝室とは違う別の部屋へと