※この作品はR-18です。

マンコ相撲〜土俵際の乙女たち〜   作:ろくさん

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【第四十一話】 渦潮、大瀑布を喰らう

 

十六夜咲は、その身にアナスタシアの全てを受け入れた。その圧倒的なパワーも、その気高い戦士の魂も、その全てを。彼女の体はもはやただの人間のものではない。ありとあらゆる奔流をその身に受け止め、そして静かに浄化する、“海”そのものへと変貌していた。

 

絶頂川アナ:「た、耐えている!十六夜咲!氷の女帝の、あの全てを破壊するはずだった、『大瀑布』を、その身一つで受け止めきっている!だが、しかし!防御だけでは勝てないぞ!」

 

その絶叫が響き渡った瞬間、咲はその顔を上げた。その顔には穏やかな聖母の笑みが浮かんでいる。そしてその唇が動いた。声にはなっていない。だがアナスタシアには、その言葉がはっきりと聞こえた。

 

(…ごちそうさま、でした)

 

その言葉を合図に、咲の体が光を放ち始めた。アナスタシアから吸収したその膨大なエネルギー。それが咲の体内で彼女自身の『渦潮』と融合し、核融合を起こし、全く別の、そして次元の違う、究極の“何か”へと生まれ変わろうとしていたのだ。

 

天知:「…い、いかん…。これはまずい…。センサーが振り切れている…!測定不能!彼女の体内から観測史上ありえないほどのエネルギー反応が発生している!もはや、これは決まり手などというレベルではない!“事象兵器”だ!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

咲の腰がゆっくりと、しかし星々を動かすかのような雄大なリズムで回転を始める。彼女が生み出したその渦は、もはやただの水の渦ではなかった。光と、闇と、快感と、魂がぐちゃぐちゃに混ざり合った銀河の渦。“宇宙の渦”そのものだった。

 

アナスタシアは戦慄した。逃れようとする。だが、無駄だ。彼女の体も魂も、もはやそのあまりにも巨大な引力圏から逃れることはできない。自分の放った力が何倍にもなって自分に返ってくる。その絶対的な絶望感。

 

絶頂川アナ:「ああ…!ああ…!神よ!我々は今、一体何を見せられているのだ!渦が、渦が国技館を、いや、この世界そのものを飲み込もうとしている!」

 

咲は、その渦の中心で静かにその腕を広げた。それはこれから全てを破壊する神の姿ではなかった。ただその全てを愛し、全てを赦し、そして全てを抱きしめる“母”の姿、そのものだった。そして彼女は、そのあまりにも巨大で、あまりにも美しい、究極の決まり手を解き放った。

 

究極奥義:『天之渦(あめのうず)』

 

全てを飲み込み、全てを浄化し、そして全てを新しい生命へと生まれ変わらせる、創生の渦。そのあまりにも神々しい光の津波が、今、氷の女帝、アナスタシアへと静かに、そして抗いようもなく押し寄せようとしていた。

 

全てを飲み込み、全てを浄化し、そして全てを新しい生命へと生まれ変わらせる、創生の渦。十六夜咲が、その魂の全てを懸けて解き放った究極奥義『天之渦(あめのうず)』。そのあまりにも神々しい光の津波が、氷の女帝、アナスタシア・イヴァノワのその完璧な肉体を静かに、そして抗いようもなく包み込んでいく。

 

アナスタシアの脳裏に、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡った。ただ最強の遺伝子を求め、最強の力を求め、己の全てをデータと論理だけに捧げてきた孤独な人生。だが。その彼女のモノクロームの世界を。咲から流れ込んでくるあまりにも温かく、そしてあまりにもカラフルな“感情”が塗り替えていく。

 

(…ああ。これが…)

 

アナスタシアは、その渦の中で感じていた。自分自身の、あの荒々しい『大瀑布』のパワーを。だが、それはもはやただの暴力の奔流ではなかった。咲のその母性によって“濾過”され、その全ての攻撃性が取り除かれ、ただ純粋な生命のエネルギーへと昇華されていた。そしてそれだけではない。咲の喜びも、悲しみも、そして彼女を応援する観客たちの熱狂も、全てが一つに溶け合った巨大な“愛”の奔流。そのあまりにも温かい光の中で、アナスタシアのその氷のように閉ざされていた心が、ゆっくりと溶かされていく。

 

(…これが、“生きる”ということ…)

 

