※この作品はR-18です。

マンコ相撲〜土俵際の乙女たち〜   作:ろくさん

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【第三十五話】 天下一番へ

季節は巡り、そして再び夏が来た。

 

ネオジャパンの全てがこの一ヶ月のためにあると言っても過言ではない熱狂の季節。

年に一度だけ開催されるマンコ相撲の最強決定トーナメント。

『天下一番(てんかいちばん)相撲会』。

その開催がついに全国に告知された。

 

絶頂川アナ:「きたきたきたきたキタァァァーーーッ! 全国の、一億二千万のマンコ相撲ファンの皆様、長らくお待たせいたしました! 今年の天下一番相撲会、その栄えある出場力士六十四名がついに決定いたしましたァ!」

 

天知:「…ええ。まさにオールスター戦。この一年間の集大成です。番付上位のシード選手はもちろんのこと、全国各地の予選を勝ち抜いてきた、まだ我々の知らない強者たちも、この両国国技館へと集結します」

 

その発表に日本中が沸き立った。

それぞれの場所で女神たちもまた、その運命の時が来たことを感じていた。

 

【十六夜部屋】

咲は、その体を極限まで絞り込んでいた。

もはやただのシンデレラではない。女王、毒婦、女帝、そして怪物。数多の強者たちとの戦いを経て、彼女の『渦潮』はその輝きをさらに増していた。

隣では、コーチであるりんがその仕上がり具合を満足げに眺めている。

「…いい顔になったじゃないの、サキ。今のあんたなら、あのクソガキにも勝てるわよ」

「…はい!」

咲の瞳には、もはや迷いも恐怖もない。ただ最強のライバルたちと再び戦えることへの喜びだけがあった。

そして、その胸の奥には一つの誓いを立てていた。

(…ひなちゃんをあたしが必ず救うんだ)

 

【龍炎寺部屋】

貴和子は、静かにその体を研ぎ澄ませていた。

彼女にとって今年の天下一番は、ただの防衛戦ではない。

愁と共に誓った協会の“大掃除”を成し遂げるための最後の戦場。

その気高い女王の瞳には、冷徹な革命家の炎が宿っていた。

その稽古相手を務めるのはアナスタシアだ。

「キワコ! その腰つきでは私には勝てんぞ! お前の“執念”とやらをもっと見せてみろ!」

「…ええ。あなたという最高の“壁”を超えずして、あの小娘たちには勝てないわね」

二人の国境を超えた友情が、互いをさらなる高みへと押し上げていた。

 

【天童ひなの中学校・部室】

ひなは相変わらず退屈だった。

授業も部活もクラスメイトとのおしゃべりも。その全てが彼女にとっては、あまりにも幼稚で退屈なお遊戯に過ぎなかった。

彼女の唯一の楽しみは。

放課後、一人部室に残り、タブレットで十六夜咲の過去の全ての試合映像を繰り返し、繰り返し見ることだけだった。

 

(…面白い)

ひなのその無感情な瞳が、ほんの少しだけ輝きを宿す。

(…この十六夜咲という生命体は面白い)

ひなのその規格外の頭脳は、咲のその戦いの中での“進化”の全てを完璧に理解していた。

最初はただの才能任せのまぐれ技。

それが女王との戦いを経て、意識的な“技”へと変わり。

そして毒婦との死闘の果てに、相手の“悪意”すら飲み込む“器”を手に入れた。

戦うたびに強くなる。

まるでロールプレイングゲームの主人公のように。

 

(…でも)

ひなの指が、タブレットの一時停止ボタンを押す。

画面には、咲が満面の笑みを浮かべている顔が映し出されていた。

(…その笑顔がムカつく)

ひなには理解できなかった。

なぜこの女は、こんな非効率で無駄の多い“戦い”を心の底から楽しんでいるのか。

なぜあんな弱くて汚い毒婦のような存在を赦すのか。

なぜあんな馬鹿みたいに笑っているのか。

その“感情”というあまりにも非合理なシステムエラーが、ひなの完璧な論理回路を苛立たせる。

 

(…壊してみたい)

 

その純粋な子供のような好奇心。

いや、それはもはや好奇心というより、“探究心”と“破壊衝動”に近かった。

この十六夜咲という興味深い生命サンプル。

その一番の特徴である、“心”という未知の臓器。

それに最大級の負荷をかけた時。

それがぐちゃぐちゃに壊れて悲鳴を上げた時。

この生命体は一体どんな“反応”を示すのだろうか。

 

ひなはタブレットの電源を切ると、静かに立ち上がった。

そして、次のトーナメントの組み合わせ表へと歩み寄る。

そこには、すでに彼女が勝ち進んだ先に待ち受ける対戦相手の名前が書かれていた。

 

【準々決勝(予定):十六夜 咲 vs 天童 ひな】

 

ひなは、その文字をその小さな指先でそっとなぞった。

そして、その無垢な唇に初めて悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「…早く、解剖させてよ」

 

その呟きは誰の耳にも届かない。

 

「…お姉さん」

 

