【天下一番相撲会・決勝戦 開始五分前】
両国国技館は、その歴史上、最も高い熱量に包まれていた。これから始まる決勝戦。絶対女王・龍炎寺貴和子と、聖母・十六夜咲。そのあまりにも神々しい頂上決戦を、一万五千の観客が固唾をのんで見守っている。
絶頂川アナ:「ああ…!ついにこの時が来てしまいました!長かったこの天下一番相撲会も、残すところあと一番!この国の本当の“母”が、今まさに決まろうとしています!」
だが、その華やかな光のステージのすぐ裏側。地下深く、薄暗い通路で全く別の戦いが始まろうとしていた。
【国技館・地下通路】
「…時間だ。始めなさい」
耳に装着した小型の無線機から、冷たい女の声が響く。それは全ての元凶、『黒百合部屋』の親方、黒百合乱からの最後の指令だった。黒い戦闘服に身を包んだ十数人の女たちが頷き合う。彼女たちは闇マンコ相撲の世界から金で雇われたプロのテロリスト集団。そのターゲットはただ一人。厳重な警備に守られた一番奥の控室。そこにいる“天覧行司”だった。
彼女たちは音もなく動き出す。控室を守る警備員たちを、その急所を的確に突く暗殺術で次々と無力化していく。そしてついに最後の扉の前にたどり着いた。だが。その扉の前に二人の男が静かに立ちはだかっていた。一人は特命調査官、月詠愁。そしてもう一人は盲目の行司、音無響だった。
「…やはり来たか。ドブネズミどもが」
愁が、そのスーツの内側に隠し持っていた特殊警棒を構える。響は、その手に愛用の尺八を握りしめ、静かに耳を澄ませていた。
「…聞こえるよ。お前たちの魂から発せられる不快な雑音(ノイズ)が」
テロリストのリーダー格の女が嘲笑う。「あらあら。イケメンが二人。あたしたちのおもちゃになりに来たのかい?」
「悪いが、お前たちのような下品な雌豚と遊んでいる時間はないんでね」
愁のその挑発を合図に、死闘の火蓋が切られた。愁は、その洗練された体術で次々と敵をいなしていく。響は、その超人的な聴覚で敵の全ての動きを予測し、その尺八を武器に、的確にその攻撃を捌いていく。二人は強い。だが、相手はプロのテロリスト集団。その数はあまりにも多かった。じりじりと、二人は追い詰められていく。
「…はあっ、はあっ…!」
愁の肩に鋭い痛みが走る。響のその美しい顔にも、無数の傷が刻まれていく。絶体絶命。リーダー格の女が下品に笑う。「終わりだよ、お坊ちゃんたち。あんたたちはここで、あたしたちの肉ディルドになるんだ!」
その絶望的な状況。だが、愁も響も、その瞳の光は消えてはいなかった。なぜなら、彼らは知っていたからだ。この戦場に駆けつける“本当の主役”が、誰であるかを。
その瞬間だった。
ゴッ!!!
という凄まじい破壊音と共に。テロリストの一人が、まるでダンプカーに撥ねられたかのように壁まで吹き飛んだ。
「…雑魚が。あたしの女王(クイーン)との稽古の邪魔をするんじゃないわ」
その絶対零度の声と共に現れたのは、氷の女帝、アナスタシア・イヴァノワ。その登場を皮切りに。その薄暗い地下通路は、一瞬にしてこの世で最も豪華で、そして最も危険なステージへと変貌した。
シュバッ!
