【天下一番相撲会・一回戦】
その日、両国国技館は、もはやただの“熱狂”ではなかった。
年に一度、この国で最も強い“母”を決める神聖なる祭典。その最初の取り組みを見届けようと、一万五千の観客の期待と欲望が飽和し、爆発寸前のエネルギーとなって渦巻いていた。
絶頂川アナ:「きたきたきたきたキタァァァーーーッ! 全国の、一億二千万のマンコ相撲ファンの皆様、長らくお待たせいたしました! 今年の天下一番相撲会、その第一回戦、第一試合! まずはこの方の土俵入りです!」
東の花道からその女が静かに姿を現した瞬間。
館内の全ての空気が一瞬にして浄化された。
絶対王者、横綱・龍炎寺貴和子。
その神々しいまでのオーラを前に、観客はもはや野次を飛ばすことすら忘れ、ただ祈るようにその姿を見つめている。
絶頂川アナ:「対するは西の前頭五枚目! 九州が生んだ野生の豪傑、肥後もっこす! その圧倒的なパワーと、そして何よりあの有名な、お手入れを一切しない、『熊の毛皮(ベア・スキン)』と呼ばれるそのワイルドなスタイルで横綱に挑みます!」
天知:「…ええ。彼女のあのスタイルは単なる無精ではありません。相手に原始的な恐怖を植え付ける高度な心理戦術です。データ上でも23%の力士が、彼女のそのジャングルのような下半身を前に一瞬怯む、という結果が出ています」
だが。
「はっけよい、のこった!」
その声が響いた瞬間。
肥後もっこすのその野心の炎も、自慢の“毛皮”も、あまりにも絶対的な“存在”の前で儚く消え失せた。
貴和子は技を出すことすらなかった。
ただその挑戦者の全てを、その静かな女王の瞳で受け止めた。
その視線がぶつかった刹那。
挑戦者の体は、そのあまりにも巨大な格の違いを魂で理解してしまったのだ。
「あ…、あ…」
ただその神々しいまでのオーラに触れただけで、彼女の子宮は勝手に疼き、そしてひくひくと痙攣し、その戦意と共に全ての潮を噴き上げてその場に崩れ落ちた。
絶頂川アナ:「き、決まったァァァッ! 試合時間、わずか一秒! 横綱、その“神威(しんい)”だけで相手を絶頂させたァ!」
その女王が作り出した神聖な空気を。
優しく、そして温かく受け継いだのは、やはり俺たちのシンデレラだった。
絶頂川アナ:「さあ、そして東の前頭筆頭! 十六夜咲の登場だ! 今場所もその母性の渦潮で我々を幸福のどん底へと導いてくれるのか!」
咲の相手は勢いのある若手力士。序盤から激しい腰の応酬を仕掛けてくる。
だが、今の咲はもうその程度の嵐では少しも揺らがなかった。
彼女は、その全ての攻撃を完璧な『母性防御』で受け止め、そして吸収していく。
そして相手の体力が尽き、その動きが止まったその瞬間。
咲は優しく微笑むと、その疲弊した体を包み込むように穏やかな『渦潮』を放った。
相手力士は、そのあまりにも温かく、そしてあまりにも心地よい快感の奔流の中で、まるで母親の腕に抱かれる赤子のように安らかな絶頂の眠りへと落ちていった。
絶頂川アナ:「なんという慈愛に満ちた相撲! 相手を打ち負かすのではなく、その戦いの疲れを癒し、そして優しく寝かしつけた! これぞ聖母! 聖母の相撲だァ!」
天知:「…素晴らしい。彼女は、『渦潮』の出力を自在にコントロールしている。相手を破壊するためではなく、ただ勝利するために必要最小限の快感だけを与えている。…もはや達人の領域ですね」
女王と聖母。
この大会の二つの巨大な“光”が、その圧倒的な力と優しさで一回戦を危なげなく突破した。
だが、この穏やかな光の裏側で。
国技館は再び別の種類の“怪物”たちの饗宴に震えることになる。
龍炎寺貴和子と十六夜咲が、そのあまりにも絶対的な力と優しさで一回戦を突破した。
