家に帰るまでが異世界探訪。
俺の家は、この真津屡市で最も大きく広い邸宅だった。だった、と言うのは今は削られて狭くなっているからだ。
理由はいくつかある。
一つは、独りで住むには広すぎた。つうか広い庭に松とか杉とか植えらてて、池には錦鯉が泳ぎ、鹿威しがカコーンと鳴り、茶室なんぞがあったりなんだり、そんな手入れとかコストの掛かるもんいらねぇ、と言うのが一番の理由だが、それ以外にもウチの家計の事情もあったのだ。
元々、雄立家はこの真津屡市の多くの場所に土地を持つ大地主ではあったがその財力で様々な事業も手掛けていた。だがそれらが不景気やら何やらで衰退……と言うと誰もが、『国が悪い政府が悪い、時代が悪い』などと思ってくれるかも知れないがウチの場合はそうではない。
雄立家の親類縁者その他コネで役職に付いてた低脳ボケナスの無能共がやりたい放題を仕出かした事が最大の原因である。
……ジジィ共の死後、遺産としてそれらを受け継いだ俺が内情その他を知った時、はっきり言って遺産を破棄すりゃ良かった、とマジで思ったくらいにそれらはひどかった。
故に雄立家当主としての俺の初めての仕事は親類縁者その他コネ採用者共の一掃だったのだ。
とはいえやってみればものすごく簡単に片づいた。会社として当たり前の措置をやるだけで全てが片付いたのだ。つうか何でもっと早くに誰もやらんかったのか不思議なくらいだ……って、まぁ、下で働く者がやるにはハードルが高いか、やっぱし。
たとえば勤務中に愛人とホテルに行くクソ野郎。たとえば会社の金の横領。たとえば会社の社用車の私的無断使用。下請けの他社へのパワハラや会社への損害の揉み消し工作、果てはライバル社への機密漏洩、セクハラ、その他諸々。そんなもん証拠があればとっとと片づいた。
ほとんどが警察のお世話になりお天道様の下を歩けんようになったが、だからと言って俺は特に心なんぞ痛まなかった。
んなもん親族とか言われてもさほど知らん連中だし、まともに働かん癖に真面目に働く者達の邪魔にしかならず、そんな寄生虫はとっととおらんようになってもらう方がいいのだ。
大変だったのはその後だ。病巣が無くなった後のグループ会社の立て直しは困難を極めた。それは連中の人生を破滅させてもそんなもんで償えるようなレベルではない。回復させて再び軌道に乗せるのにかなりの労力が要ったのだ。あと経済的な補填も大変だった。
出来る手は全部打った。
ジジィの蔵から要らん古美術品を出して売っぱらったり、特に不要だと判断した土地を売ったり、銀行に土地を抵当に入れて金借り出したり、優秀な人材かき集め、会社組織にテコ入れして活性化したり、とにかく会社を動かしたり、とことんまでやったのだ。
そして俺も働いたとも。ああ馬車馬の如くグループのあちこちの部署でとにかく事業を回すために掛け持ちで動きまくり率先して様々な企画を立ち上げ、業績をアップさせた。
不動産やら建設やら飲食店経営やら、服飾産業やら、それこそ多方面に広がってバラバラだったグループ関連の業務の先頭に立ち、駆け回って統合出来るところはとにかく統合し、合わせられる部分は合わせ、とにかくがむしゃらに働いたのだ。
その甲斐あってやっとこ全てが起動に乗り、今では政財界も注目……なんてのはどうでもいい。
つまりは金策のために一番要らん土地を売った、それが俺の屋敷の土地って事なのだ。
……だが、それも元の世界の話だ。こっちの世界では。
「……屋敷、昔のまんまじゃねぇかよお!!」
思わず俺は叫んでいた。
「こらこらこらこら、こんな夜中に叫ばないの!」
澪が俺のそばにすぐ来て止めてくれたが、激高せずに居られなかった。
「しかし!むぐうっ?!」
俺の言葉は澪の乳に塞がれた。いや抱きしめられて胸の谷間に埋もれて声どころか呼吸が!?
「はーい、落ち着こうね?ほーらおっぱいぱふぱふーっ」
左右のおっぱいで顔面を挟まれボインボインにされた。
(こ、これは伝説のぱふぱふ?!)
そう、かのドラクエにおける男達の夢ってのか少年達がある程度性を意識したあのぱふぱふである。
ぱふぱふしていかない?とか誘われ、しかし本当に女性キャラにされたのは初代のみ。他は詐欺のようなもんで、親父のぱふぱふ(肩もみ)だったり、異性にモテる魔法だったり、化粧だったり、他人のぱふぱふ目撃だったりするのみ。
しかもWizardryの名物レベルドレインモンスターであるサキュバスによるドラクエ名物ぱふぱふ、乳出し婦人警官による生乳ぱふぱふ!