一陣の風が吹いたかと思うと、二人のテロリストが呻き声を上げて崩れ落ちる。その中心にはいつの間にか一人の少女が立っていた。銀髪のツインテール。その口には棒付きキャンディ。天童ひな。彼女は退屈そうに呟いた。「…よわ。よわすぎ。時間の無駄」
「きゃは☆みんな、お待たせー!正義のヒロイン、愛内きらら、ただいま参上だよっ!」
天井の通気口から、まるでアイドルがステージに登場するかのように、きららが華麗に回転しながら降り立つ。
「…敵性戦力の分析、完了。勝率、97.8%。殲滅(せんめつ)を開始します」
物陰から静かに現れた矢倉理詰が、その眼鏡の位置を直した。
そして最後に。闇の中からぬるりと現れたその女は、その唇に残酷な笑みを浮かべていた。「あらあら。面白そうなおもちゃがいっぱいじゃないの。…あたしにも少し遊ばせてちょうだい?」毒島りん。
女王が率いる、ありえないはずの“怪物”たちのドリームチームが、今ここに結成されたのだ。
そこから先は、もはや戦いですらなかった。ただ一方的な“乱舞”だった。
アナスタシアは、その圧倒的なパワーでテロリストたちをまるでゴミのように吹き飛ばしていく。彼女の『ツンドラ・インパクト』は、もはや決まり手ではない。ただの破壊の鉄槌だ。
天童ひなは、その神速で戦場を駆け巡る。彼女は、もはや急所を突くことすら面倒くさがっていた。ただ、すれ違いざまに男のテロリストの股間を的確に蹴り上げるだけ。「ひんっ!?」という情けない悲鳴と共に男たちが次々と戦闘不能になっていく。そのあまりにも正確で、そしてあまりにも無慈悲な『金的(きんてき)』に、愁と響すらも思わず股間を抑えた。
愛内きららは、マイク代わりにどこからか取り出した鉄パイプを振り回し、歌い、踊り、そしてウィンクを飛ばす。「くらえ!きららの必殺!『魅惑のヘビーメタル・シャウト』!」その美貌と歌声に、テロリストたちは次々と戦意を喪失していく。
矢倉理詰は戦わない。ただその後方で、冷静に戦況を分析し、的確な指示を飛ばす完璧な司令塔だった。「アナスタシア、あなたの七時の方向、二名!筋肉の付き方からして右利き!左からの攻撃が有効です!」「ひな、次のターゲットの弱点は右膝の古傷!そこを狙いなさい!」「きららさん、あなたのファン層と被るタイプの顔の男が三時の方向に!ウィンクで落とせます!」
そしてその司令塔の完璧な指示の下。最後のとどめを刺すのが毒島りんの役目だった。アナスタシアが吹き飛ばし、ひなが無力化し、きららが幻惑したその獲物の息の根を。彼女は、その蛇のような腰つきで的確に、そして恍惚と仕留めていく。
それはもはやただの戦闘ではなかった。それぞれの個性が完璧に噛み合った、奇跡の“アンサンブル”。わずか数分後。そこには、無残に積み上げられたテロリストたちの山だけが残されていた。
静寂が戻った地下通路。愁は、その信じられない光景を前に呆然と立ち尽くしていた。その耳に装着したインカムから静かな声が聞こえる。『…済んだの、愁』龍炎寺貴和子の声だった。
愁は、目の前の“怪物”たちを見渡した。アナスタシアは、つまらなそうに欠伸をし。ひなは、すでにキャンディを舐め始め。きららは、汗で崩れたメイクを直し。理詰は、戦闘データをタブレットに入力し。りんは、倒した相手の体を品定めするように眺めている。あまりにもカオスで、そしてあまりにも頼もしい光景。
愁は、ふっと笑みを漏らすと、インカムに向かって答えた。「…ええ。貴和子さん。…道は開かれました」
その言葉を花道の入り口。その暗闇の中で聞いた貴和子は静かに頷いた。そして彼女は、その背後にいるはずの頼もしき怪物たちに絶対的な信頼を込めて、こう告げた。
「…土俵の外は、任せたわよ、あんたたち」
「あたしは、あたしの土俵(ステージ)で。このマンコ相負の“頂点”を制する!」
その言葉と共に。絶対女王、龍炎寺貴和子は、その身に全ての光を浴びて、決勝戦の土俵へと、その歩みを進めていった。その背後で、確かに仲間たちの絆が、この土俵を守っていることを信じて。最後の戦いが、今本当に始まろうとしていた。