十一月場所初日。
両国国技館は、新たな季節の始まりを告げる華やかな熱気に満ちていた。
だが、その日の全ての観客、全ての力士、全ての関係者の本当の関心はただ一点に集中していた。
番付表の一番下に、そのあまりにも場違いな名前が刻まれた史上最年少力士、天童ひなの初陣である。
絶頂川アナ:「さあ、やってまいりました! 今場所最大の注目株! “無垢なる怪物”天童ひな! その初陣です! いやあ、それにしても天知さん、マンコ相撲の土俵入りは化粧まわしをつけぬこの“丸出し”の状態で行われますが、改めて見ると壮観ですな!」
天知:「ええ。土俵入りは単なる儀式ではありません。自らの“魂の器”を土俵の神に、そして観客に初めて披露する神聖な“お披露目”です。力士のこれまでの生き様が、その下半身に全て現れると言っても過言ではない」
その言葉を裏付けるように、西から対戦相手であるベテラン力士駿河メイが堂々とその身を現した。
絶頂川アナ:「おおっと! まずはベテラン、駿河メイの土俵入り! ご覧ください、あの下半身! 二人の子供を産み、そして十五年の長きに渡りこの厳しい世界で戦い抜いてきたその“歴史”がそこにあります! まさに百戦錬磨の“名器”! その色合い、その佇まい、威厳に満ちています!」
天知:「ええ。データ的にも非常に興味深い。長年の戦いで適度に色素が沈着した大陰唇は、防御力の高さを物語っています。そして、わずかに顔を覗かせたクリトリスは百戦錬磨の自信の現れ。まさに熟練の職人が長年使い込んだ愛用の“道具”のような機能美を感じさせますね」
そのあまりにも大真面目で、あまりにも下品な解説に観客席がどっと沸く。
そして、その空気を一瞬で凍りつかせるように。
東の花道からその少女、天童ひなが姿を現した。
銀髪のツインテール。その口にはソーダ味の棒付きキャンディ。
そして、そのあまりにも幼い下半身が白日の下に晒される。
絶頂川アナ:「…で、出ました…。天童ひな…。じゅ、十三歳…。おお…、おおお…」
絶頂川は、そのあまりの光景に言葉を失う。
絶頂川アナ:「…あ、天知さん! わ、私にはもはやこれをどう解説していいのか…! まるで生まれたての赤ん坊のようです! ピンク色の小さな小さな貝殻! まだ誰にも汚されたことのない神聖な蕾!ツルッツルです!スベスベの小さな丘にひとスジのワレメ! ああ、神よ!」
天知:「…落ち着きなさい、絶頂川さん」
天知は、その冷静な口調とは裏腹に、その額に冷や汗を滲ませていた。
「…高解像度カメラの拡大映像を確認しています。彼女の身体的特徴は完全に年齢相応。小陰唇はほぼ大陰唇の内側に収まり、クリトリス包皮も固く閉ざされている。戦闘経験、及び性的経験の皆無であることを示唆しています。兵器として見るならば、まだ鞘から抜かれたことすらない“未使用品”です」
天知はそこで一度言葉を切り、そして震える声で続けた。
「…そしてそれこそが何よりも恐ろしい」
その不気味な解説の通り。
ひなは、観客の好奇と困惑と、そして庇護欲が入り混じった視線を意にも介さず。
ただ心底面倒くさそうにぺたぺたと土俵へと歩いてくる。
そして仕切り線の上で向かい合うと、おもむろに口からキャンディを取り出し、それを土俵の隅にちょこんと置いた。
(…早く終わらせてあれ舐めよ)
彼女の頭の中はそのことだけだった。
行司を務める音無響が、その異様な空気を感じ取る。
ベテラン力士駿河メイの心臓からは、優しい“迷い”の不規則なリズムが聞こえる。
だが、目の前の少女の体からは。
やはり、あの不気味な“音”しか聞こえない。
闘志でも緊張でもない。ただその体の中心。子宮のあたりから。
まるで巨大な肉食獣が獲物を前に喉を鳴らすかのような、静かで、しかし圧倒的な自信に満ちたゴロゴロという“振動音”。
それはこれから始まる“狩り”を前にした喜びの音。
響はそのありえない“音”の正体を理解できぬまま、その職務を遂行するしかなかった。
張りのある声が国技館に響き渡る。
「はっけよい、のこった!」
戦慄のその三秒間の始まりを告げる声だった。
「はっけよい、のこった!」
その声が響き渡った瞬間。
ベテラン力士駿河メイは動いた。
母として、そして先輩としての優しさと誇り。その全てをこの一番に懸ける。彼女は、そのたくましい腰を大きくしならせ、真正面から少女の全てを受け止め、そして優しく土俵の外へと押し出すつもりだった。
彼女の必殺の決まり手、『駿河富士(するがふじ)・怒涛寄せ』!
山のようにどっしりと、そして荒れ狂う波のように力強く。
並の力士ならばその一撃で勝負は決まっていただろう。
だが。
天童ひなは並の力士ではなかった。
駿河のその山のような一撃が、ひなの華奢な体に触れるその寸前。
ひなの姿がふっと掻き消えた。
いや、違う。
消えたのではない。
常人には、もはや目で追うことすら不可能な神速。
まるで煙のように駿河のその力のベクトルからするりと抜け出したのだ。
「えっ!?」
駿河の驚愕の声。
自分の渾身の一撃が空を切る。
そして、そのがら空きになった自らの懐に。
あの小柄な悪魔が入り込んでいることに気づいた時には全てが終わっていた。
――第一の突き。
ひなのその小さな腰骨の先端が、まるで槍の穂先のように鋭く、駿河の右の太腿の付け根。その神経の束を的確に突き刺した。
「ひっ!?」
駿河の右足から力が抜ける。
――第二の突き。
体勢を崩した駿河のその無防備な股間。会陰(えいん)の一点を、ひなの腰が下から抉るように突き上げる。
「んぐっ!?」
快感ではない。ただ脳天を直接貫くかのような強烈な衝撃。
――そして第三の突き。
完全に前のめりになった駿河のその体の中心。子宮の入り口を。
ひなの最後の、そして最も冷徹な一撃が寸分の狂いもなく捉えた。
必殺奥義:『神速三点突き(しんそくさんてんづき)』
「ぎ……っ…」
駿河の口から、もはや喘ぎ声ですらない、ただ神経が焼き切れる悲鳴が漏れた。
そして、その体はまるで糸が切れた操り人形のようにどさりとその場に崩れ落ち、白目を剥き完全に意識を失った。
【試合時間:2秒88】
国技館は死んだ。
一万五千の観客も、協会の役員も、そして放送席の二人も。
誰もが今、目の前で何が行われたのか理解できず、ただ静まり返っていた。
試合ではない。
これはただの一方的な“解体”だった。
その静寂の中で、ひなは何事もなかったかのように土俵の隅に置いた自分のキャンディを拾い上げると、その包装紙をゆっくりと剥き始めた。
そして口に放り込むと、こう呟いた。
「あーあ。また、壊しちゃった」
そのあまりにも無邪気で、あまりにも残酷な一言が、静まり返った国技館にやけに大きく響き渡った。
絶頂川アナ:「……」
天知:「……」
放送席の二人も完全に沈黙している。
やがて天知が震える声でその沈黙を破った。
「…今、スロー再生で確認しました。あれは相撲ではない…。暗殺です。最初の一突きで足の運動神経を麻痺させた。次の一突きで脊髄に過剰な快感信号を送り、脳の防御機能をパニックに陥らせた。そして最後の一突きで…、骨盤神経叢(しんけいそう)を直接刺激し、自律神経を強制的にシャットダウンさせた…。相撲の試合ではありません。これは完璧な“外科手術”です」
そして、始まる地獄の『子種拝領の儀』。
行司の音無響は、その固く閉ざされた目の奥でこれまでにない恐怖と戦っていた。
ひなは退屈そうに土俵に横たわり、口の中ではキャンディをころころと転がしている。
響がその小さな体と結合する。
その瞬間、響の耳に流れ込んできたのは情欲のハーモニーではなかった。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)
あの不気味な振動音。
少女のその未成熟なはずの子宮が、まるで超高性能のエンジンがアイドリングするかのように重く、低く、そして禍々しく鳴動している。
響はまるで人間ではない何か未知の機械と交わっているかのような錯覚に陥った。
子種が放たれる。
だが、その生命の奔流は温かい肉の子宮に受け止められたのではない。
まるで冷たい機械にデータとして“スキャン”され、“取り込まれた”かのような無機質な感触だけがそこにはあった。
彼女の絶頂は、ただ「こくん」というスイッチが切れるような乾いた音だけだった。
儀式を終え、ひなは初体験だった痕跡を残しながらも、何事もなかったかのように立ち上がると、ぴょんぴょんとスキップしながら花道へと消えていった。
その一部始終を舞台裏のモニターで見ていた者たちがいた。
十六夜咲は、その顔を真っ青にし、本能的な恐怖に打ち震えている。
龍炎寺貴和子は、その常に冷静な女王の仮面に、初めて焦りと深く、深い警戒の色を浮かべている。
そして毒島りんは。
自らを“怪物”と信じていた毒婦は、画面の中の本物の“怪物”を前に、ただ呟くことしかできなかった。
「…なんだよ、あれは…」
マンコ相撲の歴史が動いた。
いや、“壊された”。
女神たちの祈りと愛の物語の、その美しいページは、たった一人の悪魔のような天才少女によって無残に引き裂かれたのだ。
国技館はもはや神聖な祈りの場ではない。
怪物が気まぐれに人間を弄ぶ“遊戯盤”へと変わってしまったのだった。