もしかしたら俺は勇者の血を引きし……いやいやいや。
「ふぉぉぉぉ……これは癒やされるぅ」
澪の乳は、すんげぇいい気持ち。匂いもすっげぇいい。
「はいはい、落ち着いた?」
「はい……落ち着いたぁ」
すっかり牙を抜かれちまったぜ……。
「夜は異種族が活性化してるからね?男の叫び声なんて聞いたらたとえ雄立邸の前でも群がって来かねないのよ。気をつけて」
澪はほら、広い道路の向こう側を澪は顎で指し示しらそれを見れば……。
歩道を行くバニーガール、いやどちらかと言えばトップレスの逆バニーがこっちを見て、ツレの筋肉質な角が生えたゴツい鎖を身体に巻きつけたようなもはや服とは思えんような格好の鬼女と何か慌てたように話し、俺を指差していた。
女子高生な制服姿の塾帰りっぽいギャルな猫娘と同じ制服の下半身蛇なギャルが、やはりこっちを見て顔を赤らめつつ、よだれをじゅるりと啜っている。
さらに通りがかりの天使の輪っかを頭に乗せた一見貴婦人のような買い物籠を持ったむちむちマダムが全裸で何を騒いでいるのかと見てきて主婦友らしき悪魔と思しきボンデージ姿で乳首に輪っかってのかピアスつけてタトゥーバシバシ入った全裸の熟女になんか大きな声で「男よ!男!」とかこっちにも聞こえるような声で言い、悪魔の熟女も、「マジ?!あ、マジで男だわ!……って女ってかサキュバス連れじゃない。しかもポリスだわ、アレ」。とか言ってた。
……ええい、特区は痴女しかおらんのか!って俺のツレも乳モロ出しの痴女でしたー!警察官だけどー!
「ね?危険なのよ。アタシがいるから群がって来ないけどね」
「ああ、助かった。つかマジで特区はヤベェんだな」
「人間の男にはね。……だから早く屋敷の中に入りましょう」
澪に促され、俺は上着のポケットからキーカードを出し、表札に当てた。
表札はキーカードを読み取るパネルでもある。読み取りのパネルをそのまま出しててイタズラでもされて壊されたら事だからそのように偽装してあるのだ。
……なお、キーカードが使えない場合は表札をずらせば普通の鍵穴があるぞ?
ピッと音がしてガシャッと錠が開く音がした。
「表札が鍵なんてね」
「イタズラと破壊防止だ。誰も表札そのものが鍵とは思わんからな」
大きい門の中戸……門につけてある扉を開けて屋敷の中に入ると、門の中には思った通りの光景……では無く、屋敷の敷地を削った時に裏に建てた俺の家が建ってた。
「なにこの家。というか門は立派で外の塀はかなり続いているのに、普通の民家?」
え?どうなってるの?と澪は少し混乱していたが、俺は得心いっていた。なるほど、こりゃ家を出るときにわからんかったはずだわ、と。
壁の中に壁がある、というのか敷地の中に塀に囲まれた部分があり、気付かなかったのだな。外に歩いていく時は後ろも見ないで通りのすぐそこの横断歩道歩いて行ったし。
「いや、ここは屋敷の裏庭だ。俺の家がこっちの俺の屋敷の裏庭に転移してきたんだ」
「え?」
「……恥ずかしながら、俺の元いた世界では雄立の家や土地の九割方を売って、その残った土地に俺は新たに家を建てた。目の前の家がそれだ」
「まさか家ごと転移してきたというの?!」
「ああ。裏門も俺のカードキーで開くってことはコレも転移したみたいだ。しっかし、裏庭にすっぽりと家一軒入るって無駄に広れぇなぁ。つかまた売ってやろうか……」
本当に呆れる。名家とか云々言ってさんざん見栄をはって、最後には目の前の家程度しか残らんかったのだ。それも自分達の親族のクソを重用してたせいでな。
まぁ、それも終わった話だ。
……いや、こっちの世界では終わってないのか?
