※この作品はR-18です。

マンコ相撲〜土俵際の乙女たち〜   作:ろくさん

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【第三十九話】 絶対王者 vs 最凶少女

 

【天下一番相撲会・準々決勝】

その日、両国国技館の全ての視線は、たった一つの取り組みに注がれていた。準々決勝、第四試合。東、横綱、龍炎寺貴和子。西、前頭十五枚目、天童ひな。誰もが待ち望み、そして誰もが恐れていた、新旧二人による“怪物”頂上決戦。

 

絶頂川アナ:「きたあああああああああああああああああああっ!ついにこの時がやってまいりました!この国のマンコ相撲の歴史の全てをその身に体現する、絶対王者、龍炎寺貴和子!その完璧な歴史をたった三秒で過去のものにしようとする、恐るべき十三歳の悪魔、天童ひな!世代交代の鐘は鳴らされるのか!それとも女王がそのあまりにも生意気な蕾を容赦なく踏み潰すのか!」

 

天知:「…どちらが勝つにせよ。この一番でマンコ相撲の“常識”は、完全に破壊されるでしょう。横綱の絶対的な“経験”と“格”。ひな関のその全ての常識を超越した“天才”と“合理性”。これはもはや相撲ではない。…“思想”と“思想”の代理戦争です」

 

土俵の上で二人は向かい合う。貴和子はいつものように静かで、そして美しい。その女王の瞳は、目の前の小さな挑戦者を値踏みするように見下ろしている。対するひな。彼女は、その絶対的な女王の威圧感を前にしても全く物怖じしない。それどころか、その無垢な唇に初めて心からの楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「…やっと遊んでくれるんだ」

 

ひなはそう呟くと、口の中で転がしていたキャンディをこり、と噛み砕いた。そしてその甘い欠片を飲み込むと、貴和子に向かってこう言い放った。

 

「ねえ、おっきいおばさん。邪魔だから、早くイってよ」

 

そのあまりにも不遜な挑戦状に、国技館が凍り付く。だが、貴和子のその美しい微笑みは崩れない。彼女は、ふふ、とその喉を鳴らすと、こう返した。

 

「…面白い小娘ね。その生意気な口がどこまで利けるか。このあたしの“器”の中で試してあげましょう」

 

「はっけよい、のこった!」

 

試合開始!先手を取ったのはひなだった。神速。だが、それはこれまでの相手をただ破壊するためだけの直線的な速さではない。貴和子のその絶対的な『万物吸引』の引力圏を避けるかのように。まるで惑星の周りを周回する彗星のように。変幻自在の軌道で貴和子の周りを舞い踊り始めたのだ!

 

絶頂川アナ:「速い!速すぎる!そして、なんだ、あの動きは!横綱の得意な正面からのぶつかり合いを完全に拒否している!まるで女王の手のひらの上で悪魔が遊んでいるかのようだ!」

 

貴和子は動かない。ただその目だけでひなの予測不能な動きを追っている。(…なるほど。あたしの“圧”が通用しない距離を完璧に維持している、というわけね。面白い)

 

やがてひなは、その高速の周回軌道の中から一瞬だけその牙を剥いた。それはもはや技ではなかった。ただひたすらに精密な“点”の攻撃。貴和子のその完璧な肉体の、ほんの僅かな神経の集中箇所を的確に突いてくる。チク、チク、と。まるで無数の針で全身を刺されるかのような不快で、しかし無視できないダメージ。

 

天知:「…これは…。横綱の巨大な戦艦のような肉体を正面から撃ち合うのではなく。その装甲の隙間を狙って的確にダメージを与え続ける、まるで魚雷のような戦術…!なんという合理性。そして、なんという悪意に満ちた戦い方だ…!」

 

貴和子のその完璧な女王の仮面に、初めてほんのわずかな苛立ちの色が浮かぶ。ひなは、その微細な感情の変化を見逃さなかった。(…かかった)ひなは、その小さな唇に残酷な笑みを浮かべると、ついにその本性を現した。

 

「…じゃあ、そろそろ第一段階、終了ね」

 

その言葉と共に。これまで女王の周りを周回していた彗星が、ついにその軌道を変え、母星へと牙を剥いた。神速。三つの残像を伴いながら、ひなのその小さな体が一直線に貴和子の懐へと飛び込んでくる。

 

新・決まり手:『完全魔球(パーフェクト・ピッチ)・三連星(トライスター)』!