その温かな余韻に浸る観客たち。
だが、そんな平和な空気を一瞬で氷点下へと叩き落としたのは、やはりあの“怪物”だった。
絶頂川アナ:「さあ、続いては西の前頭十五枚目! あの史上最凶の天才、天童ひなの登場だ!」
観客席がざわ、とどよめく。
その対戦相手はなんと、あの“不落の城壁”の異名を持つ守備の達人、金剛寺しのぶ。
誰もが固唾をのんで見守った。
最強の“矛”と最強の“盾”。その宿命の対決。
だが。
「はっけよい、のこった!」
その結末はあまりにも一方的で、あまりにも残酷だった。
金剛寺は、その鉄壁の守りを固める。
だが、ひなはその鉄壁を正面から破ろうとはしなかった。
ただその周りをまるで観察するかのようにくるりと一周する。
そしてたった一ヶ所だけ存在する、その完璧な守備体形の構造上の“欠陥”を、その悪魔の頭脳で瞬時に見つけ出した。
(…なるほど。あんたの『万力締め』はここが基点なんだ)
ひなは、その無垢な唇に残酷な笑みを浮かべると、ただ一度だけその小さな腰を動かした。
それはもはや相撲の動きではなかった。
ただ一瞬。
相手の左の股関節の一点を、まるで針を刺すかのように的確に突いた。
決まり手:『因数分解(いんすうぶんかい)・関節外し』
ゴキッ、という嫌な音。
“不落の城壁”は、その土台となる一点を破壊され、まるで砂の城のようにあっけなく崩れ落ちた。
金剛寺は絶頂することもなく、ただその場に崩れ落ち、その外れた股関節の激痛に悲鳴を上げた。
ひなは、その無慈悲な光景に興味もなさそうにこう呟いた。
「…あんたのディフェンス、構造計算に致命的なミスがあるよ。時代遅れだね」
天知:「…彼女は、もはや相手を絶頂させることにも飽きてしまった、というのですか…。ただ自らの好奇心を満たすためだけに人体の構造を“実験”し、そして“破壊”している…。これはもはや相撲ではない。ただの悪魔の所業です…」
その怪物が作り出した恐怖の空気を、それぞれのやり方で塗り替えていく女神たち。
“氷の女帝”アナスタシアは、その圧倒的なパワーで相手の小手先の技を全て粉砕。まるで大人と子供の喧嘩のように一瞬でその体を土俵の外へと弾き飛ばした。
“歌姫”愛内きららは、その土俵を完全に自らのコンサートステージへと変貌させた。ファンの大合唱を力に変え、その華麗なダンスのような腰つきで相手を幸福の絶頂へと導き、勝利のウィンクを客席へと飛ばした。
“毒婦”毒島りんは、その狡猾さで相手の心の傷を的確に抉り、戦意を喪失させた上で、まるで虫けらを踏み潰すかのように一撃で仕留めた。
“科学者”矢倉理詰は、その完璧なデータ分析で相手の全ての行動を予測。まるで決められた筋書き通りの演劇のように、一分の狂いもなく相手を計算通りの絶頂へと導いた。
一回戦が終わった。
女王、聖母、怪物、女帝、歌姫、毒婦、科学者…。
全ての“役者”たちが、誰一人欠けることなく順当にその駒を二回戦へと進めていた。
それは誰もが予想した結果。
だが同時に誰もが理解していた。
本当の地獄はここから始まるのだ、と。
放送席で天知と絶頂川は、更新されたトーナメントの二回戦の組み合わせ表を見て、その顔を引きつらせていた。
絶頂川アナ:「こ、これは…! 天知さん! なんという組み合わせだ! 二回戦からいきなり怪物同士が潰し合う地獄のカードが目白押しじゃないですか!」
天知:「…ええ。一回戦はただのウォーミングアップに過ぎなかった、ということです。このトーナメントは最初からこの数名の怪物たちのためだけに用意された蠱毒(こどく)の器。…ここから先は一戦一戦が全て決勝戦です」
国技館は、これから始まる本当の“戦争”の予感に静かに、そして熱く打ち震えていた。