少し嫌な予感はしたが、まぁ、俺はこっちの俺では無いのだ。うーむむむむ。まさか異世界で再び親族共の不正やら横領やら犯罪行為を調査して追放して
また会社グループを立て直すなんて事をせにゃいかんとか……。
いやいやいや。
頭を振って嫌な考えを振り払い、目の前の異常に向き直る。
異常とは自分の家の事である。
裏門の錠を下ろして俺は家の玄関を見た。
何が異常って、転移してきたのに何故か門灯が点いているのだ。つまり電気が供給されている。外からでも電信柱から電線が家に伸びているのが見えるあたり、つまりそれは何者かが配線し通電したと言うことだ。
……いつ、誰がどうやってかはわからないが、俺が中にいて気づかぬほど素早く音も立てずに、だ。それに、俺は外に出る前にシャワーを軽く浴び、それから出たのだ。つまりガスも水道も繋がっている。
有り得ない。だが有り得ている。
何者かの介入を感じる。つまり俺がこの世界に転移したのには黒幕が存在するのでは無かろうか。
考え込む俺の顔を澪が覗き込む。
「大丈夫?」
「ああ。少し考えていたんだ。転移した建物に誰が電気ガス水道を繋げたのか、と。普通、有り得ないんだ」
正直に澪に話す。これで澪がその黒幕と繋がっているならなんらかのリアクションがあるのではないか?と思っての事だ。
昔のアドベンチャーゲームではこうやって誰彼かまわず話をしたり調べたり触ったり、アイコンが変わる所を探したりして、調べ足りなくてなかなか次の場面に進まずに何時間もそこで足止めってのがよくあったものだ。
つか登場人物がまだ一人しかおらんから、話す相手も澪しかおらん。
……無論、これはアドベンチャーゲームではなく現実なんだがな。
だが、澪から得られた情報はなんとも締まらないものだった。
「特区では建物とか建ってると電気会社とかガス会社のグレムリンが察知して勝手に魔法で工事するわよ?奴ら、とにかくエネルギー売るのに血道上げてるから不法侵入とかお構いなしにやらかすのよ。『工事開始から終了まで最速0.3秒!』って宣伝してるくらいだから」
……なんだそれは。つかグレムリンと言えば戦闘機乗りの悪夢と言われる、エンジンに悪戯して不調にしたりぶっ壊すと言われている小悪魔ではないか。
澪は門のポストを見て、
「ほら、青と緑と黄色の封筒が入ってるわ。それぞれ水道局、ガス会社、電気会社の封筒よ」
と、指差し言い、俺はポストに向かってそれらの封筒を取った。
『真津屡市水道局・雄立藩支局』『関妻電気』『猛坂ガス』
確かに澪の言った通りだった。しかもそれぞれに『請求書在中』の文字。
「いや、勝手に工事して金請求すんのかい!」
封筒を開けて金額を見る。それぞれの紙には工事費用とその内訳が書かれてあり、それぞれがだいたい1500円程度、高くても2000円程だった。しかもどれも今月の代金に加算。
「あっ、すげー良心的」
工事料金としてはかなりお安かった。
そう言ったら、なんか家から緑色の小さい奴が数匹、ワラワラと出て来た。黄色い工事現場で被るようなヘルメットと工事現場のおっさんが着るようなニッカボッカ姿だ。
「あれがグレムリンよ」
澪が言うがそれらは俺が想像するグレムリンとはかなり違い、緑色の肌をした幼女が工事現場のおっさんコスをしているようにしか見えなかった。あと、乳は出ていた。貧乳から巨乳まで等しく放り出し乳である。
児ポ法……という言葉が頭を過ったが、いやいや異種族なのだ。多分成人(?)。
「あ、お施主さんかい?つかあんたん家、どんな規格の電化製品使ってんだよ。ったくあんなんじゃまともにwi-fiも使えねーだろ。変換器咬ませて改造して、ちゃんと使えるようにしといたぜ。あとそのスマホ!変な電波帯使ってんなぁ。貸しな!」
グレムリンのリーダーっぽい巨乳の幼女はポケットから出してもいない俺のスマホをぱっと取る、いや盗ると、なんかホグワーツで使うような短い杖でスマホをコンと叩いて魔法陣みたいなものを出してなにやら、
「うんじゃらうんじゃら、ぱーっ!」
なんぞとロリ声で唱えると、
「ほれ!使えるようにしといたぞぉ。つったくどこの会社のスマホかわからんけどマナチップが無くなってっから電波拾えねーだろうに。これで財布機能もちゃんと使えっぞ!」
と、俺にスマホを返して来た。画面を見れば上の右端にアンテナが立っててwiーfiのマークも出ていた。
んで、画面をタップして確認したらお財布ケータイの残額やらなんやらもキッチリ出た。
「お、おお……」
そんな俺に、巨乳グレムリン幼女は腰のレシートみたいなのを出す機械からジジーッとなにやら紙を出すと、
「ほい。家の中とそのスマホの修理代金な。今月の電話料金に加算されてっから慌てんなよ?」
代金の紙と共になんかチラシを俺に渡して来た。
「ま、家電とか調子が悪けりゃすぐに来てやっからよ!」
そして、とてとてと裏門の方に全員歩いて行くと、門を開けずにすーっと幻のように出て行った。
「……あれがグレムリン、なのか?」
「そうよ。でも異世界の家電も使えるように出来るとは知らなかったわ」
代金の紙を見ると合計7000円。高いのか安いのかわからないが、向こうの世界のスマホがこっちでも使えるようになった事だけでも安いと言えるだろう。
なお紙に書かれた会社名は第一テレテレ公社・真津屡市局。チラシは新型wi-fiルーターやスマホの宣伝だった。
『新型M-Phoneと5T wi-fiルーターの組み合わせ!工事不要!』とか書かれてあった。
「……陰謀は無かった!」
「まぁ、グレムリンには陰毛は無いわね」
いや、どう聞き間違えたら陰謀が陰毛に聞こえるっちゅーんだ、と思うもなんかちょっと気になった。
「つまりグレムリンはパイパンと?」
「……パイパン好きならアタシも剃るけど?」
「いや、陰毛は大事」
速攻で拒否る。だってあった方がエロいから。
それはともかく。
「家に入ろう。流石に外でアホな事を言っとる場合では無いからな」
俺は澪を伴って俺の家に入っていった。