論理ではない。データではない。ただ、誰かを想い、誰かと繋がり、そして共に泣き笑うこと。そのあまりにも非合理で、しかしあまりにも美しい、生命の輝き。

 

「あああああああああああああああああああああっ!」

 

アナスタシアの口から迸ったのは、敗北の絶叫ではなかった。生まれて初めて、本当の“愛”に触れた、その魂の歓喜の産声だった。彼女は、その生涯で最も幸福な絶頂の光の中で、涙を流しながらゆっくりと、その意識を手放した。その顔には、まるで聖母のように穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

渦が静まる。土俵の上には、ただ静寂だけが残されていた。勝負あり。アナスタシアはその場に倒れているが、その顔は満ち足りた幸福感に包まれている。咲は、その全てを出し尽くし、かろうじてその場に立っていた。

 

やがて咲は、ゆっくりとアナスタシアの元へと歩み寄り、その手を差し伸べた。アナスタシアはその手を借り、ゆっくりと身を起こす。そしてその涙に濡れた碧眼で、目の前の小さな、しかしあまりにも偉大な、“母”の顔を見つめた。

 

「…すごい…。サキ…」

 

アナスタシアは、その震える声で言った。「…あなたのその、“温かさ”。その、“海”。それこそが、この世界が本当に必要としているものだ」彼女は、その場にひざまずくと、咲に深々と頭を下げた。

 

「…お前が、ネオジャパンの、“母”になれ…」

 

そのあまりにも劇的な王位継承の宣言。国技館は、この日一番の感動と祝福の大歓声に包まれた。

 

絶頂川アナ:「ああ…!なんということでしょう!魂の継承です!世界の女帝が、日本の聖母にその未来を託した!今日この日、この土俵の上で、新たなる“神話”が誕生いたしましたァ!」

 

天知:「…私の全てのデータが過去のものとなりました。十六夜咲は、もはや変数ではない。…これからのマンコ相撲の全てを定義する、新しい“公理”そのものです」

 

そして始まる、『子種拝領の儀』。行司の月詠愁は、もはやただの勝者としてではない。新たなる“母神”へとその祈りを捧げる神官のように、咲の前に厳かにひざまずいた。その儀式は、ただひたすらに優しく、そしてどこまでも穏やかだった。愁から注がれる生命の種。咲は、それを自らのためだけではない、この世界の未来のために、その温かい海のような子宮へと確かに受け入れた。

 

儀式を終え、オーロラビジョンに更新されたトーナメント表が映し出される。ベスト4、その三つ目の一枠に、「十六夜 咲」の名が灯った。そしてその準決勝の組み合わせが発表された瞬間、国技館は感動のどよめきから一転、息をのむような緊張感に包まれた。

 

【準決勝 第一試合:東・横綱 龍炎寺 貴和子 vs 西・前頭二枚目 矢倉 理詰】

【準決勝 第二試合:東・前頭筆頭 十六夜 咲 vs 西・小結 毒島 りん】

 

絶頂川アナ:「決まったァァァッ!なんという、なんという、宿命の巡り合わせだ!準決勝の第二試合!先場所、あの壮絶な死闘を繰り広げた二人が、再びこの大舞台で激突します!聖母・十六夜咲と、闇から蘇った毒婦・毒島りん!因縁の再戦です!」

 

特別推薦枠から、その圧倒的な悪意と狡猾さだけでここまで勝ち上がってきた毒島りん。彼女は、準々決勝で強豪、愛内きららを、その魂を折るかの如き精神攻撃で下していた。その瞳には、もはや先場所の敗北の影はない。ただひたすらに冷たく、そして飢えた蛇の光だけが宿っていた。

 

天知:「…これは、十六夜関にとって最も過酷な試練となるでしょう。アナスタシア関との戦いは、純粋な力の比べ合いでした。ですが、毒島りんという力士は違う。彼女は、相手の心の一番柔らかい場所を的確に喰らいに来る。…先場所、一度はその“毒”を飲み込んだ十六夜関が、今度もまたその猛毒に耐えられるのか。…これは魂の強さが試される、一番です」

 

国技館のモニターに、準決勝へと駒を進めた四人の女神の顔が並ぶ。絶対的な女王。冷徹なる科学者。そして、光の聖母と、闇の毒婦。あまりにも対照的で、そしてあまりにも危険な四つの才能。天下一番相撲会は、ついにその最終局面へと突入しようとしていた。

 

この四人の中で、最後に立っているのは果たして誰なのか。その答えを知る者は、まだ誰もいない。

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