 

それはあの戦慄の三秒殺をさらに進化させた必殺の連続攻撃。貴和子の体の重心を完璧にずらすための三つの腰つきが、ゼロコンマ一秒にも満たない時間の中で寸分の狂いもなく叩き込まれる!

 

絶頂川アナ:「きたあああああああ!ひなの、本命がきたぞ!あの神速の三点攻撃だ!女王はこれに対応できるのか!?」

 

並の力士ならば、その最初の一撃で意識を刈り取られていただろう。だが。龍炎寺貴和子は並の力士ではなかった。

 

「…遅いわね」

 

貴和子は、その神速の攻撃の嵐の中で静かに呟いた。彼女は目で追ってはいなかった。長年、この土俵の頂点に君臨し続けたその肉体が、細胞が、魂が。ひなのその動きの、さらに先を“予測”していたのだ。ひなの腰が動くその、さらにコンマ一秒前に。貴和子の腰が、ほんの数ミリだけ動く。それは攻撃を防ぐための動きではない。ただ、その神速の一撃の全ての威力を完璧に殺し、受け流すためだけの、神の領域の、“後の先”。

 

天知:「…信じられない…。ひな関の攻撃は完璧です。ですが、横綱は、その完璧な攻撃が来ることを“知って”いた。全ての攻撃の軌道を、その長年の経験と勘だけで読み切り、最小限の動きでいなしている…!これが、これこそが、データでは決して計ることのできない、“経験”という名の絶対的な力…!」

 

ひなの完璧なはずの数式が、初めて目の前で崩れ去っていく。(…なんで?)

(…あたしの完璧な攻撃が、当たらない…?)

 

初めての焦り。初めての混乱。そのほんの一瞬の心の揺らぎを、女王が見逃すはずもなかった。

 

「…捕まえたわ、小娘」

 

貴和子のその巨大で、そして温かい腰が。まるで暴れる子猫をその腕の中に抱きしめる母親のように。ひなのその小さな体を、完全にその支配下に捕らえていた。神速の天才がその翼をもがれ、初めて大地に引きずり下ろされた瞬間だった。

 

「いや!離せ!このおばさん!」

 

ひなは生まれて初めて、己の意のままにならないという現実に直面し、パニックに陥っていた。その小さな体で必死に暴れる。だが、貴和子のその母なる大地のような腰の前では、ただの無力な子供の癇癪に過ぎなかった。やがて、その大きな瞳からぽろぽろと悔し涙がこぼれ落ちる。

 

貴和子は、その泣きじゃくる天才少女をその腕の中で見下ろしながら、静かに、しかし凛とした声で言い放った。

 

「泣くんじゃないわ、小娘」

 

その声は不思議と優しかった。

 

「…これが、“横綱”の愛よ!」

 

その言葉と共に。貴和子は、その女王としての、そして一人の“母”としての全ての愛情と厳しさを込めて、その奥義を解き放った。『大一番・寄り切り絶頂』!それはもはやただの決まり手ではなかった。生意気な、しかし愛おしい我が子への、厳しく、そしてどこまでも深い、“お仕置き(体罰)”。ひなのその小さな体は、生まれて初めて経験する、あまりにも巨大で、あまりにも温かい快感の奔流に飲み込まれていく。それは彼女が知っていた、ただ相手を破壊するためだけの冷たい快感ではない。その魂ごと全てを包み込み、そしてその存在を肯定してくれるかのような絶対的な母性の快感だった。

 

「あ…、ああ…、あああああああああああああああっ!」

 

ひなは、その抗いがたい快感の中で、生まれて初めて本当の意味での“敗北”を知った。そして、その敗北が、決して冷たいものではない、ということも。

 

勝負あり。貴和子は、その場で泣きじゃくるひなを一瞥すると、静かに土俵の中央へと進み出た。絶対王者、準決勝進出。そのあまりにも絶対的な、そしてどこか母性を感じさせる強さに、国技館は万雷の拍手と歓声に包まれた。

 

ただ一人。土俵の下でその光景を見ていた十六夜咲だけが、その貴和子の横綱としての“愛”の本当の意味を理解し、静かにその決意を新たにしていた。

 

(…次は、あたしが、あの愛を受け止める…!)

 

史上最も生意気な天才少女は、その日、敗れた。だが、その魂には確かに、一つの新しい“種”が植え付けられたのだ。その種が、やがてどんな“花”を咲かせることになるのか。それはまだ誰も知らない。

 

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