あの歴史に残る『天下一番相撲会』から数週間後。新理事長となった龍炎寺貴和子の粋な計らいで、トーナメントを沸かせた上位力士一同は、慰労と親睦を兼ねて、山奥深くの秘湯郷へと招待された。都会の喧騒から遠く離れたその温泉旅館は、古き良き日本の風情がそのまま残っている静かな楽園…のはずだった。
「――当館に古くから伝わる、習わしでございます」
旅館の女将はしわくちゃの、しかし品のある笑顔でこう言い放った。「力士たるもの、湯船に浸かっているその瞬間も、決して鍛錬を怠ってはなりませぬ。すなわち、“入浴中も常に腰をぶつけ合うのが力士の嗜み”。お客様方も、どうぞご遠慮なさらず、思う存分、湯船の中でごっつぁんしちゃってくださいまし」
「「「「「はあ!?」」」」」
咲をはじめとする力士一同の素っ頓狂な声が、美しい檜造りのロビーに響き渡った。
【秘湯・大露天風呂『子宝の湯』】
こうしてその夜。美しい月明かりの下、湯けむりが立ち上る巨大な露天風呂は、世界で最も危険で、そして最も官能的な社交場と化していた。あちこちで乙女たちの悲鳴と嬌声が入り乱れる。
「きゃっ!」
「あ、ご、ごめんなさい、咲さん!今、足が滑ってしまって…!」
「う、ううん、大丈夫だよ!今のは事故だもんね!」
「…ふん。今の腰つき、なかなか見どころがあるじゃないの、そこのあんた」
「わざとだろ、ゴルァ!」
「あら、失礼。あなたのその熊の毛皮(ベア・スキン)が、あまりにも豊かだったので、つい魔が差してしまいましたわ」
「んだと、こら、アイドル崩れが!」
「やだ、こわーい!」
湯けむりの向こう側では、きららが肥後もっこすの尻に会心の一撃をお見舞いしたようだ。
そんなカオスな状況の中で。アナスタシアは一人、岩場に腰掛け、その完璧な肉体を月光浴させていた。そのあまりにも芸術的な尻の曲線美。それを見たきららが、嫉妬と憧憬の入り混じった瞳で呟く。
「…なんというヒップライン…。あの丸み、あの張り、そしてあの高さ…。一切の無駄がない。あれが世界の頂点(ワールドクラス)…!あたしなんて、まだまだお尻が青いわ…!」
そのすぐそばでは。理詰が、防水ケースに入れたスマホを片手に、湯の成分を分析していた。その無機質な声が響く。
「…なるほど。この温泉の泉質は、pH8.5の弱アルカリ性。含有されるメタケイ酸が、皮膚の角質を溶解させ、表皮の感受性を平常時より約12%向上させる効果が期待できます。つまり、この湯に浸かった後のセックスは、通常より1.12倍気持ちいい、という計算に…」
バシャアアアアアンッ!
そのあまりにも風情のない解説に、我慢の限界を超えたりんが、理詰の頭から盛大に湯をぶっかけた。
「…あんたは少し黙ってなさい!このデータの化け物が!風情がねえんだよ、風情が!」
「…感情的な行動。非合理的です」
眼鏡を濡らしながらも、理詰は表情一つ変えない。
咲は、そんなカオスな光景を「あはは」と笑いながら眺めていた。ふと隣を見ると、ひなが一人、ぷかぷかと湯に浮かんでいる。
「ひなちゃんも、気持ちいいね、お温泉」
「…別に。ただの地熱で温められたH₂O」
相変わらず素直じゃない。だがその時、ひなの足がぬるりとした岩の苔で滑った。
「わっ…!」
ひなのその小さな尻が、咲の太腿にこつん、と優しくぶつかる。ひなの顔がカッと真っ赤に染まった。そして顔を真っ赤にしたまま、バシャバシャと音を立てて湯の向こう側へと逃げていってしまった。そのあまりにも子供らしい反応に、咲はまた声を上げて笑った。
その全ての光景を。湯船の一番奥、特等席で。龍炎寺貴和子は、その手に日本酒の杯を浮かべながら満足げに見つめていた。その隣には、特別招待された撫子の姿も。
「…ふふ。まるで、女子校の修学旅行ですわね」
「…まったくだねぇ。どいつもこいつも元気なこった」
女王も聖母も怪物も毒婦もアイドルも科学者も。その全ての肩書を脱ぎ捨てて。ただの一人の“女”として笑い合う。湯けむりの中で繰り広げられる、ゆるくてエッチで、そして最高に幸福な女子たちのドタバタ劇。
彼女たちの戦いは終わった。そしてその戦いの先にある平和な未来が、今確かにここにあった。