※この作品はR-18です。

新約・とある魔術の妄想目録   作:伝説の肥大したデブりし者★

3 / 5
トラブル・スタンダード①

 

 

大抵の場合学園都市に於ける優等生──即ち開発強度指数六段階の内、高位能力者(レベル三以上)──は、より設備や学習環境が整えられた教育機関に通う事になる。

 

一般には流布されていないが、【素養格付(パラメータリスト)】と呼ばれる潜在調査の内容には、そうした学園都市において能力開発の程度を測り得る基準が存在する。地球上の優れた頭脳を結集し、何十年もの歳月と国家が傾くような予算を投じて確立された貴重過ぎる情報群だった。予め対象人物がどのような能力を発現させやすく、またその演算規模の獲得限界値が高いかがデータとして確立されており、能力開発に必要な時間割り(カリキュラム)の吟味を行う事が可能だった。

 

そのような状況の中で、順調なエリートコースを歩んでいた筈の超能力者(レベル五)に君臨する少女が無名の高等学校に進学希望を出した事は、多くにとって驚きを齎す出来事であった。

 

 

 

 

 

学園都市の学生は例外無く能力開発を受けているものの、発現させる能力やその演算規模には非常に触れ幅がある。例えば火を起こす【発火能力(パイロキネシス)】は、全認定能力者の数割を占めるポピュラーな能力であるが、同じ能力でも個人差が大きい。

大抵は日常生活での利便性を見出だせるくらいで、現行の科学技術で十分に再現可能な程度の熱量しか作り出せない事が殆どなのだが、数少ない大能力者では短時間で山林を焼き払ったり、火の発生という括りを除けば局所的に熱エネルギーを増大させてタングステンなどの高融点素材を溶断したりできる者もいる。もっと強大な能力を持った者も居るが......つまり超能力者が如何に(従来型の考えからすれば)常識外れな存在であるかを物語っているのだ。

 

しかしながら、一八〇万人を越す人間が全て何らかの能力を獲得したかと言えば答えはノーであり、寧ろ真逆。六割方の学生が開発強度無能力者(レベル〇)に該当しており、見て分かるような能力者の方が少数派なのだ。

外部に住んでいる非能力者と比較するなら、間違いなく彼らは能力を持っていると言えるけれど、学園都市の測定基準では余りにも微弱過ぎて誤差の範囲と判断されてしまう程には弱いのである。

 

......制度上、レベルが上がるにつれ生徒の待遇は飛躍的に向上していく。具体的には毎月振り込まれる奨学金であったり、大学や企業への特別推薦枠だったりと様々である。能力の開発は将来の人生設計にまで大きく関わってくるため、日々の学習に励む生徒達は血眼になって切磋琢磨する。

 

 

 

能力至上主義(スキルカースト)の蔓延によって、高い競争意識が根底にあるという状況は幾らかの効果をもたらす。それは時に、他の生徒達に対する優越感となり、果ては選民意識といった歪んだ思想を生む土壌となっていた。

 

 

 

 

 

──それは灼熱の日射しが降り注ぐ、とある真夏日の出来事だった。

 

二三の区画に分けられた街のうち、主に海外渡航客や各国要人向けの施設が集中されている第三学区。その中でも一際広大な敷地を有するのが、国際文化会館である。学区最大の収容数を誇る多目的スタジアムを始め、ホテルや商業施設まで完備する巨大な複合施設。そしてその一角に存在する、先進国会議や条約の調印式などに使われる国際会議場はランドマークの一つとなっていた。

特定の大きな催し物がある前後になると、学園都市に展開する旅行代理店はこぞってツアー企画を組み始める。国内外を問わず、観光資源に富んだ学園都市には多くの観光客が見込めるからだ。外では見ることの出来ない珍しい建造物やイベント、何より最先端技術に触れる事を目的に訪れる者も少なくない。

毎年相当数の人間が訪れるが、学生たちは街中に溢れる訪問者を目にする事はあまり無い。

 

理由は様々あるが、最大の要因としては一時的な滞在客は行動制限が多く定められている事だ。学園都市の至る所に設置された監視カメラやセンサー類による治安維持に加え、外部から来た人間は事前にID認証を受けていても指定学区からの出入りが一切禁じられている。当然、そういった人々を対象にした商売を営む業者も転出入及び取引が規制されており、違反した場合は厳しい罰則が設けられている。

 

秘匿技術を盗み出そうと潜入した産業スパイが出られなくなって餓死した、と真贋不明の噂話が流れる程度にはこの厳重な警戒態勢は徹底されていた。

 

 

 

時刻は午前十一時二〇分。

ショッピングモールに併設された屋外のフードコートには、少々昼時には早かったがちらほらと席を埋める人が散見できた。照り付ける日射しを少しでも避けようというのか、ガラス張りの壁に沿った席に座っている客の姿が目立つ。

パラソルの下に置かれたプラスチック製の椅子はあまり座り心地が良いとは言えないが、端の方に座っている男にそれを気にする様子はなかった。

足元に荷物であろうリュックを置いており、背凭れに身体を預けて空を見上げるその顔はまだ学生と呼べる幼さを残しているが、被られたハンチング帽の下から覗く双眸は妙に老成していた。

 

──ふと、ぶるぶると何かが振動する音が聞こえて、男はポケットに手を入れ.....静かに引き出す。

 

黒くて四角形のそれは掌に収まるほど小さく、表面にはボタンが一つ、ぽつんと浮かんでいる。軽く指で触れると、液晶に数字が浮かび上がる。表示されているのは幾桁かの数字で、何の規則性もないように見える。

 

しかし、男にはそれで十分だった。

 

彼が持つ黒い端末、その数字が送られてきた事が。

 

男の口元がゆっくりと三日月形に歪んでいく。

これから起こるであろう事象を想像しているのか、それとも何か別の感情からか。どちらにしても、男が浮かべる笑みはどこまでも深く昏いものだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。