『天下一番相撲会』が終わり、マンコ相撲協会が新体制へと移行して数ヶ月。協会公式データアナリストに就任した矢倉理詰は、その最初の仕事として、とんでもない企画書を新理事長、龍炎寺貴和子のデスクに提出した。
企画名:『マンコ相撲力士の潜在能力の科学的可視化に関する一考察』。要約すれば、「力士のパフォーマンス向上のため、一人一人の性感帯をマッピングし、その感度を数値化する」という、あまりにもマッドサイエンティストな内容だった。
常識的に考えれば即却下されるはずの、この変態的な企画。だが、貴和子は、その美しい唇に妖しい笑みを浮かべると、一言こう言った。
「…面白いじゃないの。採用よ」
こうして、協会の公式プロジェクトとして、史上最もエッチで最もクレイジーな身体測定の幕が切って落とされたのである。
【国技館・地下 特設測定ラボ】
その部屋は白一色だった。白い壁、白い床、そして中央に置かれた白い診察台のようなベッド。あまりにも無機質なその空間で、白衣を着た矢倉理詰は、その元・師匠である天知理の胸ぐらを掴んでいた。
「…だから、なぜ私がこんな破廉恥な実験に付き合わなければならないんだ、理詰!」
天知の悲痛な叫び。
「…師匠の協力が必要不可欠です。私の定量的なデータと、師匠のその“エロスへの芸術的見地”という定性的な評価。その二つが合わさって、初めてこの測定は完璧なものとなるのですから」
「私をただのエロ解説者みたいに言うのはやめんか!」
そんな師弟の茶番をよそに。最初の被験者が測定台へと上がる。天童ひなだった。
「…早く終わらせてよね。退屈だから」
ひなは、その小さな体に無数のセンサーを取り付けられながらも、相変わらず退屈そうにあくびをしている。測定が始まる。まず、刺激物A:“孔雀の羽”。理詰が、その羽の先端でひなのまだ固い蕾のような秘所をそっと撫でる。その瞬間、ひなの体がびくんっと跳ねた。
理詰は、その手元のタブレットの数値を確認する。「…被験者、天童ひな。刺激への初期反応速度、0.018秒。驚異的な数値です。ですが…」理詰は眉をひそめる。「…快感物質であるドーパミンの分泌量が基準値に達していない。快感の持続性に課題が残ります。これはもはや快感じゃなく、ただの脊髄反射ですね」
天知が横から口を挟む。「…い、いや、しかし、理詰!この刺激に対する無垢な反応!この初々しさこそがエロスなんだ!」
「…非科学的ですね」
理詰は一蹴すると、次の刺激物B:“電動歯ブラシ(弱)”を起動させた。
次に測定台へと上がったのは十六夜咲だった。
「ひゃっ…!あ、あの、理詰さん!そのセンサーはどこに…!?」
咲は、顔を真っ赤にしながらその身をよじっている。
「…動かないでください。正確なデータが取れません」
理詰が無表情で、刺激物A:“孔雀の羽”を咲の脇腹にそっと当てる。その瞬間だった。
「ひゃああああああああああああああああああああっ!?」
咲の口から絶叫が迸る。「だ、だめ!くすぐったい!くすぐったいですってば、あああああああ!」咲は、測定台の上で足をバタつかせ、身をよじり、もはや測定どころの騒ぎではなくなった。理詰のタブレットには、【測定不能(ERROR)】の文字が点滅している。
理詰は、その分厚い眼鏡の奥の瞳を心底うんざりしたように細めた。「…被験者、十六夜咲。過剰なくすぐったがり反応(ハイパー・ティックル・リフレックス)のため、測定不能。…失格です」
天知が、その光景になぜか満足げに頷く。「見たか、理詰!これこそが、“計算できない人間性”というものだ!君の冷たい科学は、この聖母の無垢な腋(わき)の前で無力なのだ!」
「…非科学的ですね」
そして最後に測定台へと上がったのは、絶対女王、龍炎寺貴和子だった。彼女はもはや少しも動じない。その顔には女王としての自信と、この奇妙な実験を楽しむかのような余裕の笑みさえ浮かんでいた。
測定が始まる。羽、電動歯ブラシ、氷、そして人肌に温められた最高級のこんにゃく。ありとあらゆる刺激が女王の体を襲う。だが、彼女は決して乱れない。理詰は、その手元のタブレットに表示されるあまりにも完璧なデータに戦慄していた。
「…すごい…。被験者、龍炎寺貴和子。全ての刺激に対し、理想的な反応曲線(レスポンス・カーブ)を描いています。潤滑液の分泌量、膣圧の上昇率、喘ぎ声の音階の安定性…。全ての項目で99点以上の高いアベレージ。…まさに、“感度の女王”」
天知が、その光景に恍惚の表情を浮かべる。「違う!データだけでは測れないエロスがそこにはあるんだ!この腰の震え!肌の紅潮!そしてあの気高い絶頂の瞬間の表情!これこそが芸術だ!」
「…非科学的ですね」
だがこの日、女王のその完璧な数値を、唯一上回った意外な力士が一人だけいた。それは、コーチとしてこの測定に立ち会っていた毒島りん。彼女は、その意外な結果に、ただフン、と鼻を鳴らした。
「…当たり前でしょ。あんたたち素人は、快感を“受ける”ことしか知らない。あたしは快感を、“与える”側のプロだ。相手を知り尽くすためには、まず、己の体の隅々までを知り尽くさなきゃいけないのよ」
「…あたしの体は、あんたたちのそれとは違う。神聖な子宮(てら)じゃない。相手を堕とすための、“兵器(ぶき)”なのさ」
そのあまりにも深淵なエロスの哲学。理詰は、そのデータを前に、初めて己の科学の限界を感じていた。女の体とは。エロスとは。なんと複雑で、なんと奥深いものなのだろうか。その答えのない問いの前で、天才科学者はただ立ち尽くすことしかできないでいた。