※この作品はR-18です。

マンコ相撲〜土俵際の乙女たち〜   作:ろくさん

61 / 67
【幕間】 野良猫とマンコ相撲

 

彼女には名前がなかった。誰もが彼女を“野良猫(のらねこ)”と呼んだ。昼の顔はごく普通の女子高生。夜の顔はスカートとパンツを脱いで、闇マンコ相撲のチャンピオン。そして時には金で雇われる冷徹な“刺客”。

 

そんなギリギリの日々。勝てば大金。だが負ければ…。

 

【とある日の敗北の夜】

その日、野良猫は負けた。ほんの一瞬の油断。それが命取りになった。彼女は、その契約通り、変態的な欲望を持つマネージャーの男の前に差し出された。

 

「…約束は約束だろ、野良猫。明日一日、お前は俺のオモチャだ」

 

男の下品な手が、その傷ついた体を弄り始める。「…好きにしなよ」野良猫は、ただ目を閉じた。抵抗はしない。それがこの世界のルール。男の指が、舌が、そして一物が、その体を蹂躙していく。だが、彼女の心はここにはない。ただひたすらに無心になる。これは罰。これは仕事。これは嵐が過ぎ去るのを待つだけの時間。彼女の体は、どんなに弄ばれても決して快感の声は上げなかった。その魂のない人形のような反応に、男はすぐに飽きて彼女を解放した。それが彼女なりの戦い方だった。

 

そんな日々が終わりを告げたのは、あの日。月詠愁という男の襲撃に失敗し、そして組織そのものが崩壊した、あの日だった。彼女は全てを失った。帰るべき場所も、生きるための目的も、そして戦うための理由さえも。

 

数日後の夜。冷たい雨が降る路地裏。野良猫はあてもなくさまよっていた。いつもの癖で、その制服のスカートとパンツを脱ぎ捨てて。下半身を丸出しにすることでしか、彼女は自分が自分であるということを確かめられなかったのだ。

 

その時だった。路地の向こうから一つの人影が現れた。それは男ではなかった。月明かりに照らし出されたそのシルエットは、あまりにも気高く、そしてあまりにも美しい、“女王”のそれだった。龍炎寺貴和子。しかも彼女は、その身に戦いの象徴である“まわし”を締めていた。

 

「…あなたね。闇の世界で飼われていたという、哀れな野良猫は」

 

貴和子のその静かな声が響く。野良猫は、その圧倒的な存在感を前に、ただ後ずさることしかできない。

 

「…見せてみなさい。その闇で培った牙とやらを」

 

それはあまりにも一方的な挑戦状。だが、野良猫の体は本能的に反応した。彼女は、その獣の本能のままに、目の前の女王へと襲いかかった。ドンッ!だが、その腰は貴和子のその山のように動かざる腰にいとも簡単に弾き返された。二合、三合と腰をぶつけ合う。だが、その度に野良猫は格の違いを思い知らされた。パワーも、テクニックも、そして何より“覚悟”が違いすぎる。

 

やがて貴和子は、その腰を引いた。

 

「…なるほどね。確かに光るものはある。だが、あまりにも荒々しく、そしてあまりにも悲しい相撲だわ」

 

貴和子は、その女王の瞳で野良猫を見下ろすと、こう言い放った。

 

「…お前の居場所はもうない。ならば、あたしの土俵に来なさい。そして、その光の土俵の上で、お前の犯してきた罪を、その相撲で償うのよ」

 

それはあまりにも無茶苦茶で、そしてあまりにも傲慢なスカウト。だが、野良猫のその乾ききった心に。その言葉はなぜか温かく響いた。

 

彼女は、その泥にまみれた顔を上げ、その唇に初めて小悪魔のような笑みを浮かべた。そして、こう答えた。

 

「…気持ち良く、なれるならイイよ」

 

こうして、野良猫は龍炎寺部屋の“飼い猫”となった。もちろん、その道は平坦ではなかった。神聖な土俵の作法に四苦八苦する毎日。朝稽古に寝坊し、貴和子にどやされる。ちゃんこ番をサボってつまみ食いをしているのが見つかり、アナスタシアに説教される。だが、彼女のその野生の勘と、闇で培った独特の相撲は、貴和子の指導の下で急速にその輝きを増していった。やがて彼女は、そのトリッキーで予測不能な戦いぶりで、観客を魅了する人気力士の一人となっていた。

 

彼女はもう野良猫ではない。龍炎寺貴和子という最高の飼い主に拾われた誇り高き“黒猫”。その鋭い爪と牙で、光の土俵の上位陣をかき乱す、新しいヒールの誕生だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。