「ねえ、これ書いてくれる?」
爪を剥がされた痛みが残る中、彼は何かの紙を出してきた。
「なに…これ…」
私がそう言うと、彼は自信満々な笑みを浮かべてその紙を差し出してきた。
「婚姻届だよ!」
「僕のこと好きだって証明してくれたよね!」
「ほんとは〜少し不安だったんだ!君は僕のこと好きなのかな…なにがあっても一生愛してくれるのかなって……」
「でもさっきので安心した!ごめんねあんなことして、大好きだよ」
「だからこれ書いて一生一緒にいよう?2人で生きて、2人で一緒のお墓に入って…くれるよね?」
なんて捲し立てるように話しているのが聞こえる。
私はまだ彼のことは好きだ。あんなことするのも全部私を愛してるからなんだろう。でも好き…ではあるけど、強引すぎて、私の言うことを聞かずに暴走するのが本当に怖い。
あんな私に暴力を振るっておいて、次の日に婚姻届を出してくるのも怖いし、そうでなくても(まだ手が痛いから、もう少し後がいいな)なんて答えたいけど、そんなこと言ったらまた怒ってなにをするのかが分からない。
だから…彼の言葉に頷くしかなかった。
そして机の前に座った私に婚姻届とペンが置かれた。
「じゃあ…はい!自分の名前だけでいいから書いて!」
そう言った彼は、私のことをずっと見ている。
でも…右手を動かすだけでとても痛い。少し動かすだけで、爪があった部分にくまなく針で刺されているような感覚が襲ってくる。
そんな痛みに必死に耐えながらなんとか机の上に右手を持っていった。
そして、ペンを持とうとするが、少しでも指に力を入れると、さっきの数倍の痛みが襲ってくるのでうまく持つことができない。
なんとか持とうと試行錯誤している時も、指がペンに当たって信じられないような痛みに襲われた。
でもなんとかペンを持ち上げて、親指と人差し指の間に立てかける形でなんとか書ける体制を整えることができた。
その状態で名前を書こうとしたが、
「ほら!ちゃんと押さえないとずれるよ!」
彼はそう言って私の左手を無理やり婚姻届の上に置いた。
「ぁぁああああ痛い!痛いよ!」
無理やり動かされた左手は、薬指がないことも相まって今までとは比べ物にならない程の痛みで涙が溢れてくる。
「ほら!ペンもちゃんと持つ!」
私の後ろに周った彼は、私の右手を掴んで正しい持ち方へと修正した。
その持ち方のままペンに手を押さえつけられている状態なので、必然的に爪の部分を押さえつけられることになる。
「痛い痛い痛い痛い痛い!痛い!!やめて!痛い!」
無理やり入れられている力と、彼の指の熱で刺されているような焼かれているような、とにかく今までに感じたことのない痛みが襲ってきた。
「大丈夫!大好きだから、頑張って!」
その状態で名前の欄まで手を運ばれた後、離されたが、激痛で私の手は震えていた。
「まず一文字目、書けるよね?」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
その声には従うしかなく、私は形容できない激痛で手を震わせて、涙で歪む視界の中、なんとか自分の名字を書き終えることができた。
でもそれが限界で、
「ごめんなさい…もう…無理です……痛くて書けないです…」
と泣きながら彼に伝えた。
両手からは血が垂れて、目からは涙が流れて、婚姻届はもうぐしゃぐしゃになっている。
「はあ………君のこと信じてたのに…」
「ほら、貸せよ」
彼は再び私の指ごとペンを持って名前を書こうとした。しかもさっきより力が強く、声にならない悲鳴をあげてしまった。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「うるさい、ちょっと黙っててくれる?」
彼の左手で口を塞がれたため、私は意識を失うような激痛の中、涎を垂らしながら震えることしかできなかった。
目を覚ますと、彼は私の爪の部分から流れた血を舐めていた。
「なに、し、、あぁああぁあ!痛い!」
指の先を粗いやすりにかけられたような感覚で思わず叫んでしまう。
「痛い!全部書けなくてごめんなさい!!痛い痛い痛い!」
すると彼は、
「おはよう!これできたよ!ありがとう嬉しい…これでずっと一緒だね」なんて言いながら彼は2人の名前が書かれたぐしゃぐしゃの婚約届を見せてきた。
「よく頑張ったね、えらいね」
そんなことを言われながら私は激痛の中、ずっと頭を撫でられ続けていた。