学園都市。日本国は東京都中西部に広がる完全独立型教育・研究機関であり、総人口二三〇万人を抱える科学の街である。
人口の実に八割が学生というこの街では、地球上で最も傑出した科学技術を保有するとされ、あらゆる分野でテクノロジーの進歩が生み出されていた。
この学園都市の誇る技術の中でも特筆してユニークであり、唯一無二とも言えるのは、『能力開発プログラム』と呼ばれる超常の力を行使する人材を人工的に生み出す......いわゆる超能力を科学的に実証する。
この超能力開発を行う為に全国から多くの人材が集められるのだ。
しかし、そんな学園都市にも闇はある。
例えば、裏社会を取り仕切っている暗部組織。
例えば、表沙汰にはできない実験を行う研究者達。
例えば、非人道的な兵器を作り出す科学者。
そして、それらの闇の中でうまれた、トップクラスの力を持つ超能力者達。
能力者は、その力を悪用する者がいる。また、その力を利用しようとする者もいる。
学園都市はその二つの存在を許さず、常に超能力者を監視している。
だが、それらはあくまで表向きの話。裏では、様々な思惑が入り乱れている。
能力者が生まれるこの街において、能力者の力は切り離す事の出来ない必要悪でもある。
◇◇◇
七月某日の事である。
梅雨明け宣言はまだされていないものの、連日雨模様だった天気はすっかり落ち着きを取り戻していた。空に浮かぶ雲は夏の到来を感じさせるように真っ白に染まり、太陽から降り注ぐ光は強く眩しい。
第七学区にある、とある高校......様々な校風や教育方針に溢れ現代生徒教育の聖地として有名な学園都市に於いて、ひたすらにスタンダードを貫き通すような、これといった特色のない学校。
ミンミンと蝉の声が鳴り響く一年七組の教室は、もわりとした熱気に包まれていた。空調設備は整っているのだが、それでも外から入り込む陽気が肌を焦がしていくようだ。
ある日の昼休み、あまり良くない意味で名を轟かせる
──しかし、そんな彼等のグループに勝手に加えられ
黒々とした短髪に、平均的な背格好。無個性な日本人男性、という概念に骨肉を纏わせるだけの容貌をした彼は、凡そ平凡の中央値を突き詰めた印象を抱かれることが多い。雑踏の中に紛れればたちどころに掻き消えてしまうような......記憶に残らない雰囲気である。
思春期の少年少女の成すコミュニティで、望むような人間関係のポジションを確保するのは意外に苦労を要した、と述懐する。
故あって現生人類の枠組みを逸脱している彼は、とある計画の要となる少年への監視兼補佐役として高校生の身分で同じクラスに乗り込んでいたりする。
(それにしても....)
貪鮫は、然り気無く辺りを窺った。
人事に関して統括理事長が根回ししたらしい、と気付いたのは今年の春の事だ。
【要人】を迎え入れる学校施設の選定と、『プラン』が次のフェイズに移行するタイミングを見計らい人事再編が行われた。
そうして、現在。月詠小萌教諭の担当する七組の男女比は大いに偏重が見られ、一学級四〇名の内じつに三〇名が女子生徒で構成される、ある意味では男の夢見る環境となっていて。
加えて、七五%を占める彼女らにもある一定の法則があるように思える。
学園都市には、傾向的に容姿の優れた人材が集められやすいという眉唾物な都市伝説があったのだが......それは兎も角として。
ふと、視線が交錯した女生徒は、困ったように可愛らしい顔立ちをはにかませてから友人との談笑に戻った。
客観的に見ても、蓄積された膨大な映像記憶を基に比較を行ってみても──上澄みの美貌やプロポーションを有した可憐な花だ。スクリーン上のアイドルか、タレントだと言われてしまえば納得してしまいそうな女性ばかりであった。
......しかし、こと貪鮫は外見に対する執着が薄い。自力で幾らでも肉体を再構成出来る彼にとっては、美醜の具合だとか生物学的な性差は言うなれば簡単に切り替えられるプリセットでしかない。身に宿る人間性、魂、記憶。内面に抱えるものさえ無事なら、身体は単なる肉の器に過ぎない......けれど。
脳の基本的な思考パターンを決めるニューロン構造は生来のものを基準としており、今は心身ともに大衆男性的な嗜好である。つまるところ、美しい女性を見ると人並みには興奮を覚えるのだ。
一度、統括理事長に「クラスを芸能事務所にでもするつもりか」と明らかな偏り具合を指摘したのだが、愉快げに口許を歪めて「その方が君も退屈しないだろう?それとも、私と一緒に容器の中で
貪鮫が学園都市の設立に関わってから実に半世紀以上が経つ。
その間に学園都市は大きな変化を遂げてきた。
善悪問わず、様々な勢力が入り乱れ、争い、時には協力しながら表で裏で暗躍してきた。手垢の付いたニュースや、歴史の闇に葬られた
統括理事会は表向きは平和維持のため、水面下では世界の覇権を巡って戦いを繰り広げている。学園都市は、そんな世界に混乱をもたらす火種の一つとして、あらゆる勢力から狙われていた。
まぁ、面倒事に巻き込まれても平気なように数十年掛かりの技術供与や武力介入を行い科学信仰の土台や監視網を作り上げ、反乱の兆しすら起こさせないようにしていたのだが。
不幸や理不尽の排斥。人類の真なる意味での独立。貪鮫刃三郎は、それを成し遂げるために動いているのだった。