「はっけよい、のこった!」
声がした。
でも、十六夜咲の体は動かなかった。
目の前に毒島りんがいる。腰をぶつけてくる。でも、それがまるでスローモーション映像のように、どこか他人事のように見える。
痛いとか悔しいとか、そういう感情がどこかへ行ってしまった。
ただされるがままに、りんの腰の動きにその体は翻弄されるだけだった。
絶頂川アナ:「ああっと! 動かない! 十六夜が全く動かない! 毒島りんのやりたい放題だ! まるで魂の抜けたただの人形のようだ!」
りんは、そんな咲の姿を心底楽しんでいた。
「ふふ…、ふふふ…。いいわ、いい顔してる。そうよ、それでいいの。何も考えず、何も感じず、ただあたしの腰の動きにその体を委ねていればいいのよ」
りんの腰つきは、これまでのどの力士とも違った。
それは、咲を絶頂させようとするものではない。
わざと性感帯を“外し”、じらすように、嬲るように、そして侮辱するように、咲の体を弄ぶ。
それは快感ですらない。ただ不快で屈辱的な刺激の連続。
天知:「…これはひどい。あまりにも一方的すぎる。毒島りんの狙いは、もはや勝利ですらありません。十六夜咲という一人の人間の尊厳を、この一万五千の観衆の前で完全に破壊し尽くすこと。そのための公開処刑です」
咲の目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
でも、それは悔し涙ではなかった。
ただ自分の体が自分の意志とは関係なく、汚されていくことへの生理的な拒絶反応。
(いや…やめて…)
心の中で誰かがそう叫んでいる。でも、その声は空っぽの体には届かない。
りんの凌辱は続く。
観客席の商店街の仲間たちの悲痛な声援も、もう聞こえない。
客席で唇を噛み締め、その拳を握りしめている祖母の撫子の姿も、もう見えない。
意識が遠のいていく。
ああ、これで終わりなんだ。
あたしのマンコ相撲はここで…。
朦朧とする意識の中。
ふと脳裏に一つの記憶が蘇った。
それは地獄の特訓の日々。
滝に打たれ、自分の体を守ろうとしたあの感覚。
瓢箪を見えない刃で揺らしたあの集中。
そして自分の内なる“泉”と向き合い、快感を支配しようとしたあのギリギリの精神状態。
(…気持ちよく、なりたい…)
そのあまりにも純粋で、あまりにも根源的な魂の叫びが、空っぽになった心のその一番奥底で、小さな、小さな灯火のようにぽっと灯った。
それは性的な意味を超えていた。
ただ自分の体を、自分の心を取り戻したい。
もう一度、あの全てが満たされるような幸福な快感の渦の中で笑いたい。
ただそれだけの願い。
りんは、そんな咲の最後の抵抗を嘲笑うかのように、とどめを刺しに来た。
「さあ、お嬢ちゃん。最後の“お仕置き”の時間よ。あたしのこの指で、あんたの一番いやらしいところをぐちゃぐちゃに掻き回してあげる…」
禁じ手、『蛇の舌』。
りんの指先が、死角から咲の最も無防備な場所へと迫る。
その瞬間だった。
咲の体が無意識に反応した。
それは防御ではなかった。
むしろその逆。
りんの指が咲の秘所に触れたその刹那。
咲の体は、その“毒”を拒絶するのではなく、逆にまるで砂漠が水を求めるように、赤子が母親の乳首をしゃぶるように、その指を“喰らった”のだ。
きゅううううううううううんっ!
信じられないほどの力で、咲の膣がりんの指を締め付け、しゃぶり、そしてその指先からりんの“魂”を直接啜り始めた。
「ひっ…!?」
毒島りんの顔から、初めて余裕の笑みが消えた。
ありえない。このあたしが、獲物を支配し、快感を“与える”側のあたしが、逆にその指先から魂を啜られている…!?
毒島りんの禁じ手『蛇の舌』に喰らいついた十六夜咲の膣は、もはやただの肉の穴ではなかった。それは、りんの悪意そのものを喰らい、飲み干そうとする飢えた獣の口。あるいは、全てを飲み込む渦の中心。
りんが、その未知の感覚に動きを止められたほんの一瞬の隙。
咲の瞳に光が戻った。
そして、彼女は最後の力を、魂の全てを絞り出す。
「渦潮ォォォォォォッ!!」
ゴオオオオオオオオオッ!
咲の腰が回転を始める。
だが、その渦はこれまでの相手を優しく誘うような幸福な渦ではなかった。
絶望の淵から這い上がるための、荒々しく混沌とした生命力そのものの奔流。りんの毒を、悪意を、その全てを飲み込み、燃料として凄まじい勢いでその回転数を増していく!
絶頂川アナ:「う、動いたァ! 魂が抜けていたはずの十六夜が動いたぞ! そして、なんだあの渦は! 先日の比ではない! まるで国技館そのものを飲み込もうとするかのような巨大な台風だァ!」
りんは指を引き抜こうとするが、遅い。咲の膣は万力のようにその指を捕らえて離さない。彼女は、自らの禁じ手によって台風の目へと完全にアンカーされてしまったのだ。
「くっ…! この、小娘がァ!」
りんは、残った腰の力で得意の『百足の嬲り』を繰り出す。だが、その無数の鋭い突きは、咲のあまりにも巨大で、あまりにも混沌とした渦の中に全てが無力に吸い込まれていく。
天知:「…信じられない…。毒を喰らっているというのか…。毒島りんの魂を殺すための“精神汚染(メンタルハック)”と、肉体を苛む“蛇の舌”。その二つの猛毒を、十六夜咲は拒絶するのではなく、全て受け入れ、喰らい、そして自らの力へと変換している…! そんなことが可能なのか!?」
りんは生まれて初めて本当の“恐怖”を味わっていた。
自分の攻撃が通じない。
それだけではない。
咲の『渦潮』から流れ込んでくるのは、痛みでも屈辱でもない。
ただひたすらに純粋で温かく、そして抗いがたいほどの“快感”。
支配するためではない、ただ共に気持ちよくなりたいという、あまりにも無垢な生のエネルギー。
サディストである彼女にとって、それは自分の存在意義そのものを根底から揺るがす未知の感覚だった。
「いや…! やめろ…! くるな…! あたしの知らない“気持ちよさ”で、あたしを満たすなァァァッ!」
りんの叫びは悲鳴に変わる。
だが、咲の渦は止まらない。
もう意識はない。ただ生きたい、気持ちよくなりたいという本能だけが彼女を動かしている。
絶頂川アナ:「あああああ! りんが! あの毒島りんが快感に怯えている! 咲のあまりにも純粋な“渦”に、りんの“毒”が浄化されていくようだ!」
やがて二人の腰が限界を迎える。
咲の全てを受け入れ、全てを飲み込む渦。
りんの初めて知った、支配ではない、共有する快感。
二つの魂が完全に一つに溶け合ったその瞬間。
「「んああああああああああああああああああああああっっっ!!」」
国技館の全てを震わすほどの二つの絶叫。
それはほぼ同時だった。
凄まじい光と快感の奔流が土俵の上で弾け飛ぶ。
両者、同時絶頂。
だが、その意味は全く違っていた。
りんのそれは、未知の快感にその魂が完全に屈服させられた敗北の絶頂。
そして、咲のそれは、絶望の淵から己の力で生還した魂の再生の産声だった。
長い、長い痙攣の後。
先に糸が切れたように崩れ落ちたのは毒島りんだった。
その表情には、もはやあのサディスティックな笑みはない。ただ未知の生物に遭遇したかのような純粋な困惑と驚愕だけが浮かんでいた。
「…なんなの…あんた…」
勝負あり。
咲は、かろうじてその場に膝をつきながらも立っていた。
全身は汗と涙と、そして相手の体液でぐっしょりと濡れている。だが、その瞳には確かに力強い光が再び宿っていた。
国技館は、一瞬の静寂の後、この日この場所、いやこの国が始まって以来の、最大級の地鳴りのような大歓声に包まれた。
そして、始まる『子種拝領の儀』。
月詠愁は、その憂いを帯びた瞳に、これまでにない深く、深い畏敬の念を浮かべ、ゆっくりと満身創痍の勝者の元へと歩み寄った。
その儀式は、もはやどちらが授ける、授かるというものではなかった。
ボロボロになりながらも生きることを諦めなかった一人の少女の、その魂を。
優しく労り、そして祝福するための、あまりにも神聖な時間だった。
愁から注がれる温かい子種が、咲の傷ついた体のその隅々までを優しく癒していくようだった。
天知:「…我々は歴史の証人となったのかもしれません。純粋な悪意(毒)は、純粋な生命力(渦)には勝てない。いや、飲み込まれ、その養分となる。毒は薬にすらなるのです。…マンコ相撲はあまりにも奥が深い」
天知はそう言うと、静かに眼鏡を外し、その目頭をそっと拭った。