世代交代の波ではない。

捕食者と被食者。

悪魔の探究心と聖母の母性。

二つの決して交わることのない摂理が、今土俵の上で激突しようとしていた。

 

 

─────────────────

絶頂川アナ(ナレーション):「年に一度のこの日のために! 全国各地で血の滲むような予選を勝ち抜いてきた猛者たち! そして、その頂点に君臨する番付上位の怪物たち! まさにオールスター! 今年の『天下一番相撲会』本戦に出場する栄光の幕内力士、四十二名のその序列がこれだ!」

 

【天下一番相撲会・幕内番付】

位      東       西

横綱     龍炎寺 貴和子  (空位)

大関     九重 凛     武蔵丸 響子

関脇     霧島 カレン   鳳凰山 エリカ

小結     愛内 きらら   毒島 りん

前頭筆頭   十六夜 咲    アナスタシア・イヴァノワ

前頭二枚目  矢倉 理詰    飛鳥川 怜奈

前頭三枚目  千代女      帝鋼 お郷

前頭四枚目  金剛寺 しのぶ  猫田 ミケ

前頭五枚目  曙 フミ     肥後 もっこす

前頭六枚目  鬼龍院 麗    朝霞 ひかり

前頭七枚目  蝶野 舞     大文字 くるみ

前頭八枚目  北斎 マリア   影縫 桔梗

前頭九枚目  若葉 かおり   愛宕 シズカ

前頭十枚目  日高 ユリ    摩周 サチ

前頭十一枚目 鈴鹿 すみれ   伊集院 あやめ

前頭十二枚目 駿河 メイ    浪花 きょうこ

前頭十三枚目 肥後 のぞみ   博多 むつみ

前頭十四枚目 出雲 めぐみ   陸奥 ほのか

前頭十五枚目 琉球 かなえ   天童 ひな

 

天知(ナレーション):「…まさに新旧入り乱れる予測不能な番付編成です。いくつかの注目点を解説しましょう」

 

注目点①:十六夜 咲、前頭筆頭への大抜擢

「先場所までの活躍が最大限に評価され、十六夜咲はついに大関・横綱と必ず対戦することになる前頭筆頭の地位まで上り詰めました。彼女がこの厳しい地位でどこまでその『渦潮』を通用させられるか。今大会の大きな鍵となるでしょう」

 

注目点②:異分子たちの上位進出

「“毒婦”毒島りん、“歌姫”愛内きららが小結に。“氷の女帝”アナスタシアが西の筆頭。そして、“科学者”矢倉理詰が前頭二枚目。昨年までの番付では考えられなかった異質な才能が完全に上位を席巻しています。伝統か、革新か。相撲の在り方そのものが問われる場所となるでしょう」

 

絶頂川アナ:「しかし、天知さん! 私、どうしても納得がいかない点が一つだけあります! なぜ! 先場所、あれだけの衝撃的な活躍で準決勝まで勝ち進んだ天童ひなが、番付据え置きの前頭十五枚目なのですか! これはどう見ても不当な評価ではありませんか!?」

 

絶頂川のその疑問は、日本中のファンが抱いていた疑問だった。天知はその問いに重々しく頷いた。

 

天知:「…絶頂川さんのおっしゃる通りです。十六夜関と同じく、彼女もまた大幅な昇進があってしかるべきでした。…ですが、これには二つの深い“理由”があると言われています」

 

天知はその指を一本立てる。

「まず、“公式の理由”。天童関は先場所、準々決勝で十六夜関に勝利した後、準決勝の対・横綱戦を『興味がない』という一言で棄権しているのです。番付編成委員会は、そのスポーツマンシップにあるまじき態度を問題視し、昇進を見送った。これが協会の公式見解です」

 

「な、なんと! あの夢の対・横綱戦を、興味がない、の一言で…!?」

 

「ええ。ですが、本当の理由は別にある、ともっぱらの噂です」

天知はその声を潜めた。

「…彼女のあの相手を“破壊”することのみを目的とした相撲。あれが協会の保守的な幹部たちの逆鱗に触れたのです。『あれは子を成すための神聖な国技への冒涜だ』と。つまり、この番付は、天童ひな、及び彼女が所属する黒百合部屋に対する、協会からの“見せしめ”であり、“懲罰”なのです」

 

その衝撃的な解説に、絶頂川は言葉を失う。だが、天知は静かに、そして恐ろしげに続けた。

 

「…ですが、それこそが彼女を今大会、最も危険な“爆弾”にしてしまいました。番付最下位ということは、つまり彼女はトーナメントの一回戦から登場するということ。運悪く優勝候補の誰かが初戦で彼女と当たってしまえば…。その優勝の夢は、たった三秒で木っ端微塵になるでしょう。彼女はもはや頂点を目指す挑戦者ではない。トーナメントの根幹そのものを破壊しかねない、あまりにも危険な“地雷”なのです」

 

絶頂川(ナレーション):「さあ、役者は揃った! 番付は決定した! 玉座に君臨する女王! その玉座を脅かすシンデレラたち! そして、その足元には全てを吹き飛ばす最凶の地雷が埋められている! 天下一番相撲会! その血戦の火蓋が今、切られる!」

 

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