それは、ある嵐の日の稽古中のことだった。バケツをひっくり返したような豪雨が、十六夜部屋の屋根を叩いている。土俵の上では、十六夜咲と毒島りんが激しい組稽古を行っていた。
「甘いわよ、サキ!その『渦潮』は優しすぎる!もっと相手の魂を削り取るくらいの気迫を込めなさい!」
「は、はい、りんコーチ!」
二人の腰が深く、そして激しく絡み合ったその瞬間。ピカッ!ゴロゴロゴロゴロ…ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッン。
ドッゴオオオオオオオオオオオン!!!
近くの木に雷が落ちたのか。凄まじい轟音と閃光が道場を包み込んだ。そしてその衝撃で、咲とりんの二人はその場で気を失ってしまった。
「…ん…」
「…いってぇ…」
二人が目を覚ます。まず咲が自分の手を見て固まった。(…あれ?あたしの手、こんなに色白かったっけ…?しかも、爪に黒いマニキュアが…)次にりんが自分の胸を見て絶句した。(…は?なんだ、このデカすぎる乳は…。あたしは、もっとこう、慎ましやかなはず…)
そして二人は、互いの顔を見て、その生涯で最大の悲鳴を上げた。
「「きゃあああああああああああああああああああっ!」」
「「あたし(わたくし)が、わたくし(あたし)になってるううううううううううううううううっ!」」
そう。雷の衝撃で、二人の心と体が完全に入れ替わってしまったのだ!
そこから先は地獄の始まりだった。元に戻る方法が見つかるまで、二人は互いのフリをして過ごすことになったのだが…。
【咲(中身は毒島)の場合】
「サキ!お茶が入ったわよ!」
「…チッ、かったりぃな。んなもん、自分で淹れろよ、クソババア」
「さ、咲…!?今なん
と…?」
「ああ?なんか文句あんのか?」
結果: 師匠である撫子が卒倒した。周りは、「咲ちゃんが反抗期に!?」と大パニック。
【毒島(中身は咲)の場合】
「りんコーチ!今日の稽古のメニューはどうしますか!」
「ひぃっ!す、すみません!わ、私なんかがメニューを決めていいのでしょうか!?」
「…は?コーチ、何言ってんすか?」
「ご、ごめんなさい!すみません!生きててすみません!」
結果: 弟子たちがドン引きした。周りは、「りんコーチが何かの罪を償っている!?」と大混乱。
咲(毒島)は、咲のその聖母のようなルックスを最大限に悪用した。天童ひなに近づくと、その頭を優しく撫でながら囁く。「ひなちゃんは、いい子ねぇ。もっとあたしに懐いていいのよ?」その聖母の顔でサディスティックな笑みを浮かべるそのギャップに、ひなは混乱し、顔を真っ赤にして逃げ出した。
毒島(咲)は、その元ヒールのいかつい見た目に全く慣れない。夜、風呂場で自分の(りんの)裸を見てしまい、「きゃあああああああ!刺激が強すぎますぅ!」と叫び、鼻血を出して倒れた。
そしてついに、運命の合同稽古の日がやってきた。二人は入れ替わったまま、組稽古をするハメになったのだ。
「…いくぜ、この偽物のあたしが!」
咲(毒島)は、咲の体でりんの鋭い腰つきを再現しようとする。だが。ドンッ!と腰をぶつけた瞬間。咲のそのあまりにも敏感な体に、これまで経験したことのない快感の電流が走った。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
りんの魂が絶叫する。(な、なんだ、この体は…!感じすぎる!ちょっと腰が擦れただけで脳みそが溶けそうだ!)彼女は気づいた。十六夜咲という力士の、その本当の“才能”の正体に。「マジかよ、この身体…最高じゃねえか!」彼女は、その悦びに完全に我を忘れた。
一方。
「ひぃん!む、無理ですぅ!」
毒島(咲)は、りんの体でいつもの『渦潮』を使おうとするが、全くうまくいかない。りんの体はパワー系。咲の繊細なテクニックには全くついてこれない。そして何より。「わ、私の身体じゃありえないくらい感じないんですぅ~!」彼女は、その感度の低さに絶望し、土俵の真ん中で大声で泣き出してしまった。
そのあまりにもカオスな光景。悦に入る聖母と、泣きじゃくる元ヒール。もう誰も止められない。
そのドタバタの末。二人はもつれ合い、そして同時に土俵の上で転んでしまった。その頭をゴチンッ!と強く打ち付けた瞬間。再び二人の体に電流が走った。
「「…………………はっ!」」
二人は目を覚ます。自分の手を見る。自分の体を見る。「「戻ったあああああああああああああああああああっ!」」
こうして、二人の奇妙な一日(?)は終わった。後日。咲の腰つきにほんの少しだけ、りんのような“毒”が加わり。りんの表情にほんの少しだけ、咲のような“優しさ”が宿るようになったのは、また別